第11話「文法2号館編1 パーティ壊滅とカレーライス」

     1


「じゃあ、帰ろうか」

 正門せいもん前で魔王コロシアはニコリと大公爵だいこうしゃく達に言った。


 「兄ちゃん、兄ちゃん」

 泣くアサガオを馬車ばしゃに押し込む。


 「コロシア様。また大魔王城で」

「……」

「調子に乗るなアル、コロシア」


 大公爵ガオウ、カブト、アシュラは馬車に乗った。

 黒いモヤが現れると共に消えていった。

 

 近くでモンスター達がクリスタルを荷台にだいに乗せ、運んでいる。

 勉学頑張れよ。ただ、夢は終わらせない。

 

 戦うの嫌いなんだけどね。大魔王城に来たら、戦う事になるだろう。


    2


「さよなら」

 コロシアが笑いながら、言ってきた。


 「コロシア、コロシア!」  

勉学はうなされながら目を覚ました。ハァ、ハァ。

どこかの部屋で寝ていた。


 「大丈夫ですか?」

 隣に座って、勉学の腹に手を当て、何か魔法をかけている女が言った。

 周りを見渡す。


 文房具ぶんぼうぐの商品、体育座りをしている学生達。

 ここは……、第一購買部こうだいぶか? 

 文法ぶんほう2号館の地下にある……第一購買部だよな?


 第一購買部とはまぁコンビニみたいなものだ。

 ペンや消しゴムとか、パソコンなんて物まで売ってる。

 食べ物は無い。


 また横には、アネゴやチャラ、オリーブが同じ様に寝ていた。

 が、勉学が起きたからか、目を開け、話しかけてきた。


 「勉学! 良かった」

「勉ちゃん! 生きてて良かったっす」

「やっと、起きたの? アンタ?」


 「痛てて。俺達はどうなったんだ?」

 息せき切りながら、勉学は周りに尋ねた。


 「2号館の前で倒れていたので。騎士団の方が中に入れました」

 女学生は答えた。

 吹き飛ばされて、文法2号館にいるのか、今。


 「アサガオは? アサガオはどうした?」

 アネゴ達は首を横に振った。


 「姫から言われ、見てきましたが。もう、馬車は消えておりました」

 ガタイが良い騎士の男が続けて「私は、新政アイスバーグ2番隊3席。ウィル」

 と続けた。


 「アサガオ……」

 勉学は、下を向き、目をギュッと閉じ、苦悶くもんの表情を浮かべた。

 ゴメン、アサガオ。兄ちゃんが弱かったから。


 「とにかく休んで下さい。死んでしまっては元も子もない」

 ウィルは更に「外では副隊長ノーラン殿が戦っているので。ここはそう簡単には落ちません」と言った。


 「黙れ、カス。こんな状況で休んでられねぇ。ここにいるモンスター、皆殺しにして、アサガオを助けねぇと」

 勉学は、賢者の杖を支えにしてよろよろと立ち上がった。


 「休みなさい」ウィルが前に立ちはだかった。

「どけよ!」

「どきません!」

「邪魔すんな!」


 勉学はウィルにタックルするも、跳ね返され、倒れた。

「休みなさい!」

「クソ、クソ!」

 勉学は手で目を押さえた。


 「皆~。カレーライスだよ~」

 と一人のおばちゃんが入ってきた。

 

 あ、あれは、第一購買部の近くにある、懐かし食堂のおばちゃんか。

 懐かし食堂は、東王大学文法2号館にある、小さな食堂だ。

 カレーやうどん等を安価あんかで食べられる、人気食堂。

 

 勉学も勿論もちろん利用した事がある。中央食堂まで歩くの面倒だからな。

 おばちゃんは、荷台に乗せた鍋とステンレスの箱のフタを開けた。

 するとカレーの良い匂いがしてきた。


 「何アレ! 凄い、良い匂い」

 オリーブがヨダレを垂らしている。


 「皆、並んどくれ~。無料だよ~」

 とおばちゃんが叫んだ。「電気がね。72時間で使えなくなるから。今の内に食べときな」と付け足す。


 東王大学は、停電しても72時間は電気が持つ。避難所ひなんじょとして太陽光たいようこう発電とか色々頑張っているみたいだ。本当、有難い試みだよ。


 学生達は次々とおばちゃんの所に行き、カレーライスを貰っていった。

「はい、貴方達の分」

 と女学生達がカレーを勉学達の所に運んできてくれた。

 

