大人達の悪ノリ=最強(?)武器
誰かに頭を撫でられる感覚がして目を開けた。
「キース様。おはようございます。」
「シーラ?」
目を開けると空と同じ色の髪と鮮やかなマゼンタの瞳が視界にうつった。
「はい。あなたの婚約者のシーラです。学園が終わったので来てみました。」
夢、ってわけじゃないらしい。後頭部に感じる、弾力のある柔らかな感触と、シーラを見上げると視界に映る二つの山が、現実だと突きつけてきた。膝枕は絶景……なんて考えながら、俺の頭にはクエスチョンマークがいくつも浮かんだ。
「学園が終わった…?」
確か、10時ぐらいにインフィのところに行ったはずだ。学園が終わる時間は、2時。貴族は午後からお茶会を開くことが多いため、前世の学校よりは授業を詰めない。学園から王宮までは馬車で30分弱。今は早くて2時半ってことか? 軽く4時間ちょっとは寝ていたことになる。俺が外で爆睡するなんて相当だな。
「はい。今は午後の3時ですわ。いつもならティータイムの開始時刻です。」
おそらく、シーラは学園を出てすぐに王宮に来てくれたんだろう。俺を探す時間も含めれば、今が3時なのはおかしくない。
「もうそんな時間なのか。寝過ぎたな……」
「ここ最近ずっと魔道具の調整してましたものね。睡眠を取らないのはお体に悪いですよ?」
疲労耐性があるからって無理したみたいだ。シーラが若干むくれている。謝る意味も込めて、シーラの頬を撫でた。
「ごめん。無茶したっぽいな。」
「今回は双子のことがありましたから、仕方ないですけど、気をつけてくださいね?」
双子が俺の部下になった。しかし、竜王族のユグドラたちやフェンリル族のリーズロットたちが住んでる離宮、そして、その離宮の付近にある庭までしか自由に行き来できない。理由は、魔道具の調整・改良した後じゃないと騎士達を混乱させるからだ。そうならないため、そして、双子達を守るためにもしばらくは行動を制限させてもらった。それに、竜王族とフェンリル族に見張られてるから王宮側は安全だと思うし、双子にとっても自分を守るための砦にもなる。
「うん。わかった。」
「はい。それでは、双子達の様子を見に行きましょう。気になっていますよね?」
「そうなんだよ。一応、竜王族もフェンリルも警戒心が強いからさ。心配してたんだよ。」
本当は午前中、インフィに会った後に様子を見に行く予定だった。一応、竜王族もフェンリル族も、魔族は嫌いだからな。双子たちは馴染めていない可能性もあった。俺の部下になるなら、馴染んで欲しいところではあるんだけど、因縁とはそうはいかないしなぁ。二週間も放置してた俺がいうのもなんだけどさ。
「では、その後のお時間を少しいただけませんか?」
「え? あぁ、うん。双子に会った後はドルトン達夫婦に会うため城下町に行く予定だけど、そのあとでも良い?」
シーラからデートのお誘い?は珍しい。大体は俺が真っ先に約束を取り付けるし。だから、嬉しい。今すぐにでも飛び出したいところだが、ドルトンとメリッサの様子も見ておきたかった。
「というより、ご一緒にドルトン夫妻に会いに行こうとお誘いしようと思っていたんです。」
「そうなんだ。それなら一緒に行こうか。」
「はい。」
シーラがなぜドルトン達のところへ誘ったのかはわからないけど、目的地が同じなら、断る理由はないな。俺の腹の上でいまだに寝ているスリアルとリーベルティを撫でながら起こして、見張ってくれていたインフィと一緒にみんなで離宮に向かった。どんだけギスギスしてるのか、戦々恐々と入ったは良いものの、酒を酌み交わすほど馴染んでいたらしく、つか真っ昼間から飲んでいたユグドラに双子たちが酔い潰されていた。俺は、瞬時に状況を理解して、スリアル達を中に入れてから扉をそっ閉じしたのだった。
次に訪れたのは、王家御用達の鍛治師がいる城下町の工房だ。俺がいない間にそっちに移動して、俺やセスたちの武器を作ってくれた鍛治師の親方、ガイザーと意気投合したとか。
「親方っているー?」
「ん? 殿下たちじゃないっすか! 待ってくださいね、親方は今奥にいるんで、呼んできます!」
馴染みの武器屋に入ると鍛治師見習いの少年が一人だけいた。客はいないらしい。それなら好都合だと思って、親方を呼んできてもらった。裏でドルトンと話してるのか。
数分後。超絶コワモテの親方、ガイザーとドルトン、メリッサが来た。
「おぉ。殿下じゃねぇか。久しぶりだな。」
「ガイザーも元気そうじゃん。」
「殿下はまぁた徹夜で魔道具の改良だってプリシラ様から聞いたぞ。どうせ寝不足なんだろ?」
まぁ、シーラがドルトンをここまで案内したっていうし、その時に世間話として俺のことを話したのはおかしくない。
「ついさっき寝てきたっつの。」
「寝不足は否定しないんだな。」
「まぁね。久しぶりに外で爆睡だったよ。ガイザーの方はドルトンと意気投合したってシーラに聞いたけど、仲良くなれてるようで何よりだよ。」
ガイザーはちょっと顔が怖いから、誤解されがちだから、初対面の人間と仲良くなるのは難しい。でも、普通に気の良いおっちゃんだ。俺としては、ドルトンと意気投合したってのは嬉しい話なんだよな。
「ドワーフにとっちゃ、ガイザーみたいなコワモテよりめんどくせぇのがいるのが常識だ。特に、鍛治師の場合は俺以上の偏屈が多い。」
「噂には聞いてるけど、この国ドワーフの割合は少ねぇからなぁ。」
ドワーフのほとんどは東の大陸にいる。そして、東の大陸は思っていた以上に遠い。西の大陸に来るまでに南の大陸か中央大陸を経由しないと行けないから、よっぽどの物好きじゃないとドワーフはあまり来ないのだ。
「まぁ、仕方ねぇさ。それより、プリシラの嬢ちゃん。坊を連れてきたってことは……」
なんか、意味深なことを聞いてるんだけど、なんだろ。ちょっと嫉妬して良い??
