世界で一番不味い料理
FP(フライング・ピーナッツ)
地獄再び!!一億円のリスク
8月上旬のとある日。
時刻はAM8:30頃。
「………あーあの、 なんの用でしょうか
「………………」
「そうすよ部長、なんとか言ってくださいよ〜!」
ここはとある会社のオフィス。
ワークチェアにはポニーテールで上下黒スーツを着ている女部長の
ジジィは汗だくで立っていた。
彼は別に今の季節が夏で暑いとかさっきまで運動をしたから汗をかいたとかではない。彼が汗をかいているのはただまたくるそれの恐怖が原因だ。
それとは何かって?まぁすぐにそれが分かるさ!
派羽原部長は鷹が獲物を狙うかのように二人を静かに睨み付ける。そうしてしばらく沈黙の後、彼女は腹を括ったかのようにゆっくりと口を開く。
「お前らに次の
「は…はい わかりました。」
―――き、来てしまった。また理不尽な仕事を押し付けてきやがったこのパワー部長。
今、ここには部長以外に二人の男性社員がいる。
一人は先程汗だくで立っていた『天真爛漫』という男だ。彼はこの会社に長年勤めて来たベテラン社員で人生経験が豊富でとてもおしとやかな人で、髪は綺麗なリーゼントをしていて、身なりもしっかりしている。朝食は米派、そして必ず味噌汁も付ける。
ついでにこの作品の主人公だ。
もう一人はこの会社に勤めてまだ日は浅い、およそ4ヶ月ほどだ。彼の名は『百戦錬磨』。つい半年程前に内定を貰ったばかりの新卒野郎だ。
とても馬鹿そうな言葉遣いで深夜に若い集団とワーキャー騒いでそうな見た目だが髪型は大人し目のボブヘアーだ。
ついでに彼は朝はパン派。
つまり二人は真逆の存在だ。
この二人は名前が四字熟語と同じ為部署内では呼びやすい名前として部長からの提案で天真爛漫と百戦練磨はそれぞれの頭文字を取って『テン』と『パイ』と呼ばれている。
正直部長本人の名前の呼びも変えてほしかったが「私は部長だ! そういう頭文字だけで呼ばれると侮辱された感じで不快なんだ」と言っており、仕方なく部長のことはしっかり派和原部長って呼ぶようにしている。まぁそれもなんだかなとは思うが…。
ところでどうしてこんな半グレじみた見た目の奴を採用したのかというと、部長曰く「彼は私が睨んでも目を逸らさなかった、 彼は芯の通った真っ直ぐな男だ!」と言う理由で、採用された。
ちなみにその時、テンは面接内容を記録するために部長と同席していた。
そんな彼だから知っている。パイという男が目を逸らさなかったのは別に芯の通ってる男で真っ直ぐな人でもなく、ただただ部長の異様に伸びている一本の鼻毛が気になってただけだったということを…。
ただ部長本人はそれを異常だとは何故か思っていない様子だ。むしろ鼻毛を崇めているまである。それはテンが入社以来ずっと疑問に思っていることでもある。
話を戻すのだが彼ら二人は今部長から仕事を受けている最中だ。
「お前らには今からあるコンテストに出てもらう。」
「またコンテストですか…」
「あ?なんか文句あるんか? テン」
「い、いえ…とんでもないです…」
「その無気力な顔はあるだろ?!」
「あ…え、いや本当に無いですって…」
「あるなら鼻毛様に向って言えっ!」
「いや、ですから……え?どうして鼻毛?!」
テンはそう理解不能な表情をして部長に訪ねた。
「まぁお前はきっと鼻毛に感謝すると思うからなー、文句なんか絶対言わないだろう」
「鼻毛に感謝するってどういう意味すか?!ハゲなったときに鼻毛を抜いて頭にでもくっつけるのですか?」
「あー惜しい…」
「惜しんすか?ますます意味不明ですよ部長…」
部長とテンの重い空気での会話をパイは何故かチュッパチャップスを口の中で転がしながら横で聞いていた。
まただ、こいつは入社以来ずっとチュッパチャップスを口に咥えている変なやつ、そして本当に自由なやつだ。
普通であれば怒られるのが当たり前だが、彼が怒られないのは一言で片付けられる。
それはこの会社が異常だから。
ほんとそれに尽きる。
「まぁいい、いずれ分かる事だからその事は置いといて…。 それよりこのコンテストが行われるところだが、 まぁこれ見れば行けるだろ」
そう言って部長はコンテストの用紙を2人分渡してきた。コンテストは海外での開催というのもあり用紙は英語で書かれていた。
その紙を見ると、紙の一番上には大きな文字で書かれており、日本語訳すると第三回!世界一不味い料理コンテストと書かれており、その隣にニッコリマークが付いていた。
ただ、それよりも俺が一番目に止まったのはその紙の一番下には大きく賞金一億円と書かれていた事だ。
一億円の賞金、普通の人であれば、もし優勝したらこの一億円どう使おうだとか、冷静な人であれば優勝するためにどうやってこのコンテストを攻略しようかと考えるだろう。 だが俺は違う。
俺が真っ先に思い立ったのは、死後の世界ってあるのだろうかという未だ人類が確証を得ていない問題の解決だ。それを俺はこれから自らの死によって生きている全人類に証明するんだ。……まぁその時喋れなかったら死後の世界の証明しただけで死後の世界は実在していたという紙には署名できないがな…。ハハ、笑えない。
テンは参っていた。
一億円というとんでもなくデカい賞金。ただそれはあくまで表の意味だ。
この賞金一億円にはもう一つ別の意味がある。それは『一億円分のリスク』ということになる。
一般人にとってはそのリスクはどれくらい苦痛か、詳しいとこまでは分からない。
ただただ「一億円だからかなりきついよねー」レベルだ。
ただこのブラック企業に長年勤めているテンにはそのきつさが分かる。
彼は今までいろんなコンテストを部長に強制的に受けさせられてきていた。
一つ例を上げるなら十数年前、まだ消費税が5%のときのことだが、賞金約7000万のコンテストの出場を部長にやらされていた。
コンテストの名は『ターザンもびっくり!!!水責めコンテストinジャングル!』というなんともふざけたもので、虫だらけのジャングルにムカデや蛇など毒持ちの生き物の侵入を防ぐため囲いを作り、その囲いの中で板を敷き、その板の上で横になり四肢を固定され、頭の真上から水滴をひと粒ずつポツポツと落とされて誰が最後までギブアップせずにいられるか!というコンテストだった。
途中審査員は一応身体検査で無害と分かったアリやゴキブリを大量に投入して来たりして、それらが身体に登ってきたりして全身歯痒く、頭も痛い状況で彼は見事優勝を勝ち取った。
これは彼が今回の世界一不味い料理コンテストに参加するまでに一番辛かったコンテストだ…。
そしてあれ以降、今に至るまでいろんなコンテストに出場してきたテンだが、水責めという苦痛を耐えてきた彼にとってはそんな1000万や2000万なんて造作もないことだ。このまま定年退職まで平和に行ける。
退職後は遊んで暮らそう!そんな思いを見事にぶち壊したのが今回の賞金1億円。そしてその賞金の前に立つ『世界一不味い料理コンテスト』だ。
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