辺境へ
プリシラ・ガーディーアン侯爵令嬢の暗殺未遂事件は瞬く間に広がった。その首謀者であるケミサリー公爵家は爵位を没収され、男爵に落ちた。暗殺を企てた公爵は極刑、暗殺未遂のせいで色々な悪事をしてたと知った夫人は精神を病み極刑は免れて貴族籍剥奪、令嬢はまだ子供だということで同じく貴族籍剥奪。色々あり、2人を憐れんだ公爵夫人のご両親が、領地で2人の面倒を見ることになった。誰がどう見ても夫人は自殺しそうでやばかったから、仕方ないだろう。
あと、ケミサリー公爵に加担していたアホ貴族も芋蔓式に出てきたから、いくつかの貴族は爵位を没収された。
このアイスリア王国は、国王の決定に肯定的な国王派という派閥と、中立派、国王の決定に反発する新興派という派閥がある。
新興といっても、最近できたものじゃない。大昔、王国が王国じゃなかった時、後に初代アイスリア国王になる人と共にいた家臣と敵国で初代に負けた国の国王が存在し、敵国だった方が大人しくいうことを聞く派と、表向きは従うけど裏では王位簒奪などを画策する派に別れたのだ。それが、後に、国王派と新興派に分かれた。
今でもその名残はあるけど、昔ほどひどくはない。ちょっと仲が悪いぐらい。
でも、愚か者が即位するか、王位継承争いが起きれば、すぐにそれは激化する。
なぜ今この話をしたかというと、ケミサリー公爵家は新興派に当たるのだ。公爵の悪事に加担していた奴らも新興派になるんだけど、今回の事件をきっかけに一気に新興派の勢力を削げたということになる。
これで、もし、ウェスが聖女を嫁にしても、王位継承争いは激化しにくくなったな。
え? 聖女? なんのことって思った?
実は、乙女ゲームの世界では主人公は、エンディングで聖女として力を発揮し、シリアス以外は誰のルートでも攻略対象と結婚できるようになるんだよ。あ、シリアスは一応平民だけど大商会の次期会長だから、好きな女と結婚できるかは意外と難しい。最初、俺も同じ平民じゃんって思ったけど、商人として結婚も商会の利益になるようなものじゃないとって考えが少なからず存在するから、住む世界が違う。ということになれば、ある意味身分違いなのも納得はできる。
話を戻して、なぜ聖女としての力が発現するかというと、ウェスペルが学園に入って冬を迎えた頃に、
一つは竜種のようなSランク以上に相当する魔物が移動、または住処を変えること。(Sランクだけじゃなくて、周辺にFランクかしかいない魔物の生息地にAランクの魔物が来ても起こる。)その生息地に本来ならいないはずの強力な魔物が来ると、そいつから逃げるために弱い魔物が我先にと必死に逃げ出すので、その時の状況を指す。
二つ目は、強力な魔物が出現すること。一つ目と似ているけど、少し違う。例えば、Aランクの
どちらでも近隣の村はもちろん、街ですら壊滅する可能性が高い。小規模ならある程度は平気だけど、大規模となると被害がひどくなる。
ゲームでの
王都まで来た魔物も大量で、一番騎士が厚いのに、王都も王都でかなりの被害が出て、ウェス達学生が駆り出されるほどだった。そこで大怪我を負った攻略対象を聖属性魔法で救い、周りにいた騎士達も治って、魔物も弱体化してスタンピードが収まっていくのだ。そして、聖女としての地位をゲットしたヒロインは攻略対象と結婚、ってな。
じゃないと、
よく漫画にある設定で、聖女は王族と結婚しなきゃいけないのかなと思ったけど、この国はそうでもなかった。どこかの上位貴族と結婚はしなきゃいけなさそうだが、別に王族じゃなくてもいい。要は国に繋ぎ止めるためなら貴族とであればなんでもいいんだよ。逆に無理に決めれば逃げられるし。そんなもの非効率的だから、それでいいと思うけどね。騎士爵みたいに1代限りの爵位を与えて逃げられなくしてしまうのもありなのだ。
あれから、一年。色々な貴族達の没落、領地没収、色々あったが、落ち着いてきた頃。
また、おかしなことが起こりはじめた。
「不審な船ねぇ……」
「はい。密輸かと思い、中身を見せるよう言っても貴重な食糧なのにと言って見せてくれないそうです。取られたくないとかなんとか。それじゃあ積み下ろしができないというとそこをなんとかと言って強行しようとするらしいです。さすがに騎士を導入するとおとなしくなりますが。」
「禁止物の密輸、かな?」
