ショートショート作品集

@hanger_morning

ボビン転送

今世紀の最大の発明はボビン転送である。

これは、量子力学的な作用によって、物体を糸状に分解し、それを特殊な機器に巻き付けて、超高速な専用路を用い転送する技術である。

量子力学的作用は、主に拡張された超ひも理論[Yunabe et al. 2023]に因る。ボビン機──人々は単にボビンと呼んだ──から転送され、また別のボビン機で受け取ることができるのだ。


ボビン転送は、世界の流通の全てを変えた。

トラックは当然無くなった。

船による大陸間輸送も無くなった。

黒猫を冠した輸送会社も無くなった。

引っ越し屋の兄ちゃん達は元同業者を集めてプロレスのリーグを立ち上げた。

家庭にも導入され、ありとあらゆるものを家にいながら瞬時に取り寄せられるようになった。

今日はドイツからソーセージとビール、明日はイタリアからワインとピザを、といった具合に。

世界は圧倒的に効率的になったのだ。


人間の欲望は止まらない。

ついにボビン転送によって人間自体を送り出すことに成功した。もちろん、生きた状態のままでだ。

人間を運ぶ乗り物も、ほとんどが無くなった。


ある時から、ボビン転送した人間が帰ってこなくなると、まことしやかに囁かれるようになった。

しかし、大半の人は、単なる家出にボビン転送が使われただけだと一笑に付するばかりだった。

やがて、事の重大さを痛感せざる得ないことが起きた。

宇宙だ。

転送中に宇宙が見えるのだ。

転送路は、一旦宇宙を通ってから、また地球に戻ってきている!

地球と月で構成される地球系は、既に転送に失敗したモノやヒトで溢れかえろうとしていた。


宇宙人の介入はすぐだった。

宇宙を汚したからだろうか。

過ぎた技術は、人類には時期尚早だったのだろうか。

世界中のボビンに、宇宙から大量の廃棄物──元は地球にあったものだが──が、ボビン転送された。

地球は破裂した。

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