告白 

 Sランクに昇格した日から数日。俺は昼食を食べてから料理長や王宮で働く料理人と一緒にこの世界にはないプリンを作っていた。この世界にはカカオもあるらしくチョコも存在していた。だから、生クリームをのせたり、チョコプリンを作ったり、スフレを乗っけたりして開発しまくった。

 

 なぜそんなことをしてるかって?

 

 俺が食べたいからだよ!!!! 当たり前だろ、それ以外にあると思ってんのか、あ?

 ってぐらいには。あと、王妃教育で疲れ切ったシーラのために!

 シーラと初めて会ったパーティの日にした約束通り、俺はシーラに、セスが気に入った甘さ控えめクッキーを振る舞った。すると、シーラは気に入ったらしい。素朴な味だけどバターの風味があってとても好きだといってくれた。

 

 その言葉が嬉しくて、俺は新しいお菓子を作ってはシーラに食べてもらっている。今日は?今日も?シーラがいるし、俺も休みって決めてる日だし、丁度いいよねってことで、料理長のところに来たって感じ。

 どれが好きかわからないから、いろいろな味を小さめに作って食べきれなかったら家に持って帰れるように渡そうと思っている。

 

 王妃教育は習う期間にもよるが、基本は幼い頃から開始するので、午後から3時のティータイムで20分休憩して夕方まで。前世と同じ週7日の内5日だけだ。

 だけど今日はティータイム以降の先生が体調不良のために休講になったみたいで、俺は張り切ってシーラをお茶会に誘った。

 

 もう間も無くその3時だ。

 

「じゃ、いってくるね!」

 

「「「「「いってらっしゃいませ」」」」」

 

 すっかり仲良くなった料理人たちみんなに見送られて、シーラを迎えに行った。王妃教育をしている場所の前で待っていると、仲良く先生である母上の母上、つまり俺のお祖母様であり元財務大臣の奥方が、シーラと出てきた。

 

「お祖母様。シーラ。お疲れ様。」

 

「キース様! もしかしてお時間過ぎてしまいましたか?」

 

「ううん、5分前だよ。俺が待ちきれなくて迎えに来ただけだから。」

 

「キース様……ありがとうございます」

 

 シーラは嬉しそうに微笑んでくれた。俺に会うと毎回嬉しそうにしてくれるのは、本当に癒される。

 ほわほわとしていると、上の方からふふっと声が聞こえて来た。

 

「お二人は本当に仲良しでございますね。これは将来が楽しみですわ。」

 

 これは曾孫って意味かな? 大人の言葉はどうにも邪推してしまう。でも、この前お祖母様は曾孫が見たいっていってたし、なによりも目がそう言ってるんだよなぁ。俺も子供は欲しいからニコッと笑って瞬き2回して返事をした。

 

「あらあら。ふふ」

 

 俺の返事に、一瞬目を丸くしてから、満足して笑っていた。どうやら、当たっていたようだ。『貴族は言葉通りに受け取ってはならない』という生活をしてれば、いやでも察し能力はつくだろうけど。

 

「さて、シーラ。新しいお菓子を作ったんだけど、どうかな?」

 

「本当ですか?! 楽しみです!」

 

 シーラは純粋な気持ちなのだろう。本当に楽しみにしている顔だ。こんな可愛い生き物、絶対手放すものか。絶対に守ってみせる。

 

「それでは、お祖母様、俺たちはこれで。」

 

「えぇ、キース殿下。それでは、プリシラ様、また明日よろしくお願いいたしますね。」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いいたします。」

 

 お祖母様と別れて、シーラをエスコートしながら今日のお茶会の場所、青薔薇がある庭園の奥にある温室へと向かう。

 

 到着するとすでに侍女がお茶会の準備を終えていて、俺の作ったものが置いてあった。二つある椅子のうち片方の椅子を引いて、シーラに座るようにいった。必要最低限の支度をしてもらってから、二人っきりにしてもらった。俺たちが子供だからもあるが、婚約者だし俺がシーラを溺愛してるのは使用人たちには周知の事実。俺が手を出すとは思ってもいない。出さないけど。信頼の賜物だな!

