シャーレの中の彼女

あんぜ

プロローグ

「やっと帰ってくることができたよ――――」


 軽い眩暈と共に意識を取り戻すと、しばらくぶりに見る懐かしい場所。


 奥には黒板があり、整然と並ぶ机。


 左側から差し込む外の光。教室にしては少し薄暗い。


 並ぶ机もまた、教室とは違う大きな机。何人かで使うような大きな机。


 今ではほとんど使われることのない昔の学校の名残、旧校舎の理科実験室。



 学生服を着ていた。――懐かしいな――独特の袖や襟首の感触にそんな風に思う。

 少し前までは嫌いな感触だったのに。



 いちばん前の机まで歩く。


 机の上には蓋の無いシャーレがひとつ。中には赤い液体。


 そこにあるのが当前かのように近づき、手に取る。


 シャーレの中の赤い液体は滑らかで、乾くこともなく零れることもない。



 まだ希望が絶たれたわけじゃない。

 だけどもうこれだけしかない。


 シャーレの中の彼女




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