S級冒険者パーティーから追放された男と、婚約破棄されて追放もされた公爵令嬢が出くわしました〜〜先行き不安な彼らは冒険者として新出発するようです〜〜

おむ●び

第一章【追放と迷宮編】

第一話『S級冒険者のノリタケさん。うっかり追放されてしまう』


 俺の名前はノリタケだ……。

現在17歳、ファンタジー世界の住人だ。


 なんか死んで、異世界転生してきたことも今となってはどうでもいい。


 大事な事は、この世界の3大冒険者ギルドの1つである【KPM】に所属していること。

 そして更にこの世界に4つしかない、Sランク冒険者パーティーのメンバーであること。


 それだけ、それだけなのだ。



 ――――2年前、俺は冒険者養成施設から追い出されるように首席で卒業した。

そこでは自らが立ち上げた『歌姫同好会』の部長をつとめ……冒険者としてデビューしてからもみんなから慕われ、尊敬されたからこそたった2年でS級冒険者まで駆け上がることができた……。


 俺は南国の島に1000坪の別荘も持っている。 

美人アイドルからも追っかけをされている…。


 税金だって、他人の100倍は払っている!

どんな迷宮ダンジョンの敵だろうとぶちのめしてきた……!


 いずれは王様にだってなれる!


 そんな、そんな俺がだ……!!



「お前をこのパーティーから追放する」


 ギルド【KPM】の集会所。

俺達Sランクのパーティーメンバーだけが使えるVIP専用ルームの中で、仲間のダークエルフがそう言った。


 今、追放されようとしていた。


 *



「―――俺の名前はノリタケ。冒険者だ。

今、ひょんなことからSランクパーティーから追放されようとしていた……

俺の名前はノリタケ、あのSランク冒険者だ。俺の名前はノリ……タケ」


「頭がおかしくなったのか? もう一度言うぞ。

このS級(ランク)冒険者パーティ『南国の島のマンゴー』から追放する」


 俺は一瞬焦っておどけてみせた。

……が、彼女に再び追放宣言されてしまった。チャンス失敗である。


 そして結局、冗談なのか本気(マジ)で言われているのかどうかがわからずにいた。



 彼女の名はアウガルテン。ダークエルフで年齢不詳。


 白髪ポニーテールに鋭い目つきに黒い瞳。

装備は軽装の物しか着用しないので、ダークエルフ特有の褐色の肌と抜群のプロポーションを誇った肉体が今日も強調されていた。


 そして、クールビューティーな彼女は、一応このパーティーのリーダーということになっている。


「何言ってるんだアウガルテン。

Sランクに上がってからまだ少ししか経ってないのに冗談きついぞ。

今から迷宮(ダンジョン)に行くって言ってただろ。

冒険が俺たちを待ってるという話は嘘だったのか?」


「私は今日、冒険云々の話は一切した覚えがない。

ダンジョンの話もしていない。冒険も何も待っていないから諦めろ」


 と彼女は腕を組んで、仁王立ちをした状態で言った。


「しかし、色々なことがあったな。 

思い返してみれば私は……いいや、これは今言うべき事ではないな」


 と彼女は空を仰いで言った。

本人が何一つ了承していないというのに、勝手に感傷に浸り始めたのだ。


「何はともあれ…お前の『南国の島のマンゴー』での活動はこれまでだ」



 やばい。ガチトーンだ。

………これ結構やばくないか? いつもの冗談じゃないぞ!


「そっ、そのパーティー名だって俺が命名したんだぞ!」


 と俺は話を逸らすために意味不明な反論をした。


「ああ。

”お前が”命名したものを”お前が”勝手にギルドに提出したせいで、S級になった今でもこんなパーティ名だ。周りの奴らから何と呼ばれているかしっているか?」


 といった時、彼女は実に渋い顔をしていた。


「え、あ、いや…しらない」

 俺は実は知っていたのだが、知らない風を装った。


「S級マン●だ」


「………」


「S級マ●コだ」


 とアウガルテンは2回言った。


「なんか……ごめんな」


 実は広めたのは俺なのだが、そこまではバレていないようなので助かった。


「ただでさえパーティー名がおかしいのに、その上に下品極まりないあだ名までつけられたのだ。加えてこのパーティーは女が3人でお前という男が1人だ。

男四人だけで構成されたグループなら、こういうあだ名は面白いだろうが。

私達にとっては何も面白くない」


「でも俺はめちゃくちゃ頑張ったぞ! 

変なパーティー名にしたことは謝るけど、それを吹き飛ばすぐらい頑張った!!」


「そうだ。お前はこの2年間よく働いてくれた。本当に恩にきる。

このパーティーはお前を失うことで活動に支障が出るだろう」


「なっ…なら!」


「人間性に問題がある」


 と彼女はすっぱりと言った。


「………」

 自分でも思うところがあるので、ぐうの音も出なかった。


「そして先ほど、私がS級マン●と言った時に一瞬だけ表情を崩しただろう。今もだ。 …そういう所だ。

大方、下ネタを私に二回も言わせて内心ではほくそ笑んでいたのだろう」


 と言われて俺はびっくりした。

全部合っていたからだ。


「なな、なんでわかるんだ」


 と言うと、彼女は少し機嫌が良くなった。


「長い付き合いだ。

何を考えているかなど手に取るように分かる。

このダークエルフの淫乱どスケベ野郎が、とも思っていただろう」


「それは思ってない」


「……どちらにせよ、お前はそういう思考をしている人間だと周囲の人間に思われていると言うことだ。当然これは総意だ」


 彼女の頬が紅くなっていた。



「ハハッそんな馬鹿な」


 と半分笑い流しながら、先ほどから黙って聞いていた彼女達を見た。


 彼女達は、俺の思考が終っているということが当然であると言わんばかりの表情をしていた。



「ミントン!! エインズレイ!!!

