第98話 差し伸べられる手

コツン……コツン……コツン……


長い…長い…螺旋階段を降る、手燭を片手に……2人、地下へと続く、暗闇へと歩みを進める


暗い暗い、そこには陽の光は無く、一日中闇に包まれている


薄暗く、何もない、そこは地下牢…そこに収容される者が呻く…


「うぅ…わ……たし…は……何の……為に…」


その者があげる声は…後悔か…悲しみか…


その者は憐れな復讐者、己が目的は何者かに利用され、その復讐を決意した原因に操られた愚かで憐れな愚者…


自らの行いを悔い…己を使った者へ憎悪を募らせる…


しかし、その者は諦めていた…利用され、踊らされた自分にもはや生きる意味はない…しかも、踊らされたからと言って同族に手をあげた自分を許せない…許されるはずがない…裁かれなければならない…


その者は全てを諦め、己が沙汰を待つ…


しかし、


「随分と大人しいな…愚かな同胞よ…」


「そりゃ、真実を知ったらこうなるでしょ…自分の半生が利用され、無駄になったんだから」


「そもそも、利用される方が悪い…じゃが、まぁ、まだまだ幼いこやつには酷かもしれんな…その点だけは同情してやる…じゃが、慰めも許しもせん」


「そこは俺も同感、裁きは受けてもらう、まぁ、そこまで悪い様にはならないから安心しろよ」


「…………な………ぜ…?」


「ふん、こやつはどこまでもお人好しなんじゃ、お前の事情を聞いて放っておくはずが無い…はぁ、物好きめ…」


「いやぁ…ハハハ……そんな大それたことなんかしないよ、ただ、いつまでも終わった事にウジウジしてる奴を見ていられないだけだよ、なんか、こっちまでムカつく」


「理不尽じゃな」


「おかしい…だろ……私は………そんな…手を差し伸べて…もらう、資格なんて…」


「掴むかどうかは自分で決めろ、俺が出来るのは引き上げるだけ、その後もお前次第だ…そこまで甘くはない…俺は最初の一歩を助けるだけだ」


その者は差し伸べられる手を見つめ、己にその価値があるのかを問うた


「………私は反対したんじゃ…じゃが、誰にだって間違いはある…しかも、お前はまだ幼い子供じゃ…今回は導くはずの者がおらず、知恵も知識も半端…悪い大人にいい様に使われた…全ての責任がお前にあるとは言えないがな…」


「素直にお前は悪くないって言えないかなぁ…負けたのまだ根に持ってるの?」


「やかましい!だいたいあれは私も本気じゃなかったんじゃ!」


「あーはいはい…わかったから……で、お前にはまだチャンスは与えられてもいいと俺は考える…さっきも言ったけど、この手を取るかはお前次第だ」


何故……こんな自分にここまでしてくれるのだろう……何故、こんなにも暖かい心を持っているのだろう…彼は…知りたい…彼の側で知りたくなった


「私は…」


このような者を人々は勇者と呼ぶのかも知れない

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