「わかりませんが、可能性はあると思います。」
禁止物とは、王国で所持したり、作成したり、使用したりすることを禁じているものがある。わかりやすいところで言うと麻薬だ。とても依存性が高く、摂取し続けると精神に異常をきたし廃人となるもの、だ。取り扱い次第では薬になりそうなものは、薬剤師特級免許を持っていれば所持も使用も咎められない。ただし、厳重に保管して、免許なしが使ったら厳罰に処されるので、かなり厳しく取り扱わないといけないけど。
だけど、免許どうこうの話じゃなくて、例外を一ミリたりとも許されないものがある。それが、生きた神獣や、神獣の肉、血、目など、毛や牙、爪以外のものだ。
毛や牙、爪は、神獣が落とすし落としたものは神獣はいらないから、それを拾って素材にするのはいい。超レア素材だけど。だけど、肉や血は穏やかな状況で渡されたとは思えないだろう。なにせ、神獣の血や肉を食らうことで、不老不死になるって噂なんだから。
そもそも神獣とは、神に仕える獣と言われていて、優れた能力を持つ神聖な存在だ。そんな存在に手を出してみろ、死ぬぞ? 一応、神獣だって竜王族と同じSSSランクだからな。出会うだけならまだしも、手を出したり機嫌を損ねたら人間なんて一瞬で噛み殺されるわ。会ってみたいけど……
『ねぇ、おにーちゃん。禁止物って??』
俺の肩に乗っているフェネリーに擬態したスリアルが疑問を口にした。
「人間をおかしくさせる薬とか、神獣だよ。」
『なるほど〜。確かに神獣を怒らせたらやばいねー。』
怒らせたらやばい? まるで経験者は語るみたいな……
「スリアル……まさかとは思うが、神獣と会ったことあるのか?」
『あるよー! むしろ竜王族は神獣と仲良しだよ?』
「ま、まじで??」
『まじー!』
元気よくお返事ありがとうよ! 羨ましい! フェンリルとか絶対かっこいいのに!!
『でも、最近はどこかに行くって言っていて、しばらくは会ってないんだー。』
この国には神獣がいないはず。ということは、北の大陸にいた時のことだろう。スリアル達竜王族は、人間が竜族に手を出し始めたからこの国に来たって言ってたけど、いなくなったってことはもしかして神獣もそうなんじゃないか? スリアル達竜族たちよりも前に大陸から出ていくことを決断したとか? ありえない話じゃない。竜王族に手を出したんだから、神獣もってなりそう。どこまでも欲を出す人間らしく、ね。
ただ、神獣はとても強い。それこそ大規模
んなわけないか。
「とりあえず、俺が港まで行くよ。アリアーデ領でしょ?」
「はい。しかし、今から行くのですか? 長期視察を組む予定も予算もまだ計画しておりません。警備問題もあります。」
「あぁ。それについては大丈夫でしょ。」
「え?」
俺の側近であるセスに加えて、セバスの孫であるアイザリード、愛称はアイだ。本人のスキルが影の仕事と相性が悪く、スキルを抜きにしても影としての才能はないということで、俺の側近になった男だ。ただし影としての才能はないだけで、強くないわけではない。年は俺とセスの一個上で、まぁまぁ真面目な部類。仕事を任せると優秀だし、俺が、影の最高司令官であるセバスにお願いして引き抜いた。本人も才能がないことに悩んでいて、辞めたいと思っていたけど気軽に辞めるとも言えず、どうしようかと悩んでいたところに俺の引き抜きで、あっさり鞍替えした。セバスも別に気にしないようで、むしろ俺の側近がなかなか決まらないことに痺れを切らしていたようで、増えることに喜んでいる節すらあった。
ということで、俺はセスとアイ、スリアル、オーレン、セフィ、オーレンの元で扱かれまくったバイオス、サンザ、オリブの三人が加わった9人、いつものお忍び姿でアリアーデ領へ向かった。アリアーデ伯爵には先触れは出してあるし、王族ってわからないようにするって言ってもある。
「わぁ!! キース様! 海ですよ! おっきいですねー!!」
9人、だったはず……ここには俺の婚約者であるシーラもいる。シーラの父、ゴルドールがお忍びだろうがなんだろうがしばらく王宮にいないならシーラも連れて行けと言われて、シーラは王妃教育をお休みして一緒に来たのだ。
一緒にいられるのはいいんだけど、侯爵令嬢の護衛が9人だけってどうなのでしょうかね。(セス:あんたも護衛対象だろうが。)