 ゴクリ。美味そうだ。

「フン。感謝する」と勉学はお礼を言った。

続けて「さっき、俺に何の魔法をかけていた?」と聞いた。


 隣ではオリーブや、アネゴ達がカレーをむさぼり食っている。


 「白魔法です。回復していました」

 と女学生は言った。「と言っても、この国ではゼロス様の加護かごが弱く。白魔法の効果は全然無いみたいです」


 そうか、ずっと回復してくれてたのか。

 そう言えば、何だか体が軽くなった気がする。


 「あ、貴方にはオートMP回復のスキルがあります」

 と脳の声が語りかけてきた。


 「何だ? オートMP回復って?」と勉学は聞き返す。

 コイツはいつも情報が遅いな。

「何もしなかったり、歩いているとMPが自動で回復していきます。賢者の特権とっけんですね」


 ほう、結構強いスキルだな。

 そうか、休めばまた戦えそうだ。


 「ウィル。さっきはスマン。休むよ」

 勉学は騎士に謝罪した。「しっかり休んで、また戦うよ」


 「はい、共に頑張りましょう」

 ウィルもニッコリした。


 勉学はカレーをどんどん口に運んでいった。

 美味い! 美味い!

 勉学の目から涙がこぼれた。


 日本に帰ったら、アサガオにも食べさせてやりてぇな。


     2


 騎士団員ノーランは、文法2号館前で獣魔じゅうま軍と戦っていた。


 「雷槍らいそうの紋章、発動」

 電撃をまとったノーランの槍が次々と魔物を倒していく。


 「強ぇ! 流石ノーランさん」

 周りの騎士達が讃えてきた。

 いやいや、いつまで魔力がもつか。


 食堂がある文法2号館を守る事が任務だが、果たして夜まで生きていられるか。学生達を説得し、安岡講堂こうどうまで行くべきなのだろうか? 

 流石にそれは無理か。


 ザシュ!


 と右隣みぎどなりにいたソフィアの胸にツララの様な物が刺さった。

 ソフィアは絶命ぜつめいした。


 「アメメ。オエッ。苦そうな奴いるアメ」

 と猫の魔人が前に立っていた。ペロペロキャンディを舐めてる。


 「お、お前は?」

 言うが早いか、左隣にいたエマの体に木が巻き付く。


 「木火拳(ウッド&ファイヤー)」

 ともう1人の……鳥頭とりあたまの魔人が呟く。エマは燃え、焼死しょうしした。


 「エ、エマ!」ノーランは叫喚きょうかんする。

 鳥の魔人は、青い胴体どうたいに青い羽……、青サギの魔人と言った所か。


 「アタシは、アメリア・キャンディ。獣魔軍の軍団長アメ」

 と猫の魔人が言った。「好きなのは、甘い人。ガオウ様みたいな」


 「俺は、アオサギ。同じく獣魔軍の軍団長サギ」

 青サギの魔人も続ける。「てか、アメリア! お前が好きなのは、俺サギ!」


 「ハッ? いつまで彼氏面してるアメ?」

「お前の為に、一杯のアメ用意したサギ」

「え? 本当?」


 「嘘サギ。サギギ」

「あぁ? 嘘ばっか付いてんなアメ。苦いんだよ、アンタ」

 何だか痴話喧嘩ちわげんかをしている様だ。

 

 しかし、流石軍団長。とんでもない魔力を感じる。

 何とか、オリーブ様と学生達だけでも、逃さないと……。

 どうすれば……。


 「エミリー、イザベラ。私がおとりになる。その間に、オリーブ様達を安岡講堂に連れていけ」

 とノーランは指示しじを出した。


 「ハッ」

 とエミリーとイザベラが文法2号館内に入ろうとする。


 「飴玉の唄(アメトーク)」

 不意にアメリアがささやいた。するとトゲ状の巨大なアメが、エミリーとイザベラの背中に刺さる。「逃がしはしないアメ。皆殺しアメ」


 ノーランは、額から大量の脂汗あぶらあせを流した。

 オリーブ姫、逃げて下さい! 殺される! 文法2号館の人間全員殺されるぅぅ!

 終わりだァァァ!

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