星屑のレディアント

シラヌイ3

序章:ささやかな贈り物

第1話 NEW GAME

全てが暗闇に包まれている中、ただ落ちていく感覚だけが襲う。

――大丈夫

ぼやけて聞こえる小さな声。

それは、次第に大きくなっていく。

――……が背……。だからどうか……。

光が暗闇を包みはじめ、意識が現実へと戻っていく。

――……のことを……頼みます。

これは、誰の声だっただろうか。


目が覚めた。

何も思い出せない。先ほど見ていた夢が曖昧になっていく。

顔を覆っていた右手をどかし、天井を眺める。

(ここはどこだろう)

知らない天井。知らない匂い。

窓から差し込む光が朝を知らせてくれる。

体を起こすと横から声がかかった。

「あ、リンちゃん。目が覚めたみたいですよ」

金髪でふわふわした声音の少女が誰かを呼んでいるようだ。

四方が覆われていたカーテンからコツコツと靴音を鳴らし、もう一人が顔を出す。

制服にハーネストをつけ、きっちりとした印象の黒髪少女。

(左太もものケースにサバイバルナイフ。右脚にはホルダーに入った拳銃……?)

どこかの軍事施設なのだろうか。

険しい表情でこちらを見つめる少女。

見つめあっていたが、両手を挙げ、糸のように目を細くして気怠そうな表情になる。

「戦い慣れた感じでもないし、こちらに敵意があるわけでもなさそうだね」

彼女はベットに腰を下ろし、金髪の少女の方を見ながら話をつづけた。

「とりあえずは生徒会に調べてもらお」

「はい!流石リンちゃん!頼りになります!」

「大事になっても嫌だし、僕一人でいいよ。ナナミちゃんは先に部活行ってて」

そうして金髪の少女・ナナミはとてとてと小走りでいなくなってしまった。

どうしたものかと困り果てていると、ナナミが居なくなったのを確認してこちらに再び鋭い目線を向けるリン。

「言葉、通じてるんでしょ?」

「!?」

「反応でわかるよ。大人しくしてくれれば痛いことはしないから」

表情とは裏腹に言葉から放たれる気迫に言葉なく頷く。

「ナイフと銃に視線をやったのは奪うため?僕、強いよ?」

「違う!」

敵意はない。それを伝えるはずが大きな声を出し、手を掴んでしまった。

彼女の警戒心を強めてしまったと反省する。

「あー、うん。そっか。ごめん」

しかし彼女はびっくりしただけで、手を払い、一人扉へと向かう。

「ついてきて」

こっちに来るように促すリン。

その表情は少し困ったように優しく微笑んでいた。


彼女の後ろをついていきながら周りを見ることにした。

病院のような無機質さ。

先ほどまで軍事施設かと思っていたが、所々に標識があり

視聴覚室、調理実習教室と書かれている。恐らく学校なのだろう。

無言のまま進んでいたが、気まずさからか、リンはこちらを向き、話を振る。

「僕、会話下手でさ。聞いてる事が多いし、そっちの方が好きなんだ」

両手の人差し指をくっつけながら「へへへ」と申し訳なさそうに笑うリン。

「それでさ」

「さっきの事なら気にしてないよ」

「え」

「ここの事は詳しく知らないけど、身元不明の人に対して当然の警戒だと思う」

「……」

下を向いたまま動かなくなるリン。

どうしたものかとあたふたしていると、突然顔を上げ、不器用な笑顔で頭をかく。

「僕、君の事苦手だなぁ。どうしたらいいかわかんないや」

こちらに歩いてきたかと思うと、下から顔を覗かせる。

「名前教えて?」

「……」

「え?」

・・・


「名前を思い出せない?それも、自分が何者なのかもわからない!?」

うそくさーい!とケラケラ笑うリン。

疑われておかしくない。警戒が強まってもおかしくない。

しかし、リンにとってさほど問題ではないらしい様子である。

「疑わないの?」

「嘘くさいとは思うけど。嘘を言ってるようには見えないかな」

そういって彼女は手を優しく握り、先へと引っ張っていく。

「思いだしたら、最初は僕に教えてね」


生徒会室へと向かう二人、

先ほどの会話の後は無言のまま。どうしたものかと困っていた。

(なんであんな会話したんだろ。この人が安全で味方かどうかも怪しいのに……)

考えても仕方ないと開き直り、楽観的になることにした。

(生徒会の調査で全部わかることだよね)


