蒸気世界の品質管理

kokolocoro

第1話 中間管理職

「ウィル君、今月の生産本数を知っているかね?」

 赤茶けたレンガ壁の小部屋の奥にあるアンティークデスクに肘をつく男が俺に尋ねた。中年太りの男からにじみ出る不機嫌な態度に嫌気がさし、「はぁ」とため息を返した。それが気に障ったのか、セルヴィア品質管理課課長はデスクを力強く叩いた。電報を打つタイプライターがガチャンと不穏な音を立てた。

「二百だよ!二百!それに対してウィル君!何個検品で弾いたのかね!」

 セルヴィア課長は生産報告書と銘打たれた羊皮紙をデスクに叩きつけると、人差し指でトントンと何度も同じ数字を叩いた。そこに書かれた不合格品数と書かれた数字を俺はそのまま読み上げた。

「五十個です」

「三割近いじゃないか!どうしてくれるんだ!」

「お言葉ですが、課長」

 いつものやり取りに決着をつけようと俺は課長に歩み寄った。元々は貴族――窓の向こうにそびえ立つ壁の中にある貴族街から栄転した落ちこぼれたセルヴィア課長は粗暴な貧民の動きに身体をのけぞらせた。

「俺たちが扱うシーリング材は蒸気を絶対に漏洩させない。蒸気機関車や蒸気船に大量に使われ、下手すれば大勢の乗員の命に関わる……課長ご自身が仰った訓示ですよ」

「はて……言ったかな?」

 セルヴィア課長が俺から目を背ける。

 課長も所詮は中間管理職だ。上からの無茶な指示と良心の呵責に苛まれ、胃に効くと評判の漢方を飲む姿を目撃したことがある。

「俺たち品質管理課が不良品を世に出さないように目を光らせろ。これも課長の訓示でしたよね?」

「そんな口約束よりノルマだ!生産本数に勝るものは他にない!」

「命よりも……ですか?」

 いつもの皮肉に課長はだんまりを決め込む――月末の昼休憩前に起こる品管課課長室の風物詩だ。

 職業に貴賎なし――誰が言ったか分からないが、きっとに違いない。品質管理より生産が、生産より貴族の開発が、開発より営業が、営業より社長が、社長より利益が偉い――身分差が生まれるのは必然だった。

 農村からシロバダイム王国の王都へ逃亡して七年が経つ。社会の歯車の常識は俺も重々承知だが、いざと言う時に責任を取らされるのは決まって弱者だ。だからこそ、嫌なことでも言うべきことは言うべきで、それが弱い貧民が社会を生き延びる秘訣だ。

「その話はもう止そう」

 自ら始めた喧嘩を上から目線でなかったことにする──負け惜しみと聞き流すのにも慣れたものだ。

「それよりこれを聞きたまえ、ウィル君」 

 引き出しを漁ったセルヴィア課長はラジオを取り出した。ラジオを聞きながら仕事しているのかと訝しむ俺の目の前で、セルヴィア課長は慣れた手つきでチューニングしてラジオを鳴らした。

「陸、海の旅の次は空の旅へ!蒸気機関と言えば、メテノス社!メテノス社の提供でお送りします!」

 ラジオからメテノス社の軽快なコマーシャルが流れた。

 メテノス社はこのシロバダイム王国が誇る国営企業だ。蒸気機関や通信の技術を生み出し、蒸気機関車や蒸気船や電報を開発し、国に産業革命と言う名の栄華をもたらした。

 ラジオを切ったセルヴィア課長は不敵な笑みを浮かべて俺を見上げた。

「わが社の製品が新しくメテノス社に採用されるそうだ」

 含みを持たせて話す程、驚愕の発表でもない。

 俺が勤めているアンタレス金属工業のシーリング材は現に多くの蒸気機関車や蒸気船メーカーに採用されている。無論、メテノス社も例外ではない。

「だが、聞いて驚くなかれ!」

 セルヴィア課長が窓の外を指した。いちいち大げさだなと内心愚痴りながら、窓を見やった。

 工場の煙突から上がる灰色の煙が分厚い雲を作り、町を覆い尽くしている。

 遥か遠くに貴族街と貧民町を隔てる壁が立ちはだかり、貧民街の空には大きなアドバルーンが一つ浮かんでいる。内蔵されたスピーカーで起床時間と仕事始まりと昼飯と仕事終わりと就寝時間を毎日逐一知らせるメテノス社製の労働者生活管理ワーカホリックバルーンだ。

