アンダードッグ・ゲーム

新巻へもん

第1話 始まり

『百万円を百人に配ります。このアカウントをフォローした上で、直接メッセージを送ってください。百名以上の応募があったときは抽選します』


 短文投稿SNSヨッターへの書き込みは、最初は半信半疑で受け止められた。

 なにしろ総額一億円である。アカウントもできたばかり。

 タダで配るには金額が多すぎた。

 普段は便所の落書き、ネットのスラム、ヨタ話しか流れてこないと揶揄される場所である。

 うまい話に釣られやすい人のリストを作るため、注目を集めるための嘘などの観測が流れ、大多数の人々は様子見をした。

 しかし、数日後には百万円の振り込みが記帳されている通帳や扇状に広げられた万札の写真をヨッター上に載せるアカウントが続出する。

 本当だったのか。

 申し込まなかったことを悔やむ声、抽選で外れたことを悔しがる声が、インターネットを席巻する。

 そこへ第二弾の予告が通知された。

 

『今度はもっとでっかいことをやります』


 当該アカウントをフォローする人が急増する。

 人々は期待を胸に次の投降を待ちわびた。

 しかし、次の告知はなかなか投稿されない。

 ひょっとするとやめてしまったのではないか、という言説が流れだした頃、ついにそのメッセージが現れた。


『ゲームの勝者一名をゲームの達人に認定し十億円を進呈します。参加希望の人は、このアカウントをフォローした上で、直接メッセージを送ってください』


 ごく普通の一般人が生涯で稼ぐ金額はせいぜい二億円程度である。

 一生働かなくていい金額を提示されて日本は熱狂に包まれた。

 続いてゲームの概要が投稿される。

 ゲームの期間は一か月超。横浜から出航する船に乗船。募集する参加者は約十名。

 この投稿単独なら信用されなかったかもしれない。

 だが、既にこの人物は一億円をバラまくことをやっていた。

 世の中には酔狂な金持ちが一人ぐらい居てもおかしくはない。

 ただ、一か月という期間は勤め人にはネックだった。

 ゲームに勝てばいいが、負ければ賞金が手に入らないだけでなく、仕事も失ってしまう。

 定職についていないか、失うものがない人々が多くこの投稿に殺到し、同時に情報を拡散した。

 その結果として『ゲームの達人』がヨッターのトレンド一位を獲得する。

 自分は参加するつもりがない人もその成り行きには着目した。

 ある種のお祭り騒ぎになる。

 参加者募集のメッセージが投稿されてから一週間後、数千万人が固唾を飲む中に次の告知がされた。


『当選者には順次個別に案内を送る。送信後八時間以内に確定させる返信が無い場合はキャンセルと見做して次の人に権利を移す』


 申し込んだ人々のほとんどが落胆のため息を漏らすことになる。

 中でも、メッセージに気が付かずに権利を逃してしまった数名は、千載一遇のチャンスを逃したことを嘆くことになった。

 ヨッターに当選メッセージの画像を上げて、再度チャンスを与えてくれるように願う人も出る。

 しかし、主催者はそれを黙殺した。

 主催者のヨッターは数日をおいてゲームの進行状況を投降する。


『全参加者がゲームの舞台となる船に乗船しました』


 添付されていた写真には、埠頭に接岸されているクルーズ船が写っていた。

 次のメッセージには顔が隠された十人を超える挑戦者が並んでいる様子が載り、参加し損ねた人々は悔しがる。

 特に当選メッセージに気づかなかった数名は歯噛みをした。

 一生分の運を使ったかもしれないのに不幸すぎると悲しんでいたが、主催者の次のヨッターを見て、実は自分は虎口を脱したのかもしれないと思うようになる。

 三日後のヨッターには胸にナイフが刺さった遺体に見える写真と共に次のように記載されていた。


『ゲーム参加者のGがルールに違反して死亡しました』


 ネットは騒然とする。

 加工写真と主張する者、冗談にしても許されないという声などに混じり、ヨッター運営に通報しようという動きも出た。

 しかし、それをあざ笑うかのように衝撃的な画像と共に断続的にメッセージが続く。


『第一ゲームの殺人鬼ゲームを開始します』

『プレイヤーLが串刺しにされました』

『プレイヤーAが殺人鬼に殺されました』


 ネット上ではこのゲーム中継に熱狂した。

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