社畜OL、売春JKを買う【星400個&十万PV突破ありがとうございます!!】
アトラック・L
Memory one【The Beginning】社畜OL、売春JKを買う
第1話 くたびれOLと売春JK
川を見つめる。青黒く濁った水面は、今立っている橋からずいぶんと下を流れている。
冬の寒さが私の頬に刺さる。これなら、万一即死できなくても、すぐに凍死できそうだ。
もう、疲れてしまった。何もかもが、嫌になっていた。
だから、死ぬことにした。カバンを置いて柵を乗り越え、あとは飛び降りるだけ。
心臓がうるさい。決意とは裏腹に、身体は生存を望んでいる。その鼓動は恐怖心を産み、私はそれを無視する。
背後を走る車群は、私の存在を気にかけない。
「バイバイ、世界。バイバイ、私」
私の世界はこれで終わる。ようやく解放されるんだ、と思うと不思議と口角が上がった気がした。
そして、私は一歩踏み出し──。
「待って!」
──誰かに手を掴まれた。
「おねーさん、死ぬんならさ、最期にわたしを買わない?」
それが、私と彼女の出会い。どこまでも狂い続ける物語の始まりだった。
暗い夜でも、真昼のように煌びやかな歓楽街を歩くその人物は、若かった。
「ちょっと、どこ行くの⁉︎」
彼女は私の手を握って、歩き慣れた様子でネオンを抜けていく。所謂不良、遊び人なのだろうか。
そう思ってから、いや違うかと思い直す。遊び人ではなく、援交少女。それがどの程度まで許しているかは知らないけど、彼女はお金のためにそうしている。
で、私は援交の誘いに頷いてしまったわけで。バレたら大変なことになるなぁ、とかこの後死のうとしているはずなのに、そんな事を考えていた。
「どこって、ホテルしかないでしょ? おねーさんはわたしを買って、わたしはおねーさんに買われた。あ、もしかして外でシたかった、とか?」
少女は振り返り、意地悪げに笑う。ネオンの光が彼女の顔に落ちる。
「そういう事じゃなくて、その……私女の子と関係を持った事ないし……」
というか、男性経験もないし。何言ってるんだろ、私。恥ずかしい。
「わたしは経験あるから、身を委ねるだけでいいんだよ」
少女は慣れた足取りで建物に入っていく。見上げると、ちいさなお城じみた建物だった。所謂ラブホテルというやつだ。
恥ずかしさから入るのを躊躇していると、
「おねーさん、早く、早く!」
ホテルの中から少女が手招きする。
中に入ると煌びやかな装飾のロビーがあった。少女はすでに受付を済ませていて、カードキーを手に持っている。年齢確認されていない事から、無人のホテルなのだろうかとあたりをつける。
明るいところに出ると、少女の姿がよく見えた。
栗色の髪。三つ編みにして、右側から胸の高さまで下ろしている。
その胸は程よく出ている。推定Dカップほどか。お腹は引っ込んでいて、スレンダーな体型だ。
着ている服は紺色の制服。ジャンパースカートにボレロの、上質な生地だ。
総じて清楚な印象。だからチグハグに感じた。こんなにも清楚な子が、なぜ売春なんてしているのか。
「おねーさん?」
「あ、ううん。その、年齢とかって」
「大丈夫、ここは無人だから。さ、行こ」
少女は再び私の手を取り、チェックインマシーン横のエレベーターを呼ぶ。チャイムがして、扉が開かれた。
手、柔らかいな……。それに、後ろを歩いているといい匂いがする。
なんか、変態じみた思考をしているなと思う。なんだってこんな事が気になってしまうのか。
「なんか、眩しいな……」
若さとか、その明るさとか、私にはないものばかりで羨ましい。
「着いたよ、おねーさん」
手を取られたまま、エレベーターから降りる。少女は割り当てられた部屋の鍵を開ける。迷いの見受けられない動作から、この子はいつもこんな事をしているのだろうと容易に想像できて、他人の事なのに胸が痛んだ。
部屋の中はシックな雰囲気で統一されていた。入り口入るとすぐに大きなベッドが見え、透明なガラスで仕切られた先には浴室があった。全て黒を基調にした色使いをしている。
