第9話「正門の戦い2 魔王襲来! コロシアと勉学」

     1


 図書館前広場としょかんまえひろばで、勉学はぐったりしていた。

 オリーブが心配そうにそれを眺めている。


 「パニックハウスは、能力の発動中はつどうちゅう、大量の体力と魔力を消費しょうひします」

 脳の声が呟いた。


 「早く、言え、カス……。他に言う事は無いのか?」

 勉学は息せききりながら、言う。


 「ルールその3。パニックハウスでストック出来るのは、7つまで。超えたら、削除して下さい」

 と声はささやいた。

 

 どうやら、最強の能力では無い様だ。結構、色々なルールがあるらしい。

 勉学は、パニックハウスのルールについて反芻した。


1、敵がその時に一番恐れている技や魔法、モンスターを習得しゅうとく出来る。

2、大量の魔力と体力を消費する。

3、魔人は召喚獣として召喚出来ない。

4、7つまでしか能力はストック出来ない。

 

 今の所、こんな所か。

 ストックは7つまでかぁ。急に微妙な能力に思えてきた。


 よろよろと勉学は立ち上がり、

「よしっ。アサガオを助けに行くぞ」

 と言うが、また、地面にひざをつく。ハァハァ。かなり、きついな。


 「ま、まずは、文法ぶんほう2号館目指さない?」

 オリーブが意見を言ってきた。「あそこに拠点きょてんがあるのよ」


 「どういう事だ?」と勉学は訊ねる。

 「食堂やコンビニとかね。役に立ちそうな所は、確保かくほしてあるの」


 「……。随分ずいぶん、詳しいんだな。東大について」

 「うん。前回の大戦の時の、ノウハウがあるから」

 

 「何だ、前回の大戦って?」

 「10年前にもあったのよ。この戦い」


 「な、何だと? どういう事だ?」

 勉学は愕然がくぜんとした。10年前にも、この戦いがあっただと。


 ザザザッ


 とモンスター達が図書館前広場に集まってきた。クソッ、こんな時に。


 「分かった。オリーブ、文法2号館を、とりあえず目指そう」

 勉学はオリーブに提案ていあんした。

 「OK」と彼女は頷いた。


 「召喚獣しょうかんじゅうブラックドッグ」

 勉学が呟くとブラちゃんが出現しゅつげんした。

 乗れ、とオリーブに言い、自分も乗る。


 更に「真っすぐ進んで、右に曲がれ」と指示を出した。

「グルル」

 とブラちゃんは走り出した。


 ハァハァ。文法2号館まで体力と魔力が持つんだろうか。

 それまでに尽きたら、詰むぞ、マジ。

 モンスターの中をブラちゃんは駆けていく。


     2


 チャラは、アルマジロックから逃げながら、正門せいもんにいるアネゴの元へ辿り着いた。

「アネゴ、助けてっす」


 「チャラ、黙ってろだぜ」

 アネゴは、真剣しんけんな顔で馬車ばしゃを見つめていた。


 4台の馬車を見ると、その中からとんでもない魔力を持った白髪はくはつの美少年が降りてきた。

 手にアサガオを抱えている。


 隣には、ちょこんと小さい女の子もいる。

「お兄ちゃん、怖い」

 女の子は震えながら、美少年に抱きついた。


 「フフ。大丈夫だよ、カエデ」

 そう言って少年は、カエデの頭を撫でた。

 

 「アサガオー」

 右方面から、突然懐かしい声がした。


     3


 勉学とオリーブはブラックドッグに乗り、法3号館と文法2号館の間を走っていた。

 

 さっきから、左手で巨大な音が響いている。

 銀杏並木いちょうなみき通りに辿り着き、左を見ると、ん?

 赤い髪のショート女と金髪の青年がいた。

 

 アネゴとチャラ?

 そして、アサガオ? アサガオだ!

 何故か、車椅子無しに立っている。


 「ブラちゃん、左、左」

 勉学は叫ぶ。ブラちゃんは、ぐるると左折する。


 「ど、どうしたのよ? 右よ、右」

 オリーブが困惑こんわくする。


 「弟が、いたんだ。アレはアサガオだ」

 勉学は興奮こうふんして話した。良かった、生きてた。


 「嘘! やったじゃん。これもオリーブ様のおかげね」

 彼女は、嬉しそうに指をパチンを鳴らした。


 「アサガオ!」

 勉学は大きく叫んだ。


「兄ちゃん!」アサガオも涙ながらに返答へんとうする。

「勉学」

「勉ちゃん。あと、アレ? オリーブちゃん?」


 アネゴとチャラも声をかけてきた。良かった。皆、生きてて良かった。

 あと白髪と女のクソガキがいる。何だ? アイツら。

 白髪のヤツは、アサガオを左手で抱き寄せている。


 「おい、白髪のクソガキ。貴様、誰だ?」

 勉学は、小僧に尋ねた。

「僕? 僕はコロシア・デスモール。魔王さ」

 コロシアはニヤリとした。「勉学だよね? 久しぶり」


「何だ、久しぶりって?」

「ん? 知らないフリ? それとも忘れちゃったのかな?」

 コロシアは悲しい顔をした。

 

 何なんだ、コイツ。これが魔王?

 てか、魔王って何だ? オリーブが倒してって言ったのは、大魔王だよな?


 「おい、魔王って何だ?」

 勉学はコロシアに聞いた。


 「大魔王軍で2番目に偉い感じ、かな」


 「そ、そ、そ、そうか」

 勉学は体がカチコチになった。


 「どうしたの、勉学」とオリーブは心配する。

「緊張モードっす」

 チャラが答える。「勉ちゃん、目上の人が相手だと、凄い緊張しちゃうっす」


 「そ、そ、そ、そ、そんな事ないぞ、チャラ」

 勉学は震える足を殴り「ム、ムーボ、ムーボ、ハツバク」と呪文を唱えた。


 しかし、魔法は発動しない。ボボンとブラちゃんも消えた。

 クソッ、魔力切れか。

 

 仕方なく、勉学は賢者けんじゃの杖を槍モードにし、コロシアに斬りかかった。

 

 ピィン。


 コロシアは、人差し指で槍を受け止めた。

「うーん。まだ、早いかな。僕に挑むのは」

 コロシアはフフと笑うと「召喚獣バフォメット」と呟く。

 

 黒山羊くろやぎの頭に、黒い翼が生えた悪魔が現れた。

 バフォメットは、「ラーグ、ラーグ、ビーティ」と詠唱えいしょうする。


 そして、圧殺重力球グラビティ・ボールと言った。

 勉学を黒いたまが襲う。ズシンと、勉学は地面に押し付けられ、血を吐いた。

 苦しい、押しつぶされそうだ。


 「ちょっと、静かにしててね」

 コロシアはニコっとする。


 ハァハァ。まずい、魔力は0.そして、重力魔法。

 死ぬ、今度死ぬかもしれん!! どうする! どうするぅぅ!!!!

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