 すっかり見慣れた光景に首を傾げる俺の隣で、課長は大きく咳をして喉を整えた。

「人を乗せた空飛ぶ船、メテノス社肝いりの蒸気気球船に我がアンタレス金属工業のシーリング材が採用されたんだよ!」

「今日も冗談が一段とお上手ですね、課長」

「失礼な!冗談じゃないぞ、本当の話だ!」

 口を突いて出た毒舌にセルヴィア課長が上機嫌なツッコミを返した。

「こいつが製品だ」

 セルヴィア課長は背後の棚を開けてボトルシップの裏に置かれた製品のレプリカを取り出すと、デスクの上に置いた。

「これもゴム製ですか?」

 両端の径が大きく異なる円筒――さながら東洋で流行りのお猪口ちょこのような形状だ。検品では見たことのない形状だが、その独特な弾力性には身に覚えがあった。

「社長のお気に入りのゴム製の配管ジョイントだ。ゴムは君も知っておろう?」

「噂程度には……」

 珍品好きな社長が旅先のイギリスで交易商から買ったものだ。

 南国の木から採れた樹脂で、その腐臭を社長が大層気に入り、何かに使えないかと開発に渡したらしい。

 社長の気まぐれに頭を悩ませる開発の姿が目に浮かぶ。

 社長の命を受けた開発部隊は、わが社が得意とする金型に流し込んで焼くことで気密性に優れたシーリング材を開発した。大型蒸気船の船底の防腐材に採用されたのを皮切りに、金型と並ぶ我が社の主力製品となった。今回も蒸気の漏洩を防ぐ用途だと力説し終えたセルヴィア課長は俺に命令した。

「ウィル君、一週間後に試作生産が始まる。検査項目と人員を決めてくれ」

「検査項目って……開発が決めることでは?」

 セルヴィア課長は黙って首を横に振った。

「人員配置は……課長が決めることですよね?」

 セルヴィア課長は頑なに首を横に振った。

 ただの責任放棄じゃないかと声を上げようとした瞬間、「ウィル君」と問答無用とばかりに遮られた。

「この会社で検品をして七年。君はもう立派なチームリーダーだよ」

「チームリーダー……ですか?」

「そう。君もそろそろ経営とは何たるかを経験するべきだ」

 経営を知ることに何のメリットもない。

 経営するのは壁の向こうから指示する貴族だけで、国外から来た流れ者の俺には縁もゆかりもない話だからだ。課長お得意の『上の立場になったつもりで仕事しろ』論法も出世できない定めの人間には何も響かない。

「労働者の皆様!メテノス社が十二時をお知らせします!」

 耳障りの良い虚言で丸め込もうとする課長に異を唱えようとしたが、工業地帯の上空を浮かぶバルーンの時報に遮られた。

「今回の件は全て君に一任する。決まったら私まで報告したまえ。社運がかかっているんだ!頼んだよ、ウィル君」

 勢いよく立ち上がり背筋を伸ばしたセルヴィア課長は俺の肩を大げさに叩くと、そのまま部屋を後にした。主のいない部屋にため息だけがひっそりと響いた。




 ため息をつきながら事務所の扉を開けると、黒い粉塵を纏った突風が俺を襲った。慌ててゴーグルを着けて外に出ると、オーバーオールの作業着を着た作業員がぞろぞろと工場から出て来ているところだった。

「いらっしゃい!いらっしゃい!美味しいパンにサンドイッチはいかが!」

 威勢の良い声に向かって作業員が銅貨を握りしめ走り出した。クロッシュをかぶせたパンを持って売り歩くパン屋の女の周りに作業員が一斉に群がり、「まいどあり!」と女の首元にぶら下げた空き缶に次々と銅貨が投げ込まれる。

 次々と売り切れる昼飯を見て、俺は群がりを押しのけてパンを奪い取った。投げた銅貨が空き缶に入るのを確認して、群がりから即座に逃げ出した。

「ウィル先輩、お疲れっす」

 クロッシュを開けたところで背後から声をかけられる。振り向くと、工場の煙から落ちる黒い粉塵をもろともせず卵入りサンドイッチを頬張るツンツンヘアーの青年の姿があった。

「よう、ヘンリー。今日はゆで卵入りか」

 クロッシュを開けた中に横たわるサンドイッチに付いた黒い粉を息で払いのけながら頬張り、口の中に広がる不協和音とまろやかな卵の食感を楽しんだ。降り注ぐ黒い粉には命に関わる有害物質が含まれているらしいが、それを聞いて戸惑う者は誰一人としていない。

 金と命、どちらが重いかなんて天秤にかけるまでもない分かりきった話だ。

「どうしたんっすか?元気ないっすよ、先輩」

 検品する時は雑だが、人を見抜く時はやたらと勘の鋭い男だ。

「新しい生産が始まるらしい。検査項目と人員を一週間でまとめろとさ」

「急な話っすね。適当に決めれば良いじゃないっすか?」

 俺の愚痴を軽口で返すヘンリーに、「じゃあ、お前が決めてくれるか?」と冗談交じりに返すと、「いやいや、技術のことはさっぱりで……へへっ」とヘンリーはお道化て見せた。

 ヘンリーは田舎出の俺に王都の複雑な地理を教えてくれた、検品課のムードメーカー的な存在だ。検査要員にしようと即断できる程には頼もしい。

「新鮮でおいしい牛乳はいかがかね~」

 牛を連れた歯抜けの爺さんに呼び止められる。胴体周りに機械仕掛けのベルトを巻きつけた牛が呑気な声を上げている。

「牛乳を二本ちょうだい」

 銀貨を二枚渡すと、「まいどあり」と言って歯抜けの爺さんはベルトのレバーを動かした。牛の尻尾に取り付けられたエンジンから蒸気が噴き出し、ベルトの先にある乳房に取り付けられた搾乳機が激しく振動した。喘ぎ声を上