第一章 状況説明

第一章 一

 その一区画に、希望は無かった。

 白い鳥達はそんな場所から逃げるように飛んでいった。

 巨大な市庁舎の屋上から見下ろしている金髪の男──ネバードは、その区画を睨んでいた。

「なんでだ、なんで俺に反逆するんだ愚民が!」

 眼下に見える「保護区」は、反対側の「居住区」と比べて瓦礫が多く、道路はボロボロで土がむき出しの所が肉眼で幾つも見えた。晴天であるにも関わらず、市庁舎の陰によって陽光が遮られていたため、余計に悲惨に見えた。

「わからず屋の愚民め……」

 ネバードは頭を手で抑え、苛立ちの表情を見せた。

「いけません、雷光の英雄、ネバード様」

「……スティーリア」

 ネバードの真横から、妖しげな雰囲気を醸し出す女──スティーリアが笑顔を見せた。

「英雄が感情的になってはダメですよ」

「……ああ、そうだった。ありがとう、スティーリア。俺は英雄だ、絶対的な英雄なんだ」「そうです。英雄たる者、に、そしてな罰を与えませんと」

 笑みを浮かべたスティーリアの顔を見たネバードは、顔を緩めた。

「ああ」

「それでは……」

 スティーリアは一礼して、ネバードから五歩後ろに離れた。

だ」

 ネバードが剣を天にかざすと、黒い雲が現れ、飛んでいった。次第に肥大化していき、バチバチと重い電撃音が空に響き渡った。眼下の一画を覆う程になったところで肥大化を止めた。

「……死ね!」

 ネバードが剣を振り降ろすと、七つの雷が一斉に落ちた。轟音は、市庁舎の屋上からも届いた。

「この愚民共が、俺の慈愛に満ちた政治に感謝しないからこうなるんだ! 俺は人々を苦しめたドラゴンを討伐した英雄なんだ! もっと俺を崇めろ、讃えろ、犯した罪を後悔しながら死ねぇ!」

 ネバードは黒煙が広範囲で上がる一画を大声で笑った。

 その背中を見ていたスティーリアは、轟音にもひるまなかった。

「操りやすい馬鹿オトコと思っていたけど、こんなに頭が悪いなんてねぇ……」

 スティーリアは鼻で笑ったが、雷鳴でかき消された。

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