お、お前等俺の事をそんな風にみていたのか?!」


 ミントンというのは。

澄ましたようなエメラルドグリーンの瞳。

ピンクと白のメッシュが入り混じった髪の毛に白いリボンで括られたツインテールの髪型……そんなメンヘラみたいな格好をした小柄な美少女のことである。


 そして、その隣にいる白髪ロングボブの髪型に青い瞳をした美少女がエインズレイだ。彼女はアウガルテンに負けないほどスタイルが良く、普段は和服のような装備を着ている俺の幼なじみだ。因みに彼女は獣人なので頭に獣の耳が生えている。


「そんな風にみてたも何も、他にどういう見方があるっていうのぉ?

ノリタケの思考が異常で、大抵がつまらないことは共通認識だって思っていたんだけどっ!」


 とミントンが口を開いた。


「お、お前……」


 俺はよろめいた。


「ノリタケが買ってきた南国のリゾート地帯にある別荘さー。

全然泊まりにいかないのに、莫大な家賃がかかってるんだからねぇ?

一回パーティーを抜けて頭でも冷やしてきた方が…むぐ」


 と彼女が話しているその途中で、なぜかアウガルテンが慌てて彼女の口を手で塞いだ。


「南国の島のマンゴーなんだから、南国の島に別荘でも持ってないと駄目だろ!」

 そんなことはおかまいなしに俺はキレた。



「はぁ~~~~~? 

あんな別荘、持ってるだけでこのパーティーが更に馬鹿みたいにみられるぅ!」


 ミントンはアウガルテンの手を無理やりどかして、あざとらしくほっぺたを膨らませると、わなわなと身体を震わせて今にも手が出ようとしていた。



 そんな姿をみて俺は本当に悲しくなった。


「いつからお前らはそんな薄情な奴になったんだ……。

これまで一緒に頑張ってきたじゃないか……。

始まりの迷宮の時も! 神緑樹の輝きの迷宮の時も!! 最果ての迷宮の時も!!!」


「あーもういい! ノリタケお前は変に粘るな。

もう用済みだから消えろ! 

それと最後のやつは全然しらない出来事だ。

最果ての迷宮なんてものは存在しない。夢の中での冒険を加えるな」


 アウガルテンは怒り始めたミントンをなだめつつ、流れを変える為に言った。


 そして俺はショックを受けた。

あの出来事が自分の夢だったことに。


「エインズレイはどう思うんだ!! 

さっきから黙ったままで! 

俺と幼なじみの仲じゃねえか! 何か言ってくれないのかよ!」


 俺は最後の頼みの綱である、エインズレイに話題を振った。

彼女は俺の幼なじみだ。養成所のときからの付き合いだ。


 彼女だけは静観を貫いていたので、もしかすると心の奥底では反対してくれているのかもしれない。


 考えてみれば当たり前のことだった。

それだけ俺達の絆は深いのだから。


「………」


 不気味なほどに黙っていた。


「え、エインズレイ……?」



「………気持ち悪かった。普通に…。

女子トイレの中にずっと男がいるような気分……。

……びっくりしたから私に振らないで。消えるなら黙って消えた方が男らしい、と思う」


 と、彼女は短くてパワーのある言葉を俺にぶつけてきた。一番ショックだった。


 獣耳がひょこひょこと動いているのも、俺への煽りにみえた。


「……別にそこまで言わなくても良いのではないか…?」


 とアウガルテンが彼女をたしなめた。

俺が目に涙を溜め始めていたことに気がついたのだろう。


「もう、これで分かっただろう? 

この状態で、ここに居続けても恐らくお前が辛いだけだ。

一度パーティーを抜けて頭を冷やしてこい」

 とアウガルテンは子供を諭すような口調で言った。


「くそ! 持ってる荷物とか装備を全部置いてけって言うんだろ!?」


「全くそんなことは思っていないし、言ってもいない。

何より大量の荷物をこの部屋に置いて行かれても困る。邪魔になるだけだ。

お前は高価な装備も禄に付けていなかったし、それ以前に全て男用だろう。ため込んでる謎の道具も他の人間には禄に扱え…」


「ほらな! ずっと俺の荷物が欲しかったんだろ!?

もってけ泥棒!! それじゃあ達者でな!」

 俺はこのままアウガルテンに喋らせておくのは不味いと思って、この場からすぐに逃げることにした。


「待て!! 今日のゴミ当番と掃除当番はお前だ! 

せめてそれだけはやっていけ! あと荷物は全部持って帰れ!!」


「まじ最悪ぅ! ミントンの部屋にごみを置いていかないでぇ~~~」


 背中から怒号が聞こえてくるのを無視して俺は部屋から飛び出すと

 「今日は昔使ってたあの宿屋に泊まるからな!」と叫んで、そのままギルドから後にした。

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