先生の涙はしみるほど甘い

暁 雪白

プロローグ 

 光が烈しく散っている。

 いつも思い出す風景はそれだった。

 高校の思い出なんて、もっと印象深いことが他にいっぱいあるのに、真っ先に思い浮かぶのはその風景だった。

 教室の窓のカーテンが、風に膨らんで舞い上がる。先生が教科書を持って歩く。 光は小さな粒になって、窓際を歩く先生の上に降る。

 「これは忍ぶ恋の歌で……」

 その時、先生は一瞬目を伏せた。睫毛の上に光の粒が舞う。睫毛の影が頬に落ちる。先生が教科書から顔を上げる。

 顔を上げた先生と目が合う。そのとき、一層強い風が吹いて、カーテンを巻き上げる。先生の回りが、ちらちら舞う光の粒とカーテンの布で包まれる。

 先生の表情は切なさに満ちていて、睫毛の上のきらめきは光じゃなくて涙に見えた。オレは、|その情景がずっと忘れられなかった―――。

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