 

「え?」

 

「これ、やってみたかったんだ。どうぞ、私のお姫様。」

 

「あ、ありがとう、ございます。」

 

 照れながらシーラが椅子に座ってくれたので、その隣に自分の椅子も持ってきて座った。

 

「今日は、プリンっていうものを作ったんだ。卵と牛乳、砂糖を混ぜて蒸したものなんだ。」

 

「材料は少ないのですね。」

 

「そうそう。砂糖さえあればお手軽にできるんだ。ちょっとごめんね。」

 

 一番受け入れやすそうなシンプルなただのプリンを手に取って一口毒味してシーラに渡した。

 

「はい。」

 

「え? え?!」

 

「毒味したから大丈夫だよ? あ、もしかして、食べかけいや? でも、毒味はしないとだし……」

 

「そういうことではありませんわ! いえ、毒味もそうですが、王族自ら毒味をするなど! キース様が毒を盛るとは思っていませんが、万が一本当に毒が入っていたら……」

 

 シーラがしゅんとした顔をして、両手を握り締めている。なるほど、そういうことか。不安になってただけか。いつもは他の人が毒味したものか、俺が直接作って味見した上で目を離してないものをあげてたから俺自身が毒味してることを知らないんだ。なら、不安になることはないと思ってもらえるように、握り込まれたシーラの手に、俺の手を重ねた。

 

「それなら大丈夫だよ。俺鑑定スキルと毒耐性あるから。」

 

「だ、だからといって、」

 

「俺、常日頃から人以外は鑑定する癖があるんだけど、もし、俺のスキルでも見抜けなくて毒耐性を持たない君が毒を飲んだらと思うと、ね。」

 

 いろんな人も、鑑定しまくってるけど、それは言わない方がいいな。さすがに非常識だ。

 でも、常日頃から鑑定する癖があっても、俺はまだ上級。特級にすらなっていない。それなのに、特級の隠蔽スキルや改竄スキルで毒物混入したものを巧妙に隠されたら、俺は気付けない可能性がある。

 

「で、ですが、それはキース様も同じでは?」

 

「大丈夫。どんな毒を盛られようと1日じゃ死なないし、そのために解毒魔法だって鍛えてるしね。俺を殺す手段で一番確率が低いのは毒だよ。」

 

 光魔法の一つでもある解毒魔法はスキルの熟練度によって解毒できるまでの速さが早くなる。わかりやすいのはスキルの階級が高ければ高いほど良い。適性があっても無くても使える初期魔法の一つではあるけど、店で売ってる解毒ポーションがあればいらないから、習得する人はあまりいない。

 でも、俺は習得した。どうせ全属性に適性あるし、俺毒殺される未来があるから、習得できるなら習得しちゃうよね。

 

「でも、苦しまないわけではないのでしょう? 私、キース様が苦しむところは見たくありません……」

 

 毒耐性があっても、苦しまないわけじゃない。そう言いたいのだろう。確かにそれが常識だ。だけど、俺はその常識に当てはまらない。いや、つい最近当てはまらなくなった。

 

「あー、それはー……」 

 

「??」

 

 正直に言ってしまったら、この子は離れていくだろうか。だけど、俺を心底心配しているこの子には嘘はつきたくなかった。

 

「俺、毒が効かないどころか、毒を吸収して自分の糧にできるんだよね」

 

「え??」

 

「つまりね? 俺、毒人間っていう不名誉な称号があります……」

 

「……そ、そうなのですか?」 

 

「そう。いつもは隠蔽して隠してるんだけど、シーラには見せてあげる。」

 

 この際だ。この規格外ステータスを見せた方がいいだろう。いかに、俺が化け物なのか。この子を不安にさせないためなら、隠しておきたかったステータスも見せたっていい。隠蔽スキルを解除したステータスを見せた。シーラは横から顔を覗かせた。