「シーラは海を見たことないんだもんね。」
「キース様はあるのですか?」
「前世ではあるよ。前世だと場所にもよるけど縦長い島国だったから、すぐに海は見られたよ。」
「身近だったんですね。」
「海とは無縁の人もいるけど、日帰りで海で遊んで帰れるから、王都暮らしの人よりは身近といえばそうだね。」
前世では電車とか新幹線があったけど、今世だと移動は馬車と魔道四輪という車みたいな魔道具しかない。魔道四輪を使えば王都からでも行けなくはないけど……魔道四輪は運転者の魔力を使って動く上に一番近いところでも相当な距離だから、最後まで行く前に運転手の魔力が尽きる。色々と大変だから、王都の人にとって海は日帰りで遊んで帰れるような気軽な場所ではない。
「後で浜辺に行ってみようか。」
「いいのですか?」
期待に目を輝かせるシーラは本当に可愛いです。忘れがちだけど、まだ11歳だもん。遊べると聞けばワクワクするよね。
「いいよ。そのために予定を空けたものだからね。」
「殿下、違いますよね?」
間髪入れずにアイにツッコまれたけど、ほぼ事実だ。
「8割はそうだけど?」
「あれ??」
「アイ、キースはそういうお人だ。」
不審船の調査じゃなかったっけ? っていう顔をして戸惑っているアイに、セスが答えた。
「え、まじなの??」
「まじだ。シーラが来るってわかった途端いつも以上に仕事をして滞在を2日ほど伸ばせるようにしたからな。」
シーラと遊ぶ時間を取るためにたくさんあった仕事を高速で終わらせた。ついでに言うと、余裕のある仕事も終わらせてきているから、後1日ぐらい滞在しようと思えばできるけどね。だから、計二週間は王都を離れるけど。移動に俺の魔力で魔道四輪を使っているから、普通の日程より早く、2日間で行けるしね。
「うわぁお……まじですか……いや、まじですね……そう言えばジジイが言ってました。殿下はお嬢様に会うためであれば張り切って仕事をするって……」
張り切ってはしない。いつもより作業時間が短縮されるだけだ。高レベルなのとスリアル達と契約したことで動体視力が上がったからできてるだけだ。
「張り切ってはいない。」
「でも作業が早くなるのは確実ですよね?」
何もいえなくなっていると、アイがほらーって顔をした。なんとなくその顔がムカついたので、脛を蹴った。
「いっ、け、蹴るのは反則っすよ……」
「アイがキースを煽るのが悪い。」
「えぇー?!」
アイが喚いているのを無視していると、御者? 運転手? をしていたサルバが外から声をかけてきた。
「殿下。アリアーデ辺境伯が治めるリンジー港街に着きましたよ。このまま南門に向かいますね」
「わかった。あと、この格好の時はキースね。」
「あ、そうでした! すみません、キースさん。」
それならまだマシか。
そのまま魔道四輪の中で大人しくして、進んだり止まったりを繰り返すこと数分。門番の騎士が横に来て、扉をノックした。アイが俺の許可を待ってから窓だけ開けた。
「ここに来た目的と身分証のご提示をお願いいたします。」
「俺たち4人はアリアーデ辺境伯の指名依頼のため、ほかは観光に来たんだ。」
俺とセス、オーレン、セフィがそれぞれ冒険者カードを提示すると騎士が、何かを思い出したような顔をして、頭を下げた。Sランク冒険者になると、指名依頼というものがある。高い金を払うため大体は金持ち貴族や商人が登録して、指名したSランク以上の冒険者に依頼をする。内容は大体は護衛や領地の魔物討伐、領地内の異変の調査などだ。
今回もそれに似た感じで、不審船の調査を依頼された。俺がお忍びで来れて暴れられるようにとアリアーデ辺境伯が配慮してくれた。
「辺境伯より聞き及んでいます。この度は遠くからご足労、誠にありがとうございます。」
それから騎士と少し話をして、冒険者カードを持ってない他の人たちが通行料を払い、見送られながら魔道四輪で街に入った。
これからアリアーデ辺境伯の屋敷に行く。到着した報告と、調査内容の詳細を詰めるためだ。
安全運転で屋敷までの道中を見ていると、人通りが多くて、活気があり、楽しそうだと思った。冒険者ギルドもすぐに見えたけど、港町なだけあってギルドがでかい。大きな街ほどギルドはでかいっていうけど、王都並みにでかいんじゃないか?
