今日も日々が巡る

 プルルル...プルルル...ガチャッ

 「お待たせしました。立花商事、甲斐が承ります。」


 朝のモーニングルーティンである電話対応。いつも2コール以内で他に取られてしまうため、あまり会社の役に立てていないのは自覚している。そもそも、2コール以内だというのに、「お待たせしました」の枕詞まくらことばは正しい使い方なのだろうか。


プルルル...プルルル...ガチャッ


 「お待たせしました。立花商事、伊勢が承ります。」


 これで回線が二つ埋まった。しばらくはコール音から解放される。


 石𣘺いしばし勇大ゆうだい、32歳。入社して今年で10年目。肩書きは特に無いが、誰かの迷惑をかけるようなことはしないよう努めている。おかげで職場の仲間とも仲睦まじくやれている。


 広告代理店の日々は忙しくも、充実していると感じる。ある程度は決まった仕事の流れがあり、臨機応変に立ち回る場面というのは、そんなに多いわけではない。しかし判断を迫られることもあり、そのたびに熟考しては周りと話し合っている。


 身勝手に立ち回ったりすることなどはまず無い。聞こえはいいかもしれないが、単純に極度の優柔不断なのである。


プルルル...プルルル...ガチャッ


 「お待たせしました。立花商事、奥山が承ります。」


 いつも通りの作業をこなす。残り10分かそこらで営業回りをしてくればよい。ここ1年は特に新規開拓をしておらず、お得意様との付き合いを大事にしている。顔見知り同士なので、問題が起こることなどほとんどない。


 こうして今日も日々が巡る。今日も変わり映えのない、なんとも穏やかな一日となるはずである。

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