赤い老婆
風の
塔の天辺に赤い老婆がいる。髪も肌も両眼も、セーターからほつれた糸の、その隅々までも、どこまでも赤い。───それは月の血。裂かれた月の血の
赤い老婆の言の葉は、君の
(Hung up.)
(Rebooted.)
………────。
赤い老婆の赤い舌が、器用に夜の闇を舐める。老婆が舐めたその跡は、欲望のように赤く、絶望のように深い。「ハレルヤ、闇の老婆!」。ピエロが叫ぶと、
赤い老婆を見ていた者達の中に、「死は生きている」とポツリと呟く男が一人。翼をはためかせた夢は七色の
ピエロの指先がタンバリンをしゃらしゃら鳴らすと、赤い老婆の
君の肌に、赤い海がザクリと食い込んでくる。辺りには、胸を一突きされてそのまま腐った勇気の
すると、赤い海の中から仰ぎ見る赤い闇に、青白い光が、すうっと。ゆらゆら。
赤い海に埋もれた塔の天辺に、もはや赤い老婆の姿はない。君は、
眼前に漂ってきたものは、他でもない。君の母の亡骸だ!(嗚呼、一体これはどうしたことか!) 想い出と混乱が同時にハッと目を覚まし、さめざめと哭く赤い君。「母よ!……我が母よ!!!」。すると亡骸は、
(Hung up.)
風の刃が、幾つ目かの檸檬の月を激しく裂いた。相変わらず、雲は足を速めて退散したものらしい。
塔の天辺には、今も赤い老婆がいる。「母よ!……我が母よ!!!」と、あらん限りの声で叫ぶ、哀しき赤い老婆がいる。髪も肌も両眼も、セーターからほつれた糸の、その隅々までも、どこまでも赤い。───それは月の血。裂かれた月の血の所為である。
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