 

 

 

 

 

  名前:グラキエス・ウィン・アイスリア

 年齢:12歳

 種族:人間

 職業:王族 Sランク冒険者

 レベル:50

 HP 5180/5180

 MP 10560/10560

 能力値:筋力325 敏捷280 守備407 器用さ598 幸運値1500 魅力500

 適正魔法属性:全属性

 

 スキル:鑑定(上級)、隠蔽(上級)、改竄|(初級)

 完全記憶(特級)、能力値上昇(特級)、並列思考(上級)、洞察力強化(中級)、気配察知(中級)、危険察知(中級)

 魔法創造(特級)、火魔法(上級)、水魔法(上級)、風魔法(上級)、土魔法(上級)、光魔法(上級)、闇魔法(上級)、索敵魔法(中級)

 炎魔法(中級)、氷魔法(特級)、嵐魔法(中級)、大地魔法(中級)、雷魔法(中級)、重力魔法(初級)、

 武術技能(特級)、剣術(上級)、双剣(上級)、弓術(中級)、槍術(中級)、馬術(中級)、柔術(初級)

 

 耐性:毒耐性(上級)、毒吸収(特級)、魅了耐性(中級)、麻痺耐性(初級)、石化耐性(初級)

 称号:[転生者]、受け入れられし者、毒人間

 その他:アイスリア王国 第一王子 王位継承権第一位

 ※[]内は特級鑑定スキルでも見られない。高レベルの完全鑑定魔眼持ちでやっと文字化けする。

 

 普段は、数値の部分は改ざんで少し低めに、スキルは隠蔽を使って、かなり絞る。

 例えば、魔法は火魔法と氷魔法と、風、索敵魔法。

 武術関連は、隠すのがめんどいから何もしてなくて、気配察知と危険察知は持っててもおかしくないから、改竄して等級を下げてる。だけど、それ全部を取り払うと、本当に化け物だと思う。それをみていたシーラが徐々に目を剥いた。

 

「な、ななな、なんですかこのステ、むぐ、」

 

 驚いて大声を上げようとしたシーラの口を塞ぐ。侍女達が何事かと飛び込んできちゃうのは申し訳ないし。

 

 人差し指を立てて口元に持っていき、しーっと言うと、シーラはコクコクと頷いてくれた。これで大声を出すことはなさそうなので、シーラの口を塞いでる手を離した。

 

「……申し訳ありませんわ。大声を出してしまって……」

 

 叱られる子犬のような顔をされて、ちょっと申し訳なくなってくる。 

 

「大丈夫だよ。なんか、レベルが上がるごとに耐性スキルが増えていってねー。毒耐性はこの前毒を飲んだ時に上級になったし、上がった途端に毒吸収なんてスキルが出てきてね。」

 

「ど、毒を飲んだ?!」

 

 あれ、そこなの?

 

「うん。最近はたまに自分から飲んでるね。」

 

「自分から?!」

 

 どうやら、化け物ステータスより、俺が毒を飲んでる方が驚いたらしい。

 

「じゃないと、俺毒で死ぬからね。」

 

「はい?! どういうことですか?? 毒で死なないとたった今おっしゃったではないですか。なのに、毒で死ぬ?? 1から全部説明してください。」

 

 さすがに突拍子がなさ過ぎたようで、シーラが不機嫌である。そんなに怒る要素があるとは思えないんだけど……でも、ここには俺とシーラしかいないし、いずれは言おうと思ってたことだ。だから、今言ってしまおう。

 

「とりあえず、プリン食べよ。はい、あーん。」

 

 俺は新しいスプーンを持って、一口分掬ってシーラに差し出した。不機嫌な表情から一転、恥ずかしそうに口を開けた。小さな口にスプーンをそっと入れて、口を閉じたのをみてゆっくりと引き抜く。こう言ってはなんだけど餌付けみたいで可愛い。言わないけど。

