隣室の玄関前で顔の良すぎるダウナー系美少女を拾ったら、ちょっとエッチな同棲生活を送ることになりました。

ななよ廻る

SS_No.1:お風呂場でバッタリはお約束

 高校1年生の秋。

 嵐のように過ぎ去った妹タイフーンによって、マンションのお隣に住んでいた顔の良すぎるダウナー系美少女、鎖錠さじょうさんと一緒に暮らすことになった。


 いや、これまでもほぼ毎日のように泊まっていたので、ほとんど違いがないと言えばそうなのだけど。

 こう、一緒に住む、というか、同棲という言葉を使われると、なんだか面映ゆいというか、胸に来るモノがある。


 しかも、相手は顔面偏差値激高の美少女だ。

 至極一般的な男子高校生である僕としては、一切気にしないというのは無理があるわけで……。



 同棲が始まってから数日。

 朝目覚めた僕は、ベッドからのそっと上半身を起こす。

 しょぼしょぼした目を擦り、くあっと大きなあくびをする。


「もう朝かぁ……」

 ここ最近、寝付きが悪くてどうにも眠気が抜けない。

 理由は明白で、鎖錠さんとの同棲生活にドキドキしてしまい、夜を迎えても目が冴え冴えだからだ。


 そのうち慣れるだろうとは思う。

 ただ、それまでは授業中睡魔と戦う日々が続くのかと思うと、喉からせり上がってくるあくびを止められそうになかった。ふわぁっ。


 時計を見る。時刻は6時。

 寝る前、最後に確認した時間は2時だったから、長くとも4時間睡眠ということになる。うーん、睡眠不足。


 このままベッドの誘惑に負けて二度寝と洒落込みたいところだが、多分、もう1度寝たら起きられない。たとえ、鎖錠さんに起こしてもらっても、夢の中で授業を受けることしかできないだろう。睡眠学習。未来だ。


「……シャワーでも浴びるか」

 眠気覚まし。

 だらりと背筋を曲げて、ゾンビのように両腕を垂らしてのっそのっそ脱衣所へ向かう。


 部屋を出て、カーペットからフローリングに足を踏み出した瞬間、ひんやりとした冷たさに「うひょいっ」と変な奇声が漏れた。

 残暑が厳しいというのに、氷に触れたようなひんやり感。スリッパ履けばよかった。


「うぅっ……」

 肩を擦り、どうにかこうにか廊下を超えて脱衣所へ。

 普段、開けっ放しにしているはずの脱衣所へ続く引き戸が閉まっていて首を傾げる。

 なぜ?

 眠っている頭に考える力はない。あっさりまぁいいかと疑問を放り捨てる。

 これが本日最初にして、最大の失敗だった。


 先に言い訳を述べるのであれば、眠かったし、慣れていなかったのだ。

 同棲生活に。


 ガラガラッとローラーが回る音を響かせながら引き戸を開けると、暖色系の電球が光に慣れていない目を照らしうっと目を細める。

 なんで電気がついてるんだ?

 段々明るさに慣れてきた目を開くと、

「…………へ?」

「…………なに、してるの?」

 視界に飛び込んできたのは、バスタオルを身体に巻いて、しっとりと身体を濡らした鎖錠さんだった。


 シャワーを浴びていたのか、ホカホカと赤く上気した肌から湯気が昇っている。

 水気の伴った髪が頬に張り付き、滴る雫が落ちる様は色っぽい。

 なにより目を惹くのは、バスタオルでも覆い切れない豊かな双丘。

 上半分がほとんど見えてしまっており、深い谷間につーっと流れ込んでいく雫をついつい目で追ってしまう。


 デカい……。そしてエロい。

 もはや眠気なんて吹き飛んでいて、ゴクリと喉を鳴らしてその光景に魅入っていると、じーっと冷たい視線を感じて僅かに顔を上げる。


「…………」

「……あ」

 酷く冷ややかな、冷たい黒目と出会う。

「は、はは……あはははは。

 お、おはよう、……ございま、す?」

「……おはよう」


 後頭部に手を置いて、もはや笑うしかなかった。

 シャワーを浴びてないというのに、背中は冷や汗でびっしょりで、寝間着にしているシャツが張り付いて気持ち悪い。


「あは、あははは……あ、は」

 暫く乾ききった笑い声を上げていたが、無言の圧力に耐えきれなくなる。

 最後には口を閉ざして黙り込む。

 ぴちょん、ぴちょん、と。

 鎖錠さんの身体から落ちる雫の音だけが、やけに大きく、脱衣所に響いた。


 ふぅ、と鎖錠さんは熱のこもった息を吐き出すと、ジト目になって僕を睨む。

 そして、たった一言の凶器を僕の心臓に突き刺した。



「…………エッチ」



 ぐはっ!?

 吐血したように咳き込み、胸を押さえる。その言葉は心臓のみならず、心の奥底まで深く突き刺さり、僕の色々なモノを破壊した。

 開いちゃいけない扉まで開きそうになっているのが恐ろしい。


「し、失礼しましたぁぁぁぁぁあああああっ!?」


 脱衣所を飛び出し、バタンッと引き戸を閉めると、そのままドタドタ慌ただしく走って自室のベッドに飛び込んだ。


「もう……っ、もう……!」

 朝っぱらからなにをやっているんだ僕は!

 そんなお約束展開を現実でやらかして……もうっ、もぅ――!


 頭を何度もベッドに打ち付ける。その回数が10を超える頃、パタリと息絶えたように手足を脱力させる。

 ごろんと半回転。天井を見上げてポツリと零す。

「最初からこれって。

 同棲生活……やっていけんのかなー」



 なお、この出来事は序章に過ぎず、これから起こるちょっとエッチな同棲生活の始まりであったことを、この時の僕は知るよしもなかった。






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【あとがき】

本編『ダウナー系美少女を拾ったら』のサイドストーリー。

初めましての方がおられましたら、ぜひ本編もお読みいただければー。

https://kakuyomu.jp/works/16817330653667739518

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