第3話

 とうとう選考の日、私は集合場所の東京駅までバスを使った。地方に住んでいる子は大変だろうな、などと考えながら指定された場所に向かう。途中心細くなり茜ちゃんに「もう着いた?」と当たり障りのないLINEを送る。ゆっくり歩きながら返信を待っていると、「もちろん!」とキャラクターのスタンプとともに返信が来る。はやる気持ちを抑え、駅前の信号待ちで茜ちゃんの姿を探す。目いっぱい目を細めて見渡すと、駅から少し離れたところに、「にじいろカンパニー」と書いてあるワイシャツを着た大人の姿、真っ白なワンピースを着た茜ちゃん、その他参加者らしき人達が見えてきた。かなり余裕をもってきたのにほとんどの人が集まっていることに驚きつつ、信号が青になったので駆けていく。

「おはようございます」

 スタッフらしき男の人に挨拶をしつつ、茜ちゃんに小さく手を振る。男の人は微笑んで言った。

「おはようございます、オーディションスタッフのナカニシです。石橋葵さんですね?」

 なぜ名前を? と怪訝に思い、一拍遅れて一次選考で写真を送ったからだ、と気が付く。今更どんな写真を送ったのか気になってくる。ナカニシさんは笑顔を崩さず続けた。

「こちらが資料になります。港まで向かうバスで自己紹介をするので、一分くらいで考えておいてください。ネット配信もされますので」

 ネット配信、という言葉が急に現実味を帯びる。遠足のしおり並みに薄いパンフレットのようなものを渡され途方に暮れていると、茜ちゃんが駆け寄ってきた。

「自己紹介、考えた?」

 わざとらしく首を傾げて大きな声で話す茜ちゃんを見て、あ、本気なんだ、と思った。スタッフさんに見せるために演技してるんだ、と。茜ちゃんは、

「わたし、ダンスと歌習ってるから、披露しちゃおっかな!」

 と、いつもより少し上擦った声でいう。あまりに頑張っているので、こんなに緊張していて1週間持つのかな?と心配になるほどだ。そもそも茜ちゃん、ダンス習ってたっけ?

「ね、葵ちゃん?」

 茜ちゃんが縋るような目でこっちを見てくる。曖昧に頷いて、他の参加者を見回してみる。高校生くらいの女の子たちが5人、それぞれ2人組と3人組で固まっていた。みんなメンバーカラーを意識しているようで、服の色が統一されていて可愛い。少し不安を感じていると、ナカニシさんが話し始めた。

「みなさん、そろそろ出発するので、右手にありますバスに順番に乗車してください」

 静かな緊張感が走り、みんな恐る恐るといった雰囲気でバスに乗り込む。茜ちゃんの隣の席に座りシートベルトをすると、すぐさまバスは走り始めた。不安で茜ちゃんのほうを見ると、茜ちゃんも不安そうな顔でこっちを見ていた。ナカニシさんが大きな声で言う。

「配信スタートまで、3、2、1、はい、スタート!」

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幽霊屋敷の殺人 雨沢花名 @minatsu_

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