そうして二人は生徒会室へと辿りついた。

失礼します。とノックを4回、

どうぞ。という透き通った声音で二人は入室する。

中は面接のようだったた。

奥には山のように机が積み立てられており、壁になっている。

壁の手前に長机が一つ、その奥に先ほどの声の少女が座っている。

机を挟んでこちら側に椅子がもう一つ。

緊張したまま立ち尽くしていると、「どうぞ」と座る様に促される。

とりあえず座ろうと背もたれに手を乗せると、先にリンが座ってしまう。

「……」

「へへへ」

まぁ、このままでもいいか。

そのまま話を聞こうと視線を少女に向けると、瞳を閉じたまま下を向いている。

「かいちょー、どうぞー」

リンがそう呼びかけると、少女の話が始まる。

「ようこそいらっしゃいました。例の不審者さんですね」

「かいちょー。本人の目の前でそういうもんじゃないよー」

「こほん、それもそうですね。」

わざとらしい咳ばらいをする生徒会長。

後ろにある壁の奥に息切れと生徒の姿がいくつか見える。

「わざわざ今回の為に生徒会室をいじるなんて、気合はいってるねぇ」

「ええ、わが校に不審者など久しいですから。生徒会長の威厳を見せなくては」

「それもわざわざいうもんじゃないんじゃ……」

思わず、声を出してしまった。

リンではなく謎の声の主からのツッコミを貰い、

眉をぴくりと動かしゆっくりと瞳を開き、顔を上げる生徒会長。

目が見えないわけではなかったのかと。少し安心していると目が合った。

生徒会長は余裕の笑みを浮かべたが、次第に額から滝のように汗が流れ出す。

「ん?かいちょー?」

「な」

「な?」

「なんですか!!このでっっっっかいバケモノ!」

「バケモノとか失礼な事言わないの」

リンが落ちつかせようとするも会長は止まらず続ける。

「身元不明の人間と聞いていたのに……。なんですかこの服を着た大柄モンスター!

 身長175cm程!声も低く恐ろしい!足も長い!全体的にごつごつして筋肉質!」


褒められているのか貶されているのかわからなくなっていく男。

「まあまあ、容姿がどうであれ人間だよ。ほら」

ポケットから一枚のプリントを取り出し、長机に置くリン。

それを生徒会長が黙々と読み始める。

リンが席に戻ってくる時に手をあわせ「ごめんね」とジェスチャー。

そして、生徒会長は読み終わったのか落ち着いた様子になる。

「えぇ、確かに人間のようですね。科学署の検査結果なら認めざるを得ません」

「まあ、見た目もそこまで変わらないしねえ」

「して、この、だん・・・せい?というのは何でしょうか」

「私たちの雄個体だね」

「むむむむ……何がなにやら。未知です。人間に雄個体がいるとは……」

リンと生徒会長が人間についてなんやかんや話しているうちに扉がノックされる。

反応する前に扉が開かれ、眼鏡をかけた緑色のボサボサな長髪の少女が入室する。

「あら、情報局。どうしましたか」

「セラフィムからの伝達、それと先生への届け物です。」

「せん…せい?」

情報局の少女が長机に書類をどさっと置き、こちらに向かってくる。

「IDカード発行に時間がかかってしまい申し訳ございませんでした」

手元に一枚のカードが入ったケースを置いて情報局の子は去ってしまう。

大量にあった書類を読み終わった生徒会長は正面に立ち、改めて挨拶をする。

「先ほどまでのご無礼、お詫びいたします」

「?」

とつぜんの変わりように困惑する男。

「ヴァリアス学園特別指導教員。いえ、先生とお呼びするべきでしょうか?」

「えっと……?とりあえず情報を共有したい……です」

「?」

「私は……えっと」

「記憶喪失らしいよ、この人」

「えええええええええええええええええ!?」

それじゃあなんの為にに来たのですか!?という叫びを彼女は隠せなかった。

・ ・ ・


「えぇ、焦ってはいけません。記憶が戻るかもしれません」

「そーそー。まずはチュートリアル?色々教えてあげないと」

「本当に申し訳ない……」

(そうはいってもここの記載には戦闘指揮能力や功績の数々が刻まれていますし、記憶喪失でそれらが失われているとただの無能ではないですか……。名前の欄、空白だし、顔は怖いし、本人の戦闘能力はないらしいし……)

