05 白の部屋①


 ………………………

 …………………

 …………

 ………


「体の調子はいかがですか適正者様?」


 突然声が頭に響いてきた。

 先ほどの薄まっていく中に聞こえた声とは完全に違い、普段聞くようなクリアな声の聞こえ方だ。

 唯一普段とは違うのは、僕へ向けられている呼び方。


 ……誰だ?


 目を開くと、真っ白な空間に二人の人影が見えた。


「目を覚ましたか、適性者君」


 僕にそう呼び掛けているのは白髪で見た目が若く、長い純白な服を着ている子ども。


「あなたは……?」


 うつぶせで倒れていた体を起こし、二つの人影の方を向く。

 この子……どこかで? 

 初対面のような気はしないが、どうなのだろうか。デジャブというやつなのか……?


「第四創造神、適性者様が驚いています」


「観測者君、いつまでたっても適性者君が起きないから心配していたのだが」


 小さい白髪の少年と話しているのは……スーツ姿の女性。


(あの格好、どこかで……)


 思い出そうとするが、何故か思い出せない。そもそも僕はなんでこんな所に……?

 今まで感じたことの無い記憶のぼやけ方。それも少し怖いほどの。


「意図的に一時的な記憶混濁をおこしている。まっさらな状態じゃないと理解してくれないからね」


「記憶混濁……?」


 混濁、文字の通りだ。確かに濁ってる。

 今の自分の頭の中を例えるなら、すりガラスのような半透明のフィルターに全ての記憶が隔離され、上手くアクセス出来ない状況――は分かりにくいな。


 シンプルにモヤがかかっている、でいいか。


 要するに、目の前に記憶があるのにその実態が分からない状況だってことだ。

 これが意図的に起こしたということなら……とりあえずは、気にしなくても良さそうだ。

 記憶のことはひとまず置いておくことにして、よく周りを見てみることにした。


 真っ白な空間に自分含め3人。

 スーツの女性は観測者といってたか? 純白のローブに身を包んでいるのは第四創造神……。創造神? 神様? 

 整理してみた上で色々突っ込みたいところがたくさんあったけど、それ以前に自分の状況理解をすることが大事だな。


「あの、ちょっといいですか?」


「「なんでしょう(なんだい)適性者様(君)」」


 おぉ、一気に……。


「……なんで、僕はここにいるんですか?」


「それは君が適性者だからだね」


 即答か。


「……えー、っと。いくつか質問していいですか?」


「いいよ」


「ここはどこで、適性者とはなにか。あなたたち二人はなにものなのか。僕はこれからどうされるのかを教えてください」


 質問を聞くと白髪の創造神は右手の指を3本立たせ、その指を折りながら答えていった。


「1、ここは白の部屋。2、適性者のことは創造神が定めた規則に則り、詳しくは言えない。3、僕は第四創造神。混乱しないように補足すると、適性者君が元居た世界は第一創造神によって作られた世界だ。それで、私には私が作った世界がある。適性者君がいた世界とは全く違うが」


 立てた指をすべて折って、回答は終えた。

 すると、近くに立っていた観測者に回答者が移り、同じように指を3本立て話し出した。


「1、第四創造神が言った回答通りです。2、私ども観測者も規則なので話すことはできません。3、私は、先程から何度か呼ばれていますが観測者です。それ以上でもそれ以下ではありません。4、これから適性者様には、第四創造神が造った世界に行ってもらいます」


「うんうん……え??」


 頭が今ので完全にパンクした。

 「家に送る」や「食事でも食べに」などのほんわかした回答は来ないとは思っていたけど、今の観測者さんの一言でこの状況を理解するつもりが、より一層訳がわからなくなってしまった。

 世界に行く、とは?


「ちょ、ちょっと……だけ、整理する時間をいただいてもよろしいでしょうか」


「ダメだ。もう時間がない。適性者君にはこれから君のことを決めてもらう」


 ピシャリと断られ、時間をもらおうと挙げていた手を真顔で降ろした。


(いや……ふつうさ、くれると思うんだけど)


 第四創造神からの返答に僕は深いため息をつき、どこまでも白い空間の上を見上げた。


 なんでこんなことになったんだ……? 

 僕が何かしたのか?


 ……悩んでいても思い出せないんだから話は始まらないか。


「……分かりました」


「じゃあこれから君のステータスとスキルとネームを決めていくよ」


「分かりま……せんでした」


 なんだそれは。

 ステータス、スキル……と言ったか?


「さすがに第四創造神の説明ではわからないと思いますので、説明しますね」


 横で聞いていた観測者が、ズイっと前に出てきた。

 不足していた大部分の説明してくれるみたいだ。


「適性者様がいた世界とは違い、これから転生する世界は自身の技術……。分かりやすく言いますと、速さ、力強さ、頭の良さ等が数値化されて見えるようになります。これは第一創造神が造った世界から着想を得て、取り入れ、アレンジした部分となります」


 そう言われて、椅子に座っている第四創造神がうんうんと頷いた。

 それを横目でみて、観測者は話を続けた。


「そして適性者様には、これからその世界で生きていく上で必要不可欠なスキルやステータスをご自身で設定していただくということです。もちろんスキルでわからないことがあればお聞きください」


「それは……じ、自分で決めるんですか?」


「はい、第一創造神が創られた地球というところでは、生まれ持った才能は生きていく上で見つけていくものと聞いています」


「そんなの、人生がもったいない」


 突然横から第四創造神が割って入ってくる白髪創造神。


「だから、僕が作った世界は基本的に自分が欲しい能力を選ばせるようにしている」


「それは、その世界に住まう人全員に?」


「いや、ここに来て決めることができるのは転生者の特権だ。創造神の勝手で世界を移動するんだからね」


 あっ、そこは勝手ってわかってるんだ。

 地球は自分の才能がどこで開花するかわからない。

 そもそも自分の才能が分からないまま死んでしまう人もいる。それに着目したのはいいことだと思う。

 ……なんで僕はこんなに上から目線に物事を考えてるのか分からないけど。


「僕の世界の住人は基本的に『ある身体的特徴』で才能を伸ばす方向がわかるようになっているのだけど、それでは職に偏りが生まれてしまうから、と最低限社会が回るようには乱数化させてだね。これがかなり難しかったんだ。だって、才能のないものを意図的に――」


「第四創造神、時間がせまってるのでは?」


「あー、そうだったな。説明し始めるとついつい語ってしまってね。あとは観測者と話し合い決めるといい」

 

 観測者と第四創造神に言われた説明である程度は理解できたが、まだまだ頭が追い付かないところがある。

 だが、時間の都合で質問の時間は確保できないであろうから、あと回しだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る