story box of people

醍醐潤

story box of people

 この人たちは一体、どこへ向かっているのだろう。


 朝のラッシュ時で非常に混み合った車内。私は、車内を見回してそう思った。


 全員がただ、自分のことだけに没頭していて、周りのことなど見えていない。


 運営管理の本を読むサラリーマンと思しき男性、スマホを見ている若い女性、腕時計を気にする初老の男性など──全員、たまたまこの電車の同じ車両に乗り合わせただけのまさしく赤の他人。


 名前はもちろん、どこに住んでいて、何をしているのかも、知っているはずがない。そして、電車を降りる時、その顔さえも覚えていないだろう。


 しかし、この人たちは物語の主人公なのだ。それぞれのドラマの主人公。


 ストレスを抱えながらも家族のために今日も頑張るお父さん、仲間と別れて新たな地へと進もうとする青年、これから大切な人に会いに行く老紳士──全員、何かのストーリーを持って生きている。


 そして、私もそのストーリーを持つ一人なのだ。


 長い銀色の箱は、沢山の物語を乗せて、今日も街を走る。

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