グリゼラの花と聖女と傀儡

名無し@無名

プロローグ

◆ ◇ ◆


「あら?」


 空席の主人の机の上に置かれた一輪の花。

 それは花弁のみが毟り取られ、茎は中程で手折られていた。


「ああ……今日でしたね」


 メイドはひとりで納得した様に得心すると、花瓶に新たな花を一輪追加した。

 慎ましいながらも美しさを兼ね備えた、この地にのみ咲き誇るグリゼラの花。


「グリゼラの花言葉は『終わりなき苦痛』……我が主人は相変わらず良い趣味ですね、思わず反吐が出ます」


 手折られた花を摘み上げると、指先に走る僅かな痛みに目を細めた。


 美しい花には棘がある。


 細く滴る血を眺めつつ、そう呟きながらメイドはククッと吹き出した。


「棘ですか……いえいえこの花は棘どころかーーーー」


 傷口から血を吸い上げ、懐から取り出した真っ白いハンカチに吐き出す。


「ーーーー猛毒すら持っているのですから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る