 

「美味しい?」

 

「ん! 美味しいです! 少ない材料でこんなにも美味しいものができるんですね!」

 

 どうやら、ご機嫌は治ったようだ。目をキラキラとさせて、プリンを食べ始めた。他のプリンも勧めると、パクパクと食べてくれた。

 

「これも美味しいです。って、プリンに夢中になっている場合ではないです! キース様! 説明してください!」

 

「落ち着いて。ちゃんと話すから。その前にお茶入れるね。」

 

「あ、はい。え?! キース様自ら入れるのですか?!」

 

 俺がティーポットを持つとシーラがまた驚いた。

 

「うん。部屋に誰も入れたくない時とかに、自分で入れられるようにしたんだ。お茶の入れ方を習うのも結構楽しいからね。」

 

「本当に、キース様は色々できますね。」

 

「器用さが職人並みに高いからね。意外となんでもできるっぽい。」

 

 ドワーフという職人気質の種族は器用さは高めであり、平均で500。伝説の武器を作る人なんかは900もあると聞いた。俺の器用さは500ちょっと。まぁまぁ高いから、確かに色々できる。

 

「こんなにも一緒に過ごしていますのに、初めて知ることもあるのですね。」

 

 シーラが少し寂しそうに呟いた。前世のこと、秘密にしているのが少し心苦しい。

 

「それはそうだよ。人ってのは変わる生き物だからね。ずっと同じじゃない。新しい趣味を持つこともあるし、変わることもある。」

 

「そう、ですわね。」

 

「でも、だからこそ、言葉を交わすんだと思うよ。」

 

「え?」

 

「俺は、新しいことをしたら、シーラに教えて、一緒に楽しんで欲しい。興味がなかったら興味ないって感想が欲しい。嬉しいことがあったら一緒に喜んで欲しいし、シーラも俺に教えて欲しい。俺は、一緒に生きていくってのは、そういうことだと思うんだ。」

 

 人間は一人では生きていけない生き物だ。楽しいことがあれば一緒に楽しんでくれる人がいないと、人生つまらない。悲しいことがあれば、そばにいてくれる存在がいないと、心が壊れてしまう。そんな存在が、愛する人だったら? シーラだったら? 俺は、死んでもいいとすら思えるぐらいに幸せだと思う。今ですら幸せだから。

 

「はい。私も、キース様のことは誰よりも知っていたいですし、一緒にいたいです。これからもずっと。」

 

 なんか、それ……

 

「……プロポーズみたいだね。」

 

「え……あ、あぁ! そそ、そんなつもりじゃ、いえ、一緒にいたいのは嘘じゃないんですけど、えっと、その、」 

 

 シーラは、顔から火が出そうな程に真っ赤にして両手で左右に振ったりして慌てている。それをみて、俺は覚悟が決まった。

 

「ふふ、あはは。大丈夫だよ。でも、そっか。よかった。」 

 

「え?」

 

「だってさ、こんな化け物みたいなステータスを見ても、一緒にいたいって思ってくれてるって証拠だもんね。」

 

 人間っていう括りであるにも関わらず、こんなステータスがあると、普通は怖いって思うはずなのに、シーラは気にしてないということだ。そんなの、嬉しいに決まってる。ほっとしているのも束の間、シーラが椅子から勢いよく立ち上がって、俺に詰め寄った。

 

「当たり前です! あと、キース様は化け物じゃありません!! 他の人よりも強いってだけですよね? なら、何も問題はないじゃないですか! 私は、まだ大人とは呼べない年齢であるにも関わらず、こんなにお強いと知れて安心したんですよ?!」

 

「し、シーラ?」

 

「私をバカにしないでください! キース様を好きな気持ちは何があろうと変わりません! あなたのためならこの命捨てる覚悟もしています! 舐めないでください!」

 

 むうっと頬を膨らませて怒るところも可愛いと思う俺は本当に重症だな。でも、同じ思いを返してもらえるのは幸せだと思う。

 