「楽しみだな。」
「キース様、ギルドは今度ですからね。」
「わかってるよ。」
セフィに止められたので、我慢するしかない。シーラもいるし、探検はまた今度かなぁ。
冒険者ギルドを素通りして、屋敷に向かうこと数分で到着した。冒険者カードを見せると屋敷に入れてもらい、玄関前まで行ってから魔道四輪から降りた。シーラに手を貸していると、玄関が開かれて、中から人が出てきた。ライトグリーンの瞳に黒髪の中年男性と、ライトグリーンの髪と瞳をした俺たちと同じくらいの年齢の令嬢が2人。アリアーデ辺境伯とその娘たちだ。
「
「「ご挨拶申し上げます。」」
紹介されると2人が無言でカーテシーをした。さすが、アリアーデ辺境伯が自慢していた娘達だ。パーティであった時のように礼儀正しい。ただ、名前を言わないのは、自己紹介する必要性がないという意思の表れだろう。お互い紹介されたところでって感じだし、向こうは俺の正体知ってるし。
え? そこじゃない? フリーズコフィン? 俺たちのパーティー名だけど? いつのまにかそう名付けられていたから、そうなっただけ。どうやら、氷魔法を使う人が多い上に、俺がポイズンリザードを氷漬けにしたのを見て氷の棺っぽくない? ってなったからだそうだ。その時に俺の二つ名も聞いたけど、意味がわからんと思った。まぁ、貶してるわけじゃないからいいかってほっといた。
話が逸れたけどさっきから気になってることがあるんだよね。背の低い方のご令嬢……クリスティーナ嬢なんだけど、セスに恋した目を向けてて、隠す気ない気がする……
使用人たちも戸惑ってる雰囲気はないから、なんとなくだけど……俺たちが誰だか言われてるな?? アリアーデ辺境伯がうおっほんとわざとらしい咳払いをすると、クリスティーナ嬢が、緩んでいた顔を引き締めた。切り替えはや。
「では皆様、応接室の方へご案内いたします。」
アリアーデ辺境伯が視線でそばに控えていた執事を見ると、執事が前に出て一言いい、案内されたので全員が動き出す。玄関入って左奥へと進んでいくと、三つ目の扉を開けられたので中に入る。真ん中に大きな正方形のテーブルとそれを挟んで四つ3人掛けソファがある。一般的な応接室の形だ。片側のソファに奥からセス、俺、シーラの順に座った。みんなにも椅子を薦められていたけど、断っていた。俺の正面に残念そうにしているクリスティーナ嬢とアリアーデ辺境伯、長女のイライザ嬢が座ったので、俺はセスをじーっと見据えた。動かないセスにどうしようかと悩んでいると、アリアーデ辺境伯が助け舟を出した。
「さて、キース殿とお呼びした方がよろしいですか? グラキエス殿下。そして、セスタ様。」
俺が変装している時、そして周囲にそれを知ってる人だけだった場合の呼び方を迷っているのだろう。
「私としては非公式ならどちらでも。」
「同じく、どちらでも構いません。」
「では、信頼できる口の固いものだけの時にいたしましょう。」
よくいうよ。この屋敷にいる使用人は全員知ってるだろ。
「とりあえず、セス。横のソファにずれろ。クリスティーナ嬢がかわいそうだろ。」
「そういうことでしたら思う存分に。」
すぐに立ち上がって、クリスティーナ嬢を呼ぶと、ものすごい嬉しそうに目を輝かせた。セスが左のソファに座ると嬉しそうにセスの腕に抱きついた。……犬かな。セスもセスで好きにさせてるから、相当気を許してる感じがするし。仲良くて何よりだ。
「申し訳ありません。久しぶりに会えたからか娘の気が緩んでいるようで……」
「いえ、お気持ちはわかるので、遠慮しなくて良いですよ。私でもシーラと何ヶ月も会えないとなれば、人目も憚らず抱きしめるので。」
「キース様?!」
「そう言ってくださると助かります。」
「仲良しで羨ましいですわ……まさか妹に先を越されてしまうとは思いもよりませんでしたもの……」
「イライザ嬢の場合は嫡男を除くので、今はまだ難しいのでは?」
家を継ぐのは絶対に長男と決まってるわけじゃないけど、女性で爵位というのもあまりいない。別に差別されたり甘くみられたりとかはないけど、女性だから子供を産む関係上、妊娠中はどうしても仕事を休まなきゃいけないからどうしても代理人がいる。だったら最初から男にするって流れだ。まぁ、家の事情や本人たちの適性などを考えて変わるけどさ。
