あのまばたきの意味

宿木 柊花

生まれて初めてのお外

 いけないとは分かっていたけれど、少し隙間が開いていて、ふんわりタオルとは違ったお花の香りが気になってちょこっと出てみたんだ。

 そしたらぽかぽかで寝ちゃった。


 戻ろうとしたら、何かに邪魔されて入れない。引っ掻いても鳴いても入れない。

 お家の中は見えてるのに……なんで?

 ━━ぼくはここだよ。

 どうして聞こえないの?


『またね』

 お姉ちゃんの声だ!

 ━━ぼくはここだよ。

 ━━待って。


 床の隙間から落ちないように進むと柵の隙間があった。

 隙間から頭を出して……グリグリ、スポン!

 あれ、あれ、あれれ?

 ぐるぐるぐるぐる。

 スタッ!

 ふらら~……、コテン。

 ぐ~るぐ~る。

 ━━は! お姉ちゃんはどこ?


『ただいま~』

 パタン……。



 お空は電気が消えてもキラキラしてる。きっと、まんまるボールが光っているから。

 お兄ちゃんのブーブーがお外ではとっても大きくて、それにうるさくて、速くて、臭い。

 お鼻がムズムズしちゃう。


 ━━ぼく何か悪いことしたのかな?

 お外は寒くてさみしいよ。

『おい小僧。一人か』

 見たことないぬいぐるみがしゃべった!

 まんまるのお顔は汚れてて、鬼さんみたいな角がある。おまけに体は見たことないくらい大きくて丸い。白い体に丸いシールが貼ってある。手足はないのに長いヘビみたいなのが後ろで揺れている。


 ……おばけ、かもしれない。


 夜寝ないとママが言うんだ『夜ふかしする子はおばけに連れていかれちゃうよ』って。

 きっとそうだ。


 だってパパみたいに臭いもん!


 おばけがゆっくりと目を瞑り、開く。

 ごはんのお皿みたいな銀色の瞳に小さなぬいぐるみがいる。

 連れていかれた子だ!

 逃げなきゃ!

『おい小僧の家は……』

 ぼくは走った。


 危なかった。

 でもどうしよう。

 ━━お腹すいた。

『おい小僧』

 うわ出た!

 ぼくは必死で逃げる。

 右へ右へ右へ曲がる。

 走って逃げるぼくの後ろをおばけは歩いてついてくる。

 もう怖くてお花の中にズボ。


 おばけは『ンナーゴ』って叫んでお家を数回蹴った。


『何!?』

 そしたらママがフライパン持って出てきた!

 ━━ママぁ!

 ぼくは駆け出す。

 疲れてたけどそんなことは気にならない。

『え、タマ?』

 困った顔をしてるけど優しく笑って抱っこしてくれた。温かくてふわふわで大好き。

『先にお風呂ね』

 嫌だけど今日だけは我慢してあげる。



 ママはおばけに美味しそうな缶詰をあげた。

 おばけはまたゆっくりと目を瞑り、開けた。

 瞳の中の子も誰かに抱っこされて安心した顔をしている。

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