「ありがとう、シーラ。なら俺は、俺のために命をかける君を、死ぬ気で守ると誓うよ。死んだら君は俺の後を追いそうだから、全力で生き残ることも誓うけどね。」

 

「そうですよ? 私はあなた無しでは生きていけなくなってしまったのです。責任とって私とずっと一緒にいてください。」

 

「もちろんだよ。俺は、シーラがいなくては死んだも同然の抜け殻になっちゃうと思うからね。嫌だと言っても離さないから。」

 

「望むところですわ! 全力で受け止めます!」

 

 右手を胸にトンと当てて、シーラは胸を張った。そんなシーラが愛しくて、シーラを少し引っ張って腕の中に閉じ込めた。

 

「き、キース様?!」

 

「ごめんね。シーラが大好きで、感情が溢れてきちゃった。シーラに愛されてると思ったら、嬉しくて、幸せで、今死んでも後悔はないな。」

 

 今すぐ死ねって言われても、死ねそう。死んだらシーラが悲しむから死なないけど。

 苦しくない程度に、ぎゅうと抱きしめていると、シーラはおずおずと背中に手を回して、抱きしめ返してくれた。

 

「まだ死なないでください。私は、まだ一緒にいたいです。」

 

「うん。愛おしい俺のお姫様がそういうなら、絶対に死なないよ。」

 

「はい。」

 

 シーラの嬉しそうな声を聞いて、無言で抱きしめあう。

 

「あー、こほん。キース? シーラ?」

 

「きゃあ!」

 

 聞き慣れた声が聞こえてきた瞬間、シーラに胸を思いっきり押されて、バランスを崩して俺は椅子を巻き込んで後ろに吹っ飛ばされた。花壇に背中を打ちつけてしまった。

 

「ごふっ……」

 

「きゃぁぁ! キース様ぁぁ!!!」 

 

 我に帰ったシーラが慌てて俺のそばに寄ってきて、ドレスが汚れるのもかまわずに膝をついて慌てている。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい! あの、あの、」

 

 涙目になっているシーラに安心するように、頭を撫でてあげた。

 

「大丈夫だよ、シーラ。受け身は取ったからそれほど痛くなかったし。」

 

 嘘です痛かったです。受け身は取れても痛みはある。でもまぁ、魔物の爪に引き裂かれるよりは痛くはないし、大丈夫。俺化け物ステータスだし。

 

「本当にごめんなさい……」

 

「大丈夫、大丈、、」

 

 頭を撫で続けていると、突然ピロンっと音が鳴った。ここ数年で聞き慣れた音だった。ステータスを開くと……

 

 

 名前:グラキエス・ウィン・アイスリア

 年齢:12歳

 種族:人間

 職業:王族 冒険者

 レベル:50

 HP 5160/5180

 MP 10560/10560

 能力値:筋力325 敏捷280 守備407 器用さ598 幸運値1500 魅力500

 適正魔法属性:全属性

 

 スキル:鑑定(上級)、隠蔽(上級)、改竄(初級)

 完全記憶(特級)、能力値上昇(特級)、並列思考(上級)、洞察力強化(中級)、気配察知(中級)、危険察知(中級)

 魔法創造(特級)、火魔法(上級)、水魔法(上級)、風魔法(上級)、土魔法(上級)、光魔法(上級)、闇魔法(上級)、索敵魔法(中級)

 炎魔法(中級)、氷魔法(特級)、嵐魔法(中級)、大地魔法(中級)、雷魔法(中級)、重力魔法(初級)、

 武術技能(特級)、剣術(上級)、双剣(上級)、弓術(中級)、槍術(中級)、馬術(中級)、柔術(初級)

 

 耐性:毒耐性(上級)、毒吸収(特級)、魅了耐性(中級)、麻痺耐性(初級)、石化耐性(初級)

New:物理攻撃耐性(初級)