ぶつぶつと小さく愚痴を呟く生徒会長を他所に、リンは説明を始める。

「言葉はわかるけど、逆に言えばそれしかわからないくらいに考えとくね」


ここはヴァリアスと呼ばれる五つの学園が国を管理している学園都市。

まあ元々、九個あったとかなんとか言われてるらしいけどね。

そして、私たちにとっては当たり前だけど、残っている学園の

3つは表世界、2つは裏世界にある。

表っていうのは太陽の上る「昼」エリアで、裏は月が照らす「夜」エリア。

土地柄も大きく差があって表世界は規律を重んじていて治安維持がよく働いてる。

逆に裏世界は無法地帯と呼ぶ人もいるくらい。大体悪いことは裏世界で起きるね。

僕の個人的感覚だから全部が全部ってわけじゃないよ。後は、そうだなあ。

リンがスマホを取り出し、一枚の写真を見せる。


そこには、鋭い眼差しをしたリンと、満面の笑みを浮かべた頭の角が特徴的な赤髪の少女がハンバーガーを片手にピースをして並んでいる。


この子みたいに角がある子や尻尾、翼、みたいに身体的特徴を持つ子もいる。

そのせいで学校を選べなかったり、根深い種族差別がある。もちろん表も裏も。

代表的なもので言えばセラフィム学園は天使様って呼ばれる人たちがいるし、

裏世界のドミニオン学園の生徒たちを魔族って呼んでたりする。


「大体こんな感じでいいかな?」

「うん。ありがとうリンちゃん」

「ちゃんはやめてよー」

独り言を終え、脳内整理を済ませた生徒会長が割り込む。

「とりあえず、今は仕事も任せられません」

「そうだねぇ、取り合えずは生活に慣れてもらおうよ」

「ええ、当分、先生のお世話はエンジョイ部に任せます」

「え、エンジョイ部?」

どのような部活動か検討もつかない。

「まあそうなるよねえ。ま、任せてよ。程々に」

「まずは名前を決めてください。仮名だけでも登録してIDカードを完成させなければまともにヴァリアス内で生活も送れないですから」

「そこもウチ任せ?」

「えぇ、当然です。エンジョイ部が決めないのならウィルスとかで登録します」

「もうそれでいいんじゃないかなぁ……」

どうでもいいよとダルそうにしているリンと面倒事を押し付けたい生徒会長。

なんとか話を進め、情報共有を済ませるとリンは先生の手を引き生徒会室を出る。

「では先生、記憶を取り戻したら連絡してくださいね」


扉を出てため息をつくリン。

「結局こうなるのかぁ~」

「ごめんね……」

「乗り掛かった船だし、いいよ」


リンに手を引かれるまま辿りついたのは派手な装飾とフォントでデカデカと強調されるエンジョイ部の看板の前。

「さ、ここからは大変だよ~」

「?」

扉を開くと勢いよく何かが飛び出した。

「これは……?」

コロコロと転がってきたのは緑色の石のような何か。

見慣れないものだったため気が付かなかった。

だが、確かに知っている形のものだった。

「先生!」

リンが先生の手を引き覆いかぶさろうとするも間に合わなかった。

そして、それが何か、光と共に気づいた。

――ああ、これ、手榴弾だ。


死を覚悟したがそれは爆発することなくとてつもない光と共に風を噴射した。

「うおっ!」

その風はとてつもない勢いで思わず足が床から離れ吹き飛ぶ。

背中が壁へと押し付けられ、床に倒れ込む先生。

「こらー!武器は使わないって約束したでしょーが!」

「あれはおもちゃ。火もでないし殺傷能力もない」

「屁理屈言うなー!噛り付くわよ!」

「ならこっちは引っ掻く!」

煙の中で聞いたことのない声が2つ、言い争いをしている。

「先生、大丈夫……?」

おそるおそる背中をさすり状態確認をするリン。

顔は「ごめんねぇ」と言っていた。


「もー!シロもクロも喧嘩はやめてください!」

聞きなれた声、ナナミという少女だったはずだ。

「クロが我儘ばっかりいうから!」

「シロが私の限定ホイップクリームプリン食べるから」

「これは私の分!あんたは昨日自分で食べたでしょ!」

「シロは嘘つき、私は昨日プリンを食べていない」

先生とリンが教室へと入る。

「ほらほら喧嘩しないの、私のあげるから。」

「あ、リンちゃん!おかえりなさい!」

「リン先輩!クロが私のプリンを!」

「先輩のはもう食べた」

冷蔵庫を開き、自分のとっておきであるシュークリームがなくなっており代わりに手前にプリンがあることに気づく。

「ああああああ!私のシュークリームぅぅぅぅぅ!」

よよよ……と床に萎れた花のように力なく座りこむリン。

横からナナミが大きなシュークリームのクッションをリンに渡し、リンは涙を流しながらクッションをもちもちと突っついている。

「ごめんねぇ、今日ゆっくり食べてあげるはずだったのに……」

「美味しかった」

「何にもよくないわー!戦争じゃー!!!」

そうしてリンは鬼の形相で二人の喧嘩に混ざる。



――To be continued









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