第16話 エピローグ:願い

鉄姫、謎の男、ヴァーチェ、自動人形たちとの戦いが終わった。

ドミニオン学園は修復作業に追われ、忙しそうにしている。

自分の知らない所で何かが動いている。

スローン学園にいた頃から、コトネに告げられた時からわかってはいたが、事態は想像を遥かに上回っている。アハザが言っていた鍵やレッドロードの使者、卵などの言葉も気になるが、考えても謎を深めるだけである。

今回の事件、特に鉄姫の件は大きな功績となりすぐに本来の役職に戻れるとの事だ。

そこで改めて自分をここに呼んだセラフィム学園の生徒に話を伺おう。

――何の為に、自分がここに招かれたのか

そして、答えを出さなければならない。

――自分が何を為すべきでどうするのか

雲一つないのに、星一つ見えない真っ暗な空を見つめ、拳を強く握る。

今回のことでさえ、序章に過ぎないのかもしれないのだから。


「先生」

ドミニオン学園の屋上で一人、背後からした声はコトネのものだった。

顔は血と炭で汚れ、左腕を抱えたボロボロの姿で、ゆっくりと彼女はこちらに来る。

「おつかれさま」

「コトネの方こそ。顔を洗って休んだ方がいい」

胸ポケットからハンカチを取り出し、顔を拭うように促す。

それを優しく払い、差し出した手をそっと両手で包まれた。

「自分が見えてないんだね。先生もボロボロ」

震える左腕に首を掴まれ、差し出したハンカチで顔を背伸びで拭かれてしまう。

「話は通してある。だけど、すぐにとは行かないだろうから。しばらくはここに居てもらう事になると思う」

「復興作業も手伝うよ」

「……」

「どうしたの?コトネ」

「先生は本当に変な人だね。貴方を打とうとした人が生徒会長の学園だよ?」

「結果どうにかなったけど、彼女から見れば当然の行動だと思う」

「人は、教科書や法じゃない。筋が通っているからと言って許せなかったり、納得できないことがあるでしょ」

「クルミを庇った事は後悔していないよ。だけど、それが彼女を咎めることや学園の復興を手伝わない理由にはならない」

「袂を分かったつもりはない……ということね」

「うん」


本当に変な人。

でも、貴方のようにありたい。

力がなくとも、考えがなくとも自分の指標を折らずに在りたい。

悔いの残らない選択の為に、私が私らしく在る為に。


「こき使うから覚悟してね?先生」

「労働基準法の範囲内でお願いします……」


黒く塗りつぶされた空に一筋、小さな流れ星が落ちる。

それは、誰かの祈り。それは、誰かの願い。

道なき荒野を照らす、小さくも穢れなき純粋な光。

星の涙が示すは光の道か、破滅の道か。

その結末が如何なるものであっても、少女の正義は折れない。

彼女は、追うべき背中を、自身の正義を見つけたのだから。


―― 第二章 正義の在り処― Fin.


「貴方が諦めるまで、私の正義を貫くわ」

脳裏に焼き付いて離れないその言葉に苦しむ一人の少女がいた。

「必ず、後悔させてやるぞ。アマリリス、貴様の正義を必ず砕いてやる」


そして、次なる物語が始まろうとしていた。


「例の件、どうやら事を急いだ方が良さそうです」

「ええ、わかっています」

セラフィム学園で窓を眺めながら語り合う二人の天使。


「動き出すか、変数」


「キナコ、暗部を集めて偵察に向かいなさい」


「やっと会えるね先生」


「はよおこしやす、旦那はん」


「ええ、わかっています。必ず泡沫の夢を終わらせましょう」


椿・藤・菊・梅・桜とそれぞれが大きく天井に咲き誇る瓦の城。

その中でそれぞれ夢を、意志を抱え、空に登る月を見つめる姫たち。


そして、ドミニオンの立ち入り禁止区域。

旧アルカンジェリ学園の荒廃した地にて、一人の侍が彷徨っていた。

ボロボロに乱れた笠をかぶり、その隙間から覗かせる赤い光がおどろおどろしく揺れている。


――次章 桃楽龍宮とうらく りゅうぐう 編へと続く

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