 称号:[転生者]、受け入れられし者、毒人間

 その他:アイスリア王国 第一王子 王位継承権第一位

 ※[]内は特級鑑定スキルでも見られない。高レベルの完全鑑定魔眼持ちでやっと文字化けする。

 

 

「……」

 

「キース様?」

 

「なんか、増えてる……」

 

 シーラが不思議そうな顔をして俺のステータスを覗き込んだので、見えやすいように角度を変えた。シーラの頭上からさっきの声の主であるセスも覗き込んだ。

 

「……物理攻撃耐性……」

 

 なに、物理攻撃耐性って。いや、意味はわかる。わかるけど、

 

「キース…あんたついに、そんな反則スキルも習得したんだ?」

 

「嘘でしょーー!! どんどん俺のステータスが規格外にぃー!!!」

 

 俺が大声で嘆いていると、シーラが首を傾げていた。

 

「いいことではないのですか?」

 

「いいことだけどね?! いいことなんだけどね?! だけど、チートがもっとチートになったら、やばいってぇ!!」

 

「チート?」

 

「反則ってこと。」

 

「なるほど?」 

 

「キースはもう存在自体が反則だから、もう今更では?」

 

 セスの正論がグッサリと心に突き刺さる。

 

「あぁーー……」

 

 つーっと、涙が頬を伝うと、シーラがわからない顔をしつつもハンカチでそっと拭ってくれた。

 

「そんなに嫌なのですか? 私は簡単にキース様が私を置いて行かないのだと安心しているのですけれど……」

 

「うん。シーラはそのままでいてね。」

 

 いつまでも純粋でいて欲しい。

 

「? はい。わかりました。」 

 

 不思議そうな顔をしつつも、頭を撫でると嬉しそうに擦り寄ってくるので、可愛さ200%である。まじで、いつまでもそのままでいてくれ。俺の癒し。俺、犬派だったけど、猫のように擦り寄ってくるシーラを見てたら猫もいいなと思い始めた。

 

「それにしても、キース様はなぜそんなにお強いのですか?」

 

 シーラが俺に強さの理由を尋ねた。

 

「んー、転生者特典?」

 

 どう考えてもそれしかない気がする。普通の12歳の子供がこんなバンバンと簡単にスキルを習得しない。

 

「転生者?」

 

「シーラは前世って信じる?」

 

「えっと、前の自分の人生のことですよね? 私の周りにはそんな方はいらっしゃらないので、信じるのが難しい、というか、実感が湧かない、でしょうか。」

 

「まぁ、そりゃそうだよねー。」

 

 むしろ俺以外にそんな奴いたらもうちょっとこの国発展してるでしょ。ぽんぽんと転生者がいた場合、医学とかさ? 薬学以外は大体魔法で治して終わりだからな。

 

「キース様にはあるのですか?」

 

「うん。こことは別の世界で生きていた記憶がね。そっちでは28歳まで生きたかなー。」

 

 前世で28、こっちですでに12だから単純計算で40……それが、現在9歳の女の子と、かー。俺、ロリコンじゃん……いや、精神年齢は少しこっちに引っ張られてるけど……ね?

 

「28……」

 

「信じられないよね。」 

 

 頭がおかしくなったと思われてもおかしくない。だけど、シーラはそうじゃなかった。 

 

「いえ、キース様がいうことならば信じます。キース様は私を揶揄うことはあっても、嘘をつかれたことはありません。嘘をつくとしたら、私のため。ですよね?」 

 

 ほんと、セスの妹だな。俺に絶対的信頼を置く部分がさ。嬉しいけど、騙されないか心配になる。

 

「信じてくれてありがとう。」

 

「好きな人のことを信じるのは当たり前です。ですが……」

 

 信じてもらえて嬉しく思っていると、シーラが浮かない顔をして俯いた。何か変なことを言ってしまったのかと不安になって声をかけると、不安そうな顔をして、俺を見た。

 

「キース様……その、前世で婚約者や結婚相手はいたのですか……?」

 

 婚約者……結婚相手……? シーラ以外に?

