あのまばたきの意味

月井 忠

第1話

「なんか気持ち悪い」

 上司はそう言うと背中を向けて部屋を出ていく。


 簡単に言ってくれる。


 その気持ち悪さの原因をもっと論理的に語ってくれないと、こちらもどう直せばいいのかわからないではないか。


 箱型のロボットに目を向ける。

 正面には小さなディスプレイがついていて二つの目が映っている。


 もともと、この物体は気持ち悪い。

 ロボットの下には車輪がついていて、人や環境を認識して動くように設計されている。


 勝手に動き回る箱に愛着を抱くのは難しい。


「目でもつければいいんじゃない」

 以前、上司はそう言って帰っていった。

 試しにディスプレイをつけて見せたのに、結果は変わらなかったようだ。


 何がいけないというのか。


 残業をするわけにはいかないので、帰路の間、私は考えた。


 ディスプレイに映した目はロボットの視線の動きをアニメーションで示すためのものだった。

 見られている感覚はあった。


 しかし、監視されているという感じもした。


 電車に揺られながら、窓の外を見る。

 トンネルに入ると、車内の様子が窓に反射した。


 座席に座っている者の中には眠っている者もいる。


 そうか、目を閉じないから気持ち悪いのか。




 次の日、私はまばたきのプログラムを組んだ。

 とりあえず、ランダムでまばたきをするようにして動かしてみる。


「何か、違う」

 可愛げはあるのだが、こちらが指示を出している最中にまばたきをされると、馬鹿にされていたり無視されているような気がするのだ。


 私は更に悩むことになる。


 人はいつまばたきをするのだろう。


 その時、私の脳にひらめきが走った。




「うん、なんかいいね」

 上司は納得して、ロボットに指示を出している。


 やはり簡単に言ってくれる。


 その良いと思う理由をきちんと言葉にして欲しいものだ。


 もっとも、私自身もこの感覚はわかる。


 私は相対する人間がまばたきをしたら、ロボットもまばたきするようにプログラムを組んだ。


 後から知ったことだが、人間同士でも目を合わせて会話をすると、まばたきが同期するらしい。


 試したときには、なんとも言えない一体感があった。


 どうやら、瞬きには意味があるらしい。

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