でも、基本的に嫡男だ。アリアーデ辺境伯家は男児がいないし、イライザ嬢に仕事を任せられそうだから、他家に嫁ぐわけにはいかない。そうなると、結婚するには嫡男以外の子息が対象になる。同じ年ぐらいの次男以降となると、ギリギリ社交界デビューしたぐらいの年になるだろう。辺境という地にいる分、パーティに出れないハンデも考えると、まだいなくても問題はない。学園で探す人も多いし、焦って探しても良いことない。俺が紹介するのでもいいしね。
「そうですわね。なにも同年代だけに絞らなくとも良いのですわ。年上、いえ、年下でも良いのですものね!!」
「元気が出たようで何よりだよ。」
「殿下のおかげですわ! ありがとうございます! もし、私の好みな殿方がいらしたら、紹介してくださったりとか……」
ちらっと期待の眼差しで見られた。前世でも良くいたな。俺に誰かいい男を紹介してって頼む女の子。それと全く同じ反応。俺を利用するつもり満々だけど、悪い気はしないな。
「もとよりそのつもりだよ。正式に俺が紹介すると、断りにくくなるだろうからこっそりと教えることにする。場合によってはシーラに伝言を頼むかもね。」
「本当ですか?! ありがとうございます! さすが殿下!」
調子がいいやつ。でも、強かさを持っていた方が外交できるし、良いんだろうけど。むしろこういう人の方が信頼はできる。シーラがむぅっとしている気配がしたので、耳元で「君しか女に興味はないから安心して」って囁くと、顔を真っ赤にしてそっぽを向かれてしまった。照れているだけなので放置するけど。
「やっぱり、仲がよろしくて羨ましいですわ……」
うっとりするような声でイライザ嬢が呟いていたのを、アリアーデ辺境伯があきれた声を出した。
「全く……私の娘たちときたら……」
マイペースなところは辺境伯夫人に似たのだろう。いや、どっちかといえば図太いところが辺境伯似か?
「はぁ……とにかく、今日はこんな話をするために殿下をお呼びしたわけではないのだ。クリス……はもうおとなしいから、イリーは少し黙っていなさい。」
「はーい。」
こんなことはいつもなのか、イライザ嬢はすぐに黙っていつのまにか用意されていた紅茶を飲み始めた。黙っているイライザ嬢をみて、アリアーデ辺境伯が一つため息をついてから俺に向き合った。
「さて、無駄話……でもあるようなないようなありがたいお話でしたが、本題に入りましょう。殿下は不審船の噂は知っているでしょうか。」
「知ってるよ。荷物を改めさせてくれない船でしょ? なのに、食料はあるのか入国してないのに船員が死んでる様子もない、と。」
「はい。荷物は食料だと言い張りますが、なんとなく嫌な予感がしたので、一度船を近くで見に行ったのです。」
「それで?」
「人の匂いに混じって、獣の匂いがしました。」
「気のせいってことは?」
「気のせいならそれでいいのですけれどね……」
アリアーデ辺境伯は匂いに敏感だと父上が言っていた。『スペルディの鼻をバカにすると痛い目を見る。』と言っていた。ゴルドールも同じ意見らしく、遠い目をしていた。それに、ここでアリアーデ辺境伯が嘘をつく理由もない。つまり、95%の確率で獣がいる。
俺、結構疑ってるような発言をしたんだけど、普通なら怒るよね。なのに、怒らないってことは、気にしてないのか、確率が高すぎてある意味現実逃避してるのか。
まぁ、俺にとってはどっちでも良いけど。とにかく、直接確認したい。
「現実逃避したい気持ちもわからなくはないですけどね。とりあえずその不審船とやらに近寄りたいですね。」
「中身を見たい、ではなく近づくだけなら、明日その船にご案内いたしましょう。」
俺の言いたいことがわかったらしい。こりゃ父上が何か言ってあるな?
「ありがとうございます。」
とりあえず、動くのは明日だな。
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