第109話ソウタの成人式

九大の医学部に進学した、神田利秋の息子、ソウタはこの翌年、成人式を迎えた。

娘のアオイは15歳で高校受験生。

ソウタが医学部に進学するときは、すでに原口は居らず、海音寺も間もなくして九州を出た。

2人に医学部合格のお礼を言いたかったが、もう過去の人なので、遠慮した。ソウタは海音寺にお礼を言いたかったが、携帯電話番号を変えていた。


成人式の前の晩に、実家に戻ってきた。

「おっす、ソウタ。勉強の方はどうなんだい?」

「パパ、その前に『新成人、おめでとう』だろ?」

「そういうソウタは、新成人になってもオレの事を『パパ』と呼ぶのか?」

「まぁまぁ、パパ、お兄ちゃんお祝いなんだから、ケンカしないの」

と、アオイが呆れて言った。 

さおりは着替えていた。アオイも外装。

利秋はジーパンにシャツ姿。腹が出てきている。

ソウタは帰って来た服装のまま、居酒屋千代に連れて行かれた。


アオイはコーラで、大人3人は生ビールを注文した。

「パパ、僕はビール苦手なんだよな。カルアミルクがいいな」

「黙らっしゃい。大人は先ずビールだ!」

と、利秋が言うと、さおりが、

「あなた、それは凄い偏見だよ。ま、ソウタはビールで成人の洗礼を受けなさい」

4人で乾杯した。

利秋よりも、さおりの方が生ビールをがぶ飲みした。

さおりは保育園の園長として、ハードな仕事をこなしている。

ストレス発散に、酒はいいのかも知れない。 「パパ、やっぱビールは無理だわぁ〜」 

「ソウタ、赤星飲んでみるか?」

「赤星って何?」

ソウタは不味そうにジョッキの中の液体を流し込んでいた。

「サッポロビールのラガーだよ」 

「ラガーって何?」

「自分で調べなさい。医学部なんだろ?コンパばっかりだろ?」

「そんな事ないよ。パパじゃ無いんだから」

利秋は店員の折田に、赤星を注文して、グラスを3つとコーラのお代わりもついでにお願いした。


「さっ、ソウタ。赤星だ」

ソウタはグラスを傾けた。そして、さおりのグラスにも注いだ。

利秋は、アオイがお酌してくれた。

ソウタは恐る恐る、赤星を飲む。


「!!、うっま。パパ、これなら飲める」 

利秋は嬉しそうに、

「赤星の分かる大人になれよ。お前は、辛口が苦手なんだな」 

さおりは手酌で赤星を飲んでいた。

「人間の幸福具合は、その人の肝臓にかかってる。って、どこかのアホが言ってたな」

「パパ、何それ?どういう意味?」

と、アオイが質問したら、

「酒好きの戯れ言よ」

「ザレゴト?美味しいの?」


大人、3人は同じタイミングで笑い出した。

「ザレゴト?うんうん、焼き鳥の味だよ」

アオイはこの後、Google先生に教えてもらい、顔を赤くした。

「パパ。かなちゃんの事だけど」

「えっ?誰?」

「ほら、目の不自由な石黒かなだよ」

「あぁ〜、まだ付き合ってんのか?」

「今ね、鹿児島大学で獣医の勉強してるんだけど、お互い大学卒業したら、結婚しようと思ってるんだ」

利秋は、真顔に戻り、

「研修医時代は、貧乏だぞ。そんなんで、結婚を考えているのか?」

「うん。僕は結婚する!」 

すると、アオイが、

「お兄ちゃん、カッコいい!」 

「あなた、こう言った事は、親が決める事ではないから、認めてあげなさいよ」

利秋は納得行かないまま、千代を出て、ソウタと2人でバーに向かった。

ソウタにとって、バーは初めての来店であり、独特な雰囲気と父親の表情を見て緊張していた。

そして、父親はゆっくりと胸ポケットからタバコを取り出し、火をつけて紫煙を燻らせている。

ソウタはそんな、パパがカッコよく見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る