第2話

   

「それでは、おつかれさまでした。これで解散です」

 ソバージュヘアの女性の終了宣言。

 私はただちに会場から立ち去ろうとしたけれど、後ろからポンと肩を叩かれて、やむを得ず立ち止まる。

 振り返ると、そこにいたのはエントリーNo.9。もう一人のタカハシアヤコだった。

「こんにちは、高橋さん」

 タカハシアヤコが話しかけてくる。先ほどみたいな勝ち誇った表情ではないが、それでも私は少し不快に感じた。

 とはいえ、喧嘩腰で応じるのも大人気おとなげない。そう思って、一応はお祝いの言葉を口にする。

「こんにちは。合格おめでとうございます、タカハシアヤコさん」

 すると彼女はニンマリとした笑みを浮かべて……。

「あら、そんな他人行儀な呼び方やめてよ。昔と同じ『ブサイクちゃん』でいいわ」

「えっ……?」

「ほら、小学校で同じクラスだった鈴乃原すずのはら史子あやこよ。忘れちゃったかしら?」


 ぽかんとする私に対して、彼女は続けた。

「同じ『アヤコ』だから比べられて、私は『ブサイクな方のアヤちゃん』とか『ブサイクちゃん』とか呼ばれて……。今だから言うけど、かなり傷ついてたのよ。このままじゃ済まさない、絶対あなたに勝ってみせるぞ、って密かに決心するくらいに」

「いや、でも……」

「あなたは小さい頃からルックス良くて、あの頃から『大きくなったら舞台女優になる』って言ってたでしょう? そんなあなたの夢を打ち砕けたら、さぞや痛快だと思ってね。だから……」

 彼女の笑顔に、悪鬼のような凄みが加わる。

「……あなたと勝負するために私も演劇を学んで、顔も整形して、わざわざ『高橋』姓の男と結婚して。こうして、私の方が勝者の『タカハシアヤコ』になったの!」

 それだけ言うと、なんだかすっきりしたような様子で、彼女は会場から出ていくのだった。

 唖然と立ちすくむ私を、その場に残したまま。

   

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る