お客様は多種多様

 猫のタムがお客様の膝の上でゴロゴロしている。タムはかなりの甘えん坊。猫トイレの掃除を始める前に必ずだっこの要求をしてくる。普段からお膝に乗ってくることが多い。その甘えっぷりはお客様に対しても同じ。しかし今日のお客様は鳥みたいな翼がある有翼族だ。鳥と猫の関係に思えるのだけど大丈夫かな?


 この世界では種族の壁はほとんどない。特にこの国ではなおさら。色々な種族の方が居て、たくさんの方が住んでいる。珍しい種族も中にはいる。特に彼女は手の代わりに翼が生えている。不便ではないとのことだけど。


 来店時はとても心配でお店の子たちが襲わないかと思い、失礼ながらお客様に確認をした。しかしそんな心配はよそに彼女は物怖じせず猫エリアへ入り慣れた様子で猫と接していた。


「あの……猫はなんともないんでしょうか……?」


「はい。全然大丈夫です。周りからも心配されますが私は一度も襲われたことがないんですよ」


「へぇ! そうなんですね! よかったです。ゆっくり楽しんでくださいね」


「はい。ありがとうございます」


 よかったよかった。しかし……いま"私は"と言っていなかったかな……? 少し気になったがこれ以上は触れてはいけない気がしたので聞かないことにした。とても満足してもらえたようでまた来ます。と言ってくれた。他の種族の方への反応も気になるとこ……。


「オーナーお疲れさまです」


「ナナさん。おつかれさまです」


「お客さんたくさん来てくれたわね」


「そうですね。みなさま可愛らしい猫ちゃんたちに夢中になってました」


「ふふ、そうね。お客様はみんな帰られたし今日はおしまいにしましょうか」


「はい」


 猫のお世話をして閉店作業をして二人でお店の裏にある自宅へ向かう。扉をあけると声をかけられた。


「紬さん、ナナさん、お食事の用意ができています」


 声をかけてきたのは住み込みで家事などをしてくれているシルフィ。ブラウニーと呼ばれる精霊。この家にずっと昔からここに住んでいる。家事をするのが得意で住むかわりに奉仕するらしい。たまに銀貨をあげるようにしている。大家さんに言われたからだ。


「いつもありがとうね」


「いえ。これが私の仕事ですし、ここに住んでいる理由ですから」


 と次の家事へ向かっていってしまった。


 ナナさんと食卓につく。彼女は魔法生命体だが形式上ごはんを食べることができる。なのでなるべく一緒に食べることにしている。


「そういえばナナさん。今日のお客様。有翼族? というのかしら? この国には様々な種族がいるよね?」


「ええ。そうですね。多種多様で私にもどれだけの種族がいるかまでは把握できておりません。有翼族、エルフ、ドワーフ、獣人。これは猫科や犬科など細かく分かれますね。シルフィさんのような精霊もいますし、ケット・シー様も精霊ですね。私のような魔法生命体もいますし、もちろん人もいますね。そうそう、ドラゴンなど大型の種族は人型になっている方もいらっしゃいますね。スライムなども人型になりますね」 


「王宮にも勤めているから多いですよね。国王は本当に偏見差別のない人だよね。色々な方と知り合ってみたいな……。あ、そういえば有翼族の方。鳥みたいな感覚なんだけど猫になれてたよね」


「そうですね。少しドキドキしてみてました」


「ナナさんもかー。どうなのかなと思ったけど、あれだけ触れ合えるなんて本当に不思議。うちの子たちを引き取りたい気持ちはあったみたいだけど家族が絶対無理だから。って諦めていたわね。仕方ないと思うけど」


「そうですね。彼女はよくてもご家族が襲われる可能性がありますからね」


「ですね。彼女にはぜひ常連になっていただけると嬉しいですね」


 そういうといつの間にか足もとに来ていたロコを抱き上げる。うちには日本からきた猫と、この国で保護した猫を数匹飼っている。ちなみに私の膝の上にはカルシファーとポン太が乗っているふたりとも大きなキジトラ猫。重度の甘えん坊でいつも乗ってくるのだけどとにかく重い。寝ているときに布団の上、胸のあたりに乗るので死にそうになる。でもこのふたりは仲がいいので大丈夫。あやめやふーちゃんという子たちは独占欲が強く、自分が乗ってるときに他の子がくると猫パンチを出す。威嚇のように大声を出しながら。こっちも殴られるし声の大きさに心臓も悪いのでもうちょっと落ち着いてほしい……。しかし猫を抱いていると眠くなる……。


「だめだ。そろそろ寝る準備するね」


 ナナさんとシルフィにそう告げて猫のお世話と身支度をしてお布団に入ると。当然猫たちも集まる。今日は無事に寝れますように。おやすみなさい。




……。




……。




……。




 ダダダダッ。バリバリッ。「アオーン。アオーン」ドンッ! ダダダダッ! ドスッ! 




 「ぐふっ」




誰が勢いよくおなかに飛び乗った……。気を失うように猫たちの運動会の音を聞きながら落ちた。






 ★登場人物


 有翼族の人:猫好き。他の家族は猫に襲われるらしい。


 シルフィ:ブラウニーという精霊。紬の自宅に住んでいる。家事をしてくれる。


 飼い猫:ロコ(ナナさんの飼い猫)、カルシファー、ポン太、あやめ、ふーちゃん

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る