【HIDE LEVELING】転生者は咎人(トガビト)だと言われました〜転生者ってバレたら殺されるらしいから、実力を隠しながらレベルアップしていきます〜

久遠ノト

プロローグ

? 領土戦線

「とうとうこの時がやってきた……! 我々の領土を取り戻す時がやってきたのだ!!」


 胸部に大きな赤紋章が刻印された純白の鎧をつけている男が勇ましく叫んだ言葉。

 それに応じるように猛々しい声を上げ、その場の雰囲気を作りあげていく者達。

 

 これは、数十年前のお話。


 地球を元の世界だとするのなら、その世界は”異世界”と呼ぶのにふさわしい。

 後進な科学技術よりも発達した魔法が用いられるその世界では、人族ヒューマンの他にも多くの亜人種デミヒューマン達が共に暮らしていた。そしてまた、同様に彼らとは対を成すモノも世界には存在していた。

 魔物モンスターなる怪異な化物や、魔族と魔王などの強大な敵。

 一度は、かの有名な英雄たちによって滅ぼされたとされていたソレらが勢力を取り戻し、人界を脅かす存在として君臨していた。


 今となっては、土地の四分の三――南東、北東、北西――を3体の魔王が支配。

 亜人種達の生活圏は残った四分の一の南西の領土へ押し込まれている。

 脅かす、とはよく言った。この現状を知れば、誰もその言葉の否定はできないだろう。

 

 だが、よくあるファンタジーの世界の一つ。

 よくある、勇者が一党を率いて魔王を倒そうとする物語の設定。

 そう、この世界はなんの変哲もない世界の一つなのだ。

 

「我々の住む『第四地区』が何百年もの間、三体の魔王に支配され続けているのは誰でも知っていることだろう。だが、ここで一つおかしいことに気が付くべきだ。我々の領土を奪った蛮族が自らを魔の王だとおごっていることに、だ! 魔王? 魔物や魔族を統べる王だと!? その者の何が『王』であろうか! ただの傲慢で、強引に我々の領土侵犯をしている蛮族の頭目に過ぎないじゃないか!! 『王』は、この第四地区に人界の王だけで良い!! 魔王は王にあらず! そんな者達に支配された自分らの領土を取り返さずして、どうやって愛国心を語るか! どうやって胸を張って生きれるだろうか!」


 魔王に領土を奪われてから、どういった形であれ必然的に人口は減って行った。

 つまりは、狭い領土に住めるように最適化がされた、ということだ。

 それを惨めだと思わないハズがない。

 だが、圧倒的な三体の魔王軍に勝てる見込みは薄い。

 彼らの中で――言葉には決してしないが――数が減った我々が先人達が勝てなかった敵に勝てるだろうか、という思いがあった。


 しかし、彼らは絶望はしていなかった。


 領土の四分の三が魔王に支配をされていたとしても、まだ、自分たちは生きている。

 そうだ、数百年前に魔王を倒した英雄たちは、たった一つのパーティーが魔王を倒してみせたではないか!

 我々でも、できるかもしれない。

 できるという可能性は、ゼロではない。


 数百年前に魔王を倒した英雄の様に、と立ち上がった者達――広場に集まった者達。

 彼らは『ARCUS』と呼ばれる世界の『第四地区』に住まう、奪われた領土を取り戻すために『領土戦線』に参加する有志達だ。

 壇上で話す白鎧の言葉。言葉遊び、とは感じる。だが、これが、なかなかどうして彼らの士気は高まっていった。


「この狭い土地で窮屈な思いをするのは懲り懲りだ!! 今回こそ蛮族の頭を引き摺り下ろして、勢力拡大の為の大きな一撃を与えようじゃないか!!」


 男の勇ましい声に共鳴するように、広場全体が今から戦争でも始めるのかと思えるほど闘争心で満ち溢れていく。



 ◆◇◆



 しかし、威勢だけでは解決できないことがほとんど。

 力量はどうだ。この場に集った者たちの戦力は如何様のものだ。

 ぐるりと見回してみれば、所狭しといる者達の多くは、国兵や冒険者、傭兵。

 言い方を考えずに言ってしまえば、雑兵の類。彼らでは魔王の首どころか、魔族の首すらも持ち帰ることは難しい。

 で、あるならば、この領土戦線は失敗に終わってしまうのではないか。


 壇上に上がっている白鎧の男は、ついと後方で静観をしているいくつかの集団に目を向けた。

 

 いや。注目すべきはそこではない。

 右奥には、上位冒険者で構成された協会。

 左奥には、自分と同じような鎧を付けている(と見栄を張るが、実際の耐久力は段違いの)聖教会の錚々たる顔ぶれが点々と。

 そして、男の後ろには王国の将官達が同じ紋章を付けて話を聞いている。

 彼らは、一騎当千の剣であり、死灰に火を焼べることができる強者達だ。

 

 そしてまた、男は広場の中央へと目を戻した。

 

 雑兵と括った彼らがいなければ、強者達の負担が大きくなってしまう。

 増強の戦力を努めながら、負担軽減としての活躍を期待される。

 そうだ。彼らもまた、必要な存在であるのは間違いない。

 士気も上々。戦力も上等であることが分かった。


 ならば、さらに大きな戦力の紹介をしようではないか。


「そんな英雄候補のお前らに吉報があるッ!! 『勇者』、『賢者』と並んだ新たな称号Ⅰ持ちインファンテの存在を我々は突き止めた!!」


 そう言うと、白い鎧の男は細長い四角柱状の拡声器を後ろから入れ替わりで出てきた数十名の若い男女に渡した。

 彼らは一見すると、録に防具を身につけていないしひょろっとした見なりで、集まった者達を見下すような鼻にかけた表情をしているから『没落貴族』のようであった。

 しかし、その集団の中から出てきた赤髪の二十歳もいっていない青年が言った言葉で、その印象は改められることになる。


「――初めまして皆さん。俺達はこの世界を救うために異世界からやってきた転生者です」


 青年達の目下はザワザワと揺れた。

 それもそのはず、この世界に住む者の中で『転生者』というのは御伽噺おとぎばなしで聞いたことがある程度。


 圧倒的な力を有し、異世界からやってくる者――転生者。


 その場にいる者達は彼らの戦線参加に、思わず口がほころんだ。

 転生者たちの参加は、士気が頂点に達すのには十分すぎる一撃。

 彼らがいなくとも、英雄になれる逸材がこの場には大勢いた。それだけでも、十分に勝機はあったというのに――……。 


「「「ウオオオオォォォォォオ!!!!」」」


 歓声。

 その中には既に勝利を確信したのか、ガッツポーズをしている者すらも見える。

 領土戦線は、言わずもがな『ARCUS第四地区』の総力を挙げての大規模戦線だ。失敗は許されない。

 だが、何故だろうか、この面々がいれば失敗する気持ちが湧いてくる気さえしない。

 これでやっと自分達の領土が返ってくる。時代が変わる瞬間をこの目で見れるのだ、と誰かが興奮した様子で声に出した。


 ──果たして、本当にそうであろうか。

 

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