エフロレスンス
勿忘草
1話
「うわぁぁぁああ!!?」
珍しく騒がしくない昼休み。右隣に座る学友の情けない悲鳴で、クラスメイトは一斉にこちらを見た。ひそひそと、話し声が聞こえ始める。
「なんだよ
「く、
震えながらずっと指され、気になったのでゆっくりと触れてみることにした。先程完食した弁当のミニオムライスのケチャップがついたにしては大袈裟だ。口元に触れても首を横に振られ、そおっと左目の上、眉のあたりに触れた。
カサリ。
人間の肌ではない何かがある。スマホを取りだしカメラアプリを起動、恐る恐る内カメにする。そこに、俺の顔にいたのは植物だ。ぴょこりと、眉から蔓が生えている。イボイボとしたこれは蕾だろうか?虫に見えなくもない。そう言えば
「虫じゃねえよアホ」
「え、あ…ホントだ。な、なんだっけ?エフ、エプロン?」
「エフロレスンスな?」
頭を押え、真面目な顔で間違っている彼に「エプロン病ってなんだ」と軽いツッコミを入れておく。よほど嫌いなんだな。
──エフロレスンス病。通称、
数年前に現れた謎の病。植物が生えるだけで、特に害はないとされる。海外では腕の植物を無理に引き剥がそうとして、切断することになったケースがあるらしい。治療薬は未だなく、どこかの
手術はその植物の種類によるが完全に取り除くのは難しい。やれる医者は限られ、金はかなりかかる。そのうえ痕が一生残ることが多い。開花病を一つのファッションとして、一つの個性として捉える開花病のインフルエンサーやモデルが現れ、最初こそ燃えたりしていたが開花病を敢えてそのままにする人間が増えた。
数日前のニュースでは、日本の人口の7%以上開花病患者がいると言っていたか。たった7%、なんて思っていたがまさか自分に来るとは。
「え、食葉っぺも開花病なカンジ?花は違うっぽいけどオソロじゃーん!」
「お、おう…」
ギャルがぐいぐいやってくる。
こいつは去年も同じクラスで、その時からこの花はあった。クラスをまとめたり、授業は割と真面目に受けたり、宿題忘れたら見せてくれたり、良い奴ではある。
「ねぇねぇ食葉っぺ。放課後、あの子のとこ行ったら?」
「一年の時から思ってたけどその呼び方なんだよ。…あの子って?」
「呼び方はまぁなんとなく?みこっちのことだよ。みこっち、知ってるでしょ?」
「あたし、これ咲いた時に相談行ったんよー!勢いにちょっと引かれたカモだけど親切!部活入ってないはずだし、図書室の出没率クソ
「席座れ夏恋」
「ギャン!まだチャイム鳴ってない!頭叩かないでせんせー!!」
「ハイハイ、ワルイワルイ」
担任の
分厚い歴史の教科書で軽く叩かれた馨はきゃんきゃん仔犬のように吠えるが、香月先生は適当に受け流している。いかにも少女漫画にありそうなやり取りで、他の女子からは羨望の眼差しが向けられていた。
先生はふわぁ、大きく口を開けてあくびをする。どこかでカシャカシャなにかが聞こえたような気がして、そちらを見れば女子の一人がスマホを構えていた。
「んあー……食葉、開花病か」
「え?あ、はい」
「なんの花だそれ?」
「知らねえっす」
始業のチャイムが鳴ると、また香月先生は席に着くよう促す。皆急いで席に座り教科書筆記用具を取り出そうと、机や椅子がガタガタ動かされる。その間に香月先生は教卓へ。懐からケースを取りだし、眼鏡をかけていた。
「18世紀…いや、ここは終わらせたわ。あー、その次…128ページ開け。押し気味でやるぞ、19××年──」
カツ、カツ、カツ…カツカツ
「もう三分の一が寝てんじゃねえか、はえーよ。起きてるやつ全員ここ線引いとけー、今度のテスト何とは言わんが俺が作るからなー」
カツ…カツ……
「──、ですか?」
「ハズレだ大車、まぁ気持ちは分かる。遠目から見りゃ皆同じ顔だ。こいつの名前は」
カッ…
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