あのまばたきの意味

猫又大統領

読み切り

 田んぼが両脇に並ぶ道を黒い乗用車で走る。

「はあ、今日が初めての出動です、心配ですよね。相手はお化け」

 年下の元警官の相棒が呟いた。

「所詮は異常現象に対して何らかの対応しないと支持率が下がるから作られた組織だよ俺たちは」俺がそうこたえた。

「政治のことはわかりません」

「俺たちが中身のない訓練を受けたのは確かだけどな」

「唯一よかったのは飯がうまかったことですよ」

 部下は目をキラキラさせながらそいってきた。

 俺は草むらに車を止めた。

「ここですよね。まあ、ただの深い緑の山に見えますけどね。お化けより怪物がいそうですね」

「そうだな」俺は少し驚かせようといい加減に答えた。

「ええっ、そんな。ハマトさんって元は怪物狩りでしたよね」

「ああ。国の下請けだけどな。不安定な職だから現在の公僕を選んだ」

「それだけですか?」

「まあ、ダサい理由だけど怪物がどんな存在か分からないけどアイツら泣くんだよ。捕まえられた時とか……それが嫌だった」

「幽霊は泣くんですかね?」

「泣かないそうだ。それは個別に訓練所の職員に聞いた」

「あああ」山から男の子が叫びながらこちらに走ってきた。

「どうした。坊主」

「お、お化け、お化けがでた」

 息を切らしながら少年はそう答えた。

 そのあとすぐに、地面と地面が擦れるようなズリズリと重みにある轟音と大きな揺れがおきた。

 山の中ほどから土煙があがっていた。

「地すべり? これは……怪物、それとも霊……」

「坊や大丈夫か? 怪我はないか?」

 取り乱した部下の代わりに俺が少年に聞いた。

「大丈夫、大丈夫」

「お化けって言ってたけど、最近この山に出るお化けのこと?」

「そう、そう。あのお化け、僕の亡くなったお婆ちゃんに似ているんだ」

 ドサッと後ろで音がした。振り返ると。部下がしりもちをついて一点を見つめていた。

「ハ、ハマトさん。お化けです! ど、どうすれば」

「お、お婆ちゃん」少年がいった。

 俺にも見えた。紛れもなく老婆の霊がそこにはあった。

「まさか、地すべりを知らせるために頻繁に表れて知らせた……」

「え、まあ、いい幽霊?君のお婆ちゃん」

「婆ちゃん。そうなの……あ……ありがとう、ありがとう」

 目の前に佇むお婆さんの体は徐々に薄くなっていった。表情は穏やかで、まばたきをひとつするごとに、頬に雫がつたっていた。

「おい、おい。幽霊も泣くじゃねえかよ」俺が小さく呟いた。

「ですね。いい加減な訓練所でしたね。飯がおいしかったからいいけど」

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