 

「え?! いないいない! いるわけない!! 俺ずっと独身だったし、好きな子すらいなかったからね?!」

 

「それは本当ですか?!」

 

 さっきの不安顔から一転、期待を込めた目で俺を見た。

 

「さすがに嘘はつかないよ。」

 

「よかったぁー! あれ? でもそれだと、キース様の良さを理解していないということに……理解されていたのも嫌でしたが、理解されていないというのも……」

 

「複雑な乙女心ってやつか。」

 

 セス? シーラ? 葛藤する部分はそこなの?? ガーディーアンは論点がおかしい。天然しかいないのか?

 

「私としてはキース様の良いところは自慢して回りたいのです! ですが、それによってキース様を好きになられては困るんです。」

 

 本気で頭を悩ませているので、本当、

 

「君は本当、そういうところだよね。」

 

 なんでそんなに俺を慕っていてくれるのか、兄妹揃ってよくわかんない。けど、嬉しくないわけじゃないんだよね。

 

「あれ? そういえば、お兄様は驚きませんの?」

 

「俺はかなり前から知ってたからな。」

 

「なっ、ずるいですわ!!!! キース様の秘密を!! 私は知らなかったのに!! お兄様ずるい!」

 

 セスの胸元を両手で掴んでぐわんぐわんと体を揺さぶった。それに身を委ねるセスが続いて告白する。

 

「ついでに言うと国王陛下と王妃陛下、父上も知ってるよ。」

 

「国王陛下と王妃陛下は当然でしょうけど、父上まで??!!! ずるいずるい! ずるいです!!!」

 

「シーラはまだ殿下と出会ってなかったからね。」

 

「そ、そんなに前なのですか?」 

 

「シーラが2歳の時だよ。」

 

「ガーン……そ、そんな小さい頃から……やっぱりお兄様はずるいです……キース様とそんなにも前から一緒にいるなんて……」

 

 本格的にシーラが落ち込み、しばらくして頬を膨らませて拗ね始めた。まさか、セスが原因で拗ね始めるとは……

 

「こうなったら、お兄様が知ってること全部答えてくださいませ!!」

 

「ふはっ、くく、」

 

「なぜ笑うのですか!!」

 

「ごめんね。可愛い嫉妬だなって思ってさ。」

 

 兄にまで嫉妬するとは思わなかったけど、それくらいなら可愛い嫉妬だよね。というか、兄とかは関係ないか。一緒にいる時間が長いとそう思うのも無理はない。俺もたまにシーラと同じ家で過ごすセスが羨ましく思うときもある。

 

「本当はこんな嫉妬するなんて、いけないとは思うのですが……」

 

「なんで? 俺はそんな可愛い嫉妬ならどんどんしてくれて構わないよ? シーラはわがままも言わないしね。もう少しくらいしてくれてもいいのに。」 

 

「好きな人のことは一番知っていたいと思いますけど、わがままは言いたくありません。」

 

「なぜ?」

 

 優しく問いかけると、シーラは言いにくそうに俺を見たから、微笑むと少し頬を染めてから小さく呟いた。

 

「だって、こんなに好きなのに、嫌われたくありませんから……」

 

 ほんっと、可愛いすぎる! 悶え死にそう。そんな可愛いこと言われて、好かれてるって思うとできるだけ叶えてあげたくなる。

 

「じゃあ、シーラは俺にわがまま言われたらどう思う?」

 

「もちろん嬉しいに決まってます! あ、」 

 

 気づいたみたい。シーラが嬉しいと思うなら、俺だって嬉しいんだ。

 

「そう。俺はシーラにならわがまま言われたい。さすがに西の国々に戦争を仕掛けろって言われたらちょっと厳しいけどね。」

 

 迷惑をかける度を越したわがままは聞いてあげられないけど、可愛いわがままなら全然。シーラは周囲に迷惑をかけるようなわがままは言わない子だ。むしろ、言わなさすぎて我慢してると思う。

