きめらいふ!
風梨
突然の出会い
太陽のように明るい照明に照らされる中でボクは目を覚ました。
くらりと揺らぐ視界と感覚。
胸の内に感じる不快感をえずくように吐き出した。
「かっはッ」
ボヤけていた視界がようやく機能を取り戻す。
──血が、広がっていた。
なんだ、何があった。
温い血溜まりの中で喘ぐように口を開閉する。苦しさに胸を握りしめても、断続的な胸の痛みは途切れてはくれない。
混乱の極致にある思考は正常に機能してくれない。せめてもと断片的な記憶を手繰り寄せようとする前に、ボクの中から声が響いた。
『無念、無念だ・・・。貴様の身体を乗っ取り、この忌々しいダンジョンから脱する事が出来ぬとは・・・』
脳内に響き渡る何者かの声。その声には覚えがあるのに、ノイズが掛かったように記憶にモヤが掛かっている。
聞きながら、痛みに耐えながら言葉を紡ぐ。
「キミは・・・誰だ・・・?」
『誰?誰だと?おいおい、寝ぼけているのか?』
ケタケタケタと不気味に嗤う声が響き、誇らしげに謎の声は言った。
『俺様はキマイラ。かの高名な錬金術師ニコラス・フラメルに造られた至高の生き物だ。──さっきまで、お前の目の前に居たカッコいい獣が俺様だよ』
キマイラの言葉を聞き、苦しさを堪えながら、ボクは今日の出来事を思い返していた。
「──ダンジョンに行くぅ!?」
女の子の大きな声が校舎の渡り廊下を揺らせた。
場所は学校だった。
授業も終わって、人影も疎らになった校内を歩きながらの大声に、ボクは慌てて周りを見渡しながらその小さな口を両手で塞ぎにかかった。
「こ、声が大きいよ!!」
「むーっ!むーーーっ!!んはッ!もう!女の子の唇に触るとか、最低!ユウキってばイヤラシー!」
「そ、それはキミが大きな声出すからでしょ!?」
「はいはい、私が悪かったですー。で、本当にダンジョンを見つけたの?」
黒髪のポニーテールを揺らしながら、髪と同じ黒色の瞳でボクを見つめてくるのは可愛らしい女の子だった。
「うん。ほら、ボクんちの裏山って人の手がほとんど入ってないから、もしかしたら未発見のダンジョンがあるんじゃないかって思って、探しててさ」
「──で、見つけちゃったって訳ね」
「う、うん」
「はーっ、気弱そうな見た目なのに、ユウキってばそういう変なとこはガッツあるよね」
「へ、変じゃないやい!ダンジョンは男のロマンだよ!」
拳を握って熱弁を振るっても、ひらひらと手を振ってコトネは受け流した。
「はいはい、どうせ女子の私にはわかりませんよー」
拗ねたように唇を尖らせながら、でも、すぐに冗談っぽい笑みを浮かべ直したコトネが続けた。
「でさでさ、中には入ってみたの?──金銀財宝ザックザク!?」
「どこの海賊時代だよ、それ」
「えーっ、ダンジョンってそうじゃないのー?」
「ほんっとにダンジョンに興味ないよね、コトネって」
「あはは!うん、まっったく興味なーい」
「・・・はぁ、ダンジョンっていうのは、異世界との門って言われてるんだよ」
「ふーん?」
わかっていなさそうな表情を見せるコトネに、ボクは意気揚々と熱弁を振るった。
──ダンジョン。
西暦1999年。いわゆるノストラダムスの大予言と言われた日に、ダンジョンは全世界同時に出現した。
当然ながら世界は大混乱──するかと思われたが、ダンジョンの中で見つかる神秘的としか言えない、魔法の品の数々が発見されたことで忽ち風向きは変わった。
秘宝や財宝、珍獣や怪獣、科学では説明のつかない摩訶不思議な魔法の品々。
それらが新発見される度に人々は沸いた。
世は、大迷宮時代なのだ。
「──ほーら、金銀財宝も見つかるんじゃない」
「そ、そうだけど!大事なのはそこじゃなくって──」
「はいはい。じゃあ、宝石の一つでも見つけたらプレゼント待ってるからねー」
「あっ、コトネ!?い、一緒にいかない・・・」
と、ボクが手を伸ばした先には、後ろ手に手を振っているコトネの後ろ姿があった。ガックシと肩を落として、意気揚々と語りすぎたために地面に置いてしまった荷物を拾い直して帰路につく。
スマホを片手にスクロールして、昨日から見ている、とある『冒険者』の成功譚を眺めた。
「・・・『ダンジョンは、いわば出会いの場。気になるあの子と一緒に挑めば、距離が急接近すること間違いなし』・・・よくよく考えれば、女の子がダンジョンに一緒に行ってくれるって時点で相当に難易度高いよね・・・」
スマホを閉まって、ボクは徒労感いっぱいのため息を溢した。
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