初めて入ったけど、なんていうかすごくオシャレだな、と思う。
「さ、おねーさん。まずはお話ししよ!」
少女は踊るようにベッドまで歩み寄り、腰掛ける。おいで、と手招きされる。
言われるままに隣に座る。すると少女は私の腕に自身の腕を巻きつけてきた。むぎゅ、と胸の感触がして、ドキリとする。
「おねーさん、名前教えて」
上目遣いで、少女が見上げてくる。ナチュラルメイクが施された、愛嬌のある顔立ちは、なるほど男受けしそうだ。
そういえば、互いに名乗っていなかった。私は内心では少女と呼んでいたし、彼女はおねーさんと呼んでいた。
「私は
「じゃあ、澪おねーさんだね!」
澪おねーさん、と呼ばれて私は硬直する。誰かから、下の名前で呼ばれたのはいつぶりだろう。
彼女の明るく、
「そうそう、わたしも名乗らなくちゃね。
「エリナちゃん?」
うん、と頷くエリナ。おそらくは偽名だろう。
「ね、わたしの事好きにしていいんだよ。どんなプレイだって、できる範囲で応えるから。でも──」
エリナは自身の太ももを二回叩く。
「とりあえず、頭乗せて」
膝枕をしてあげると、彼女はそう言っていた。アラサーの私がJKにされるというのは、いささかの恥ずかしさがあった。
躊躇していると、エリナは私の肩を抱きよせ、膝の上に頭が乗るように倒した。太ももの柔らかさが、マシュマロのようで心地よい。
「澪おねーさん、疲れているみたいだから」
そう言いながら、エリナは私の頭部に手を乗せる。
「今だけは、私がおねーさんになるね」
優しい声色で、上から彼女の声が降ってくる。
頭の上で、手が動かされる。ゆっくりと、愛おしいものを撫でるように。
「何があったか、無理には訊かないけど、抱え込みすぎると耐えきれなくなるよ」
母が子に諭すように、エリナが語る。
「うん」
返事をする声が震える。自然と胸の奥が熱くなる。この感覚はなんだろう。
「だからね、今は甘えて。わたし、澪のモノだから」
情けない。一回りも離れた子供に、こうやって甘えさせてもらうなんて。しかも相手は、売春を持ちかけてきた子なのに。
私の頭を撫でる手は止まらない。丁寧に、ゆったりとした動きで。
横目でエリナの顔を見る。髪型もあってか、大人っぽさを受けた。それに加えてこの包容力。これじゃあどっちが大人かわからない。
彼女は私の耳に口を近づける。
「好きにしてもいいんだよ、わたしの事」
「うん……じゃあ、もう少しだけこうしてていい?」
「もちろんだよ、澪は甘えん坊だね」
JKに甘えているという背徳感、彼女が持つ母性。それに何より、この関係性がお金によって成立するものだという異常さが私の情緒を破壊していく。
けど、一番の理由はたぶん、
「初めて……誰かに優しくされたなぁ」
たとえその優しさがお金で買ったモノだとしても、それが私の心に染み渡っていく。
「昔っから否定されてばかりで……両親にも、上司にも暴言吐かれて……だから……」
だから、もう限界だと思ったのだ。生きていくのが、どうしようもなく辛くて、でも吐き出す相手もおらず。
積み重ねられた傷痕が、私を殺そうとして、そして自殺を図った。
エリナは辛かったね、とか頑張ったねとか、そんな上辺だけの慰めはしなかった。ただ黙って、私の独白を聞いてくれていた。そして頭を撫でてくれた。まるで母親のように。
子供の頃の記憶に、そんな記憶はない。母に甘えた記憶なんて、頭を撫でてもらった記憶なんてなかった。
「もう死んじゃおうって思って、そう思って……」
温かいものが眼からこぼれる。それが涙だと気がつくのに、少し時間がかかった。
いつ以来だろう、泣いたのは。何十年も泣いていなかったような気さえした。
涙は津波のように。
無限に押し寄せたのだった。
「……もう眠りなさい、澪。眠って、休みなさい」
優しい声。頭にある手の温もりと、その囁くような声で私の意識は落ちていった。
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