 

「そ、そんなバカなこと言いません! むしろ戦争してしまった方が損失があると思います!」

 

 今は、西の国々とはうまく共存できている。というより、アイスリア王国が超大国だから、戦争を仕掛けたところで負けるだけってわかってるからだろう。戦争さえ仕掛けなければこちらだって手は出さない。戦争がある分人が死ぬだけだから、むしろ損にしかならない。平民だってわかってる。

 

「でしょ? だからさ、そういうやばいもの以外は、貴族とか立場は二人っきりの時は考えないでよ。ね?」

 

「わ、わかりました。では、早速、いいですか?

 

「もちろん。いってごらん?」

 

 今言うだろう、シーラのわがままは、前世のこと。それは隠すことじゃないから全然OK。

 

「お兄様が知ってることで私が知らないキース様のこと、できるだけ全部教えて欲しいです。」

 

「それこそお安いご用だよ。わがままのうちに入らないよ。」

 

「ありがとうございます!」

 

 俺が快諾するとシーラはぱあっと顔を輝かせた。子犬みたいで可愛い。

 

 それから、俺は椅子に座り直して、シーラを膝に乗せ、シーラの椅子だったところにセスが座ったのを確認してから、前世でのことを全て語った。

 

「物語の世界、ですか。え、待ってください、キース様が16歳で死ぬ上に、私がウェスペル殿下の婚約者だったんですか?!」

 

「そうだよ。」

 

「何度聞いても壮絶だねー。その物語。」

 

「セスに同意する。ウェスとシーラは同じ年だったから、ウェスの婚約者候補の筆頭だった。それは今世でも同じ。でも、俺はシーラを好きになっちゃった。」

 

「謝らないでくださいね??」

 

「もちろん、謝らないよ。シーラがウェスのことが好きだったのなら婚約解消をする努力はするけど、俺のことが好きなのはわかってるからね。謝ったらシーラに失礼だと思ってる。」

 

「それなら良かったです。」

 

 優しく抱きしめると、俺の首筋に擦り寄った。髪の毛が少しくすぐったいけど、愛おしさでどうでも良くなった。

 

「それにしても、まだ物語?が始まってないのに私たちの状況がとても変わっていますね。」

 

「キースの存在がかなり大きい。次に、陛下たちが未来予知にも等しい知識を知ったこと、だろうな。」

 

「そうですね。でも、私はキース様を好きになると思います。お兄様からお話を聞いていた時から、キース様にだけはお会いしたいなと思っていましたから。」

 

 それ、暗にウェスには会いたくなかったってことかな。でも、セスから聞いていた時から、俺に興味を持ってくれてたんだ。

 

「俺も、シーラのことは前世から好きだったから婚約者になれて嬉しいし、記憶がなくてもシーラに惚れたと思うよ。」

 

 嬉しくて頭を撫でていると、シーラがさらに胸に頬を擦り寄せる。あー、可愛い。

 

「キース様……」

 

「ごほん。」

 

 セスがわざとらしい咳払いをしたので、振り返るとセスが立ち上がった。

 

「さて、シーラ。そろそろ時間だよ。」

 

「もうなんですね。楽しい時間はあっという間ですね……」

 

 シーラがしょぼんと落ち込んだ。シーラがされたら嬉しそうな元気が出ること、してみるかな。

 

「シーラ、また明日ね。」

 

 シーラに俺を見るように名前を呼ぶと、寂しそうな顔をしていたので、額にキスを送った。すぐに離すと、りんごみたいに顔を真っ赤にして呆気に取られてきた。

 

「寂しくないおまじない。」

 

「は、はい……では、失礼します。」

 

 何をされたのかわかると、両手で額を抑えて返事をした。相当恥ずかしかったのかな。俺も恥ずかしかったけど、嫌ではなさそうだから、いっか。

 

「うん。またね。セスも。」

 

「はい。また明日。」

 

 二人を見送って、今日のお茶会が終わった。

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