公衆電話
私はその日もいつも通り大学から帰宅していました。
時刻は夜の10時くらいだったと思います。
夜道には街灯がポツポツとしか点いていませんでした。
歩いているうちに前方の街灯の光が届かないところに何かいることに気づきました。
よく見てみると人が倒れているようでした。
「大丈夫ですか?」
声をかけてみますが返事はありません。
近づいてみるとやはり人でした。
どうやら意識を失っているようです。
とりあえずこのまま放っておくわけにもいかないと思い、近くの病院へ運ぶことにしました。
しかし、意識を失った人を運ぶというのはなかなか大変で、私一人ではとてもじゃないけど無理だと思いました。
そこで救急車を呼ぼうと思ったのですが、あいにく携帯電話を持っておらず、公衆電話を探して病院に連絡したところ、すでに閉まっていると言われてしまいました。
仕方なく家まで運んで行くことにしたのですが、意識のない人間一人を背負って歩くのは想像以上に大変な作業でした。
なんとか家にたどり着き、ベッドの上に寝かせて布団をかけたあとも、しばらく看病をしなくてはならなかったため、とても疲れました。
次の日の朝になり、昨日の人は目を覚ましていました。
「おはようございます」
私が挨拶すると彼は驚いた表情を見せました。
そしてすぐに立ち上がってどこかへ行こうとしました。
「待ってください!どこに行くんですか!?」
そう尋ねると、彼はこう言いました。
「俺は昨日の夜中にお前の家に忍び込んだんだ!」
「えっ……?どういうことですか?」
訳がわからず戸惑っていると、彼が続けて話し始めました。
「だから俺が気絶していたふりをしていれば簡単に連れ出せると思って……。でもまさか本当に助けてくれるとは思わなかったよ……」
つまり彼は私を誘拐するために嘘をついていたということになります。「どうしてそんなことをしたんですか?」
「それは……金が必要だったんだよ」
彼はそう言って財布を取り出しました。
中を見るとお金がほとんど入っていません。
「これじゃあ生活できないだろ?だからどうしても金が必要になったんだ」
確かに彼の言う通りです。
お金がなければ生きていけません。
でもそのために関係のない人を騙していいはずがないと思うのです。
「なんでこんなことをするんですか?」
「仕方なかったんだよ!他に方法がなかったんだ!お前だって家族がいるだろう?もし自分が急にいなくなったりしたら心配かけるじゃないか!」
確かに家族はいますが、突然行方不明になったりすることなんてまずありえないでしょう。
それに私には彼と違って頼れる友人がたくさんいます。
それなのになぜ自分だけ犠牲になろうとするのか理解できませんでした。
結局その後警察に通報し、彼は逮捕されました。
ニュースでは大学生だと報道されていましたが、実際は30歳くらいの男性だったらしいです。
今でもたまに思い出すことがあります。
あの晩の出来事を……。
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