埋まっているもの
春雨倉庫
一話
「あそこは怖い鬼が出るから、近寄ってはいけないよ」
子供の頃、近くの森に入ろうとすると、親や先生に脅かされるのが、この辺りでのお決まりだった。
学校や、公園、思いつく場所を遊び尽くした小学生たちにとって、森という未知の世界はとても魅力的に映るものだ。
それでも、「そこ」に入ろうとする子は、僕の知る限りではいなかった。大人たちがあんまりキツく脅かすからなのか、もしくは、なんだかんだ薄暗い森が怖かったか。
いずれにせよ、子供だけで森に入るのが危ないというのは確かだ。身を守るための教訓が、妖怪やお化けが出るといった伝承として残っている地域は、珍しくないだろう。
ただ奇妙なのは、祖母にだけは、一度も脅された記憶がない事だった。
もちろん、遊びに夢中になってうっかり森に入ってしまった時には、祖母自身が鬼に見えるほどの剣幕で説教されたが、不審者がいるかもしれないとか、そういう現実的なことしか言われなかった。
変だと思って聞いてみると、
「もし鬼が出ても、あんたの方が強いから気にしなくていい」
根拠もなにもない話だったが、彼女がそれ以上なにも言わないので、そういうものかと思って、その時はむりやり納得したのを覚えている。
あんまり力強く言い切ったので、バカバカしくなってあまり深く考えないようにしていたが、それでも胸のどこかにはずっと不安が残って消えなかった。
だって、
彼女の口ぶりは、あの森に、本当に鬼が出ると言っているように聞こえたから。
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