「えぇ。頼んでいたものを取りに。」
「わかった。キース坊、奥に入れよ。」
俺に知らせずシーラと何を企んでいたのかと思っていたら、まさかの俺が呼ばれた。俺関係だったのか? 良くわからないながらも、ドルトンに案内されて裏に向かった。店の裏は広めの土間で、2階に続く階段のを通り過ぎてさらに奥にはいった。そっちは工房で、何回か入ったことがある場所だ。今は炉に火は入ってないからそんなに暑くはない。弟子とかに教えたり武器を作成中は、真夏以上の暑さになるから汗とかの匂いがすごいが今日はそれもなさそうだ。あるのか知らないけど、今日は炉の休み期間なのかな。
なんて考えていたら、後ろからついてきていたガイザーとドルトンが腕に抱えるようにして何種類もの武器を持ってきた。
「また武器使ったのか? すごい量だ、な……」
俺の予備の武器はどうせ壊れるから、ここの見習いたちが練習用に作ったやつを安く譲ってもらっている。と言っても、明らかに使えないものは素材に戻すからそっちはもらってないけど。壊しても破片さえ集めたら(武器に戻すかは素材次第だけど)何かに変えることができるから、壊したらここに持ってきたりと、色々便宜を図ってもらっている。まぁ、店側としても色々とメリットがあるみたいだから、win-winなんだけど。
だから、今回もそれかなと思った。
しかし、よく見てみると、練習用とは思えないほど良くできた武器に見えて、言葉を詰まらせたのだ。
「え、めちゃくちゃ良い武器じゃん。ミシェルとフェルの武器? いつの間に頼まれたの?」
ミシェルとフェルも俺が仲介したから、ここのことは知ってるし、普段使ってる武器もここの店のものだ。俺が知らない間に二人が頼んだ可能性もある。
「これは殿下のだぞ?」
「は?」
違ったらしい。つか、俺?
「プリシラの嬢ちゃんに頼まれて、ガイザーと一緒にキース坊専用の武器を作ったんだ。」
「え、これ全部?!」
どんどん並べられていった武器は、打刀と脇差に酷似した双剣、槍、短剣3本?! どーしよ、短剣についてる羽、すんごい見覚えがある……
「どういうことだ?! 流石に多すぎんだろ!!!!」
嬉しいけどな?! 多分、俺に渡してきたってことは、俺が全力で使っても壊れない可能性があるってことだろ?! 嬉しいけども!!!
俺専用の武器を作るためには最高級の素材が必要なわけで………それが全部で、六本……
「あー、実はな? 途中から、ユグドラさんとリーズロットさん、インフィさんって殿下の知り合いがさ、竜王族とかフェンリルの爪とか牙とか、不死鳥の羽とかさ? 持ってきたんだが、、、、」
「あー、わかった。あいつらが持ってきた高級素材に目が眩んで作りすぎたんだな?」
俺のためっていうのも少しはあるだろうけど、多分大人組は悪ノリしたと思う。ニヤニヤと自分の爪やら牙を砕き、羽をぷちぷちっと引っこ抜いたんだろう……あいつら、自分の価値を分かってんのか? いや、分かった上で俺を揶揄うためにやらかしてる気がするわ………
「「あはは……作りたくなっちゃって……」」
ものの見事にハモったドルトンとガイザー。高級素材をやすやすと俺のためには使うなと言いたい。
「こんの鍛治バカどもが……」
どんだけ素材に目がないんだよ……
まぁ、その好意が嬉しくないわけじゃないけど。
「ツッコミどころは満載だけど、俺のためにしてくれたのは分かった。白金貨何ま、」
「「金はいらねぇ!」」
いくらか聞こうとしたら、二人にビシッと手のひらをかざして止められた。
「タダで素材をもらった上に加工させてくれたんだ。一生に一度お目にかかれるかどうかって高級素材を大量に。もう、それだけで満足だ。腹一杯だ。」
「俺の場合は姉二人と婚約者を助けてくれたお礼も兼ねてる。だから、金をもらったら逆にバチが当たる。」
すごい顔で凄んでくる二人に圧倒されて、俺は金が入ってる異空間収納から金を取り出そうとした手を引っ込た。
「まぁ、金はプリシラの嬢ちゃんを着飾るための金にしてくれや。」
「その分は既に確保してるので、問題はない。」
「流石だな、殿下。」
「俺のシーラ溺愛を舐めんなよ。」
この後、俺は思いっきり武器を試してテンション上がったけど、大人達を問いただしたのも忘れることなく実行した。推測通り、俺の心配1割、戦力強化1割、悪ノリ8割だったのは言うまでもない。
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これにて第三章終了です。
ここまで愛想をつかさずに読んでくれて、とても嬉しいです。流石にもう読んでくれる人いないだろうなと思いながら、ドワーフ夫妻の『救出』を投稿してたんですけど、まだ読んでくれる人がいて、とても嬉しいです。
四月からまた生活が変わるので、いつ休止するかわかりませんが、完結目指して頑張る所存です。応援よろしくお願いします。
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