親友からのサプライズパーティー
西園寺 亜裕太
第1話
大学に行く前に、自室に置いてある卓上カレンダーに描かれていた丸印を確認する。
「いよいよ今日ですね……」
雫はソッと胸元でボールペンを抱きしめた。去年の誕生日に親友の舞衣がくれたボールペン。このボールペンをもらったお礼をするために、舞衣の誕生日に前々からサプライズパーティーを企画していたのだ。
「いろいろと忙しくなりますが、舞衣さんのために頑張りましょう」
この日のために念入りに準備を重ねていたサプライズパーティーなのだから、絶対に成功させなければならない。雫はグッと握り拳を胸の前で作って、気合いを入れてから外に出た。
まず初めにしなければならないことは舞衣の彼氏の
彼の居場所はある程度把握している。まだ話したことはないけれど、舞衣の彼氏が大学でよくいる場所は大学食堂とサークルの部室であるということは確認済みだ。部室にはすでに昨日の夜のうちに盗聴器を仕掛けておいたから、部室に顔を出したらすぐにそちらに向かおう。
イヤホンで音を確認しながら、食堂に奨里がいないか集中して見ていた。舞衣のサプライズパーティーのために今日は講義を休むと決めているから、1日中食堂に入り浸ることができる。
雫はのんびりと食堂を見回し続けていた。朝の食堂が開いた時間からずっと食堂で待機していたけど、なかなか奨里はやってこない。
お昼の混んでいる時間が終わってから、さらに1時間半ほどが経過する。4限の時間の人が一番少ない時間帯にようやく奨里は一人で食堂にやってきたので、雫は脇目もふらずに、ツカツカと奨里の方に向かっていった。
「随分と遅かったですね」
「え? なんだよ?」
奨里が雫の方を見上げながら困惑気味に呟いていた。真剣な表情をして視線を逸らさずやってきた雫のことを伺っているようだった。雫は奨里が一人で座っている4人がけテーブルの前にやってきてバンっと机を叩く。
「さあ、舞衣さんの家の鍵を出してください!」
左手を奨里の目の前に差し出した。
「は、はあ? 鍵ってどういうことだよ」
「合鍵です。彼氏なら持ってますよね?」
「いや、彼氏だからってみんなが持ってるわけじゃないと思うけど……」
「いいえ、持ってます。舞衣さんの家に合鍵で出入りしているのはもう知っているのですから!」
「舞衣から聞いたのかよ……。持ってるのは認めるけど、いくらお前が舞衣の友達とはいえ人の家の鍵を貸すわけにはいかねえよ……」
当然、すぐに合鍵を渡してくれるわけがないということはわかっている。だから、そのためにきちんと交渉材料は用意しておいた。準備は完璧にしている。なんと言っても今日は舞衣の誕生日なのだから。
「友達じゃなくて、親友です」
先に大事な事実を伝えてから、雫はスマホを取り出した。
「この写真、舞衣さんに見せますよ?」
「は? ……はあ??」
奨里が別の女性と浮気をしていることは知っていた。だから、その証拠を見せたのだ。
「お前、なんでそんなもの持ってるんだよ……! 消せよ! 今すぐ消せよ!」
スマホの画面に写っているのは、夜中の公園で仕事帰りの女性とベンチでキスをしている写真。交渉材料として持っている浮気の証拠の中で、入手方法が比較的問題なさそうなものを提示した。これで納得してくれたら一番楽なのだけど。
「鍵を渡してくれたら今から目の前で消しますから」
奨里が顔をしかめながら、スマホの画面をジッと見ていた。
「今鍵は持ってないんだよ」
奨里の目が泳いでいる。わかりやすすぎる嘘。
「なら消せないですね。舞衣に送りますから」
雫が引かなかったから、奨里が慌てた。
「わかった。渡す! 渡すから……」
奨里は慌ててズボンのポケットからいくつかの鍵がまとめてくっついたキーホルダーを取り出した。その中から一つ外して、雫の方に手渡す。
「これで良いんだろ? はやく消せよ」
手渡された鍵は間違いなく前に舞衣が持っていたのと同じ鍵だった。スムーズに交渉が進んでくれて助かる。約束通り、雫はスマホに触れてさっさと消去の操作をしていった。
鍵さえ手に入ればこんな写真いらない。舞衣以外の人物の写真がスマホに入っているのは嫌だし。
「じゃあ、鍵は借りますから」
困惑している奨里に背を向けた。目的は果たしたので、ここにいる意味ももうない。雫はさっさと大学食堂を後にして、舞衣の家へと向かう。
舞衣は今日は2、4、5限に講義を入れているから、家に戻ってくるのは18時以降。仮に講義をサボったとしても、舞衣は家に帰ることはない。遊びにいくか、バイトに行くか、そのどちらかが多い。少なくとも家にわざわざ帰ることはないから大丈夫だ。それはこれまでの舞衣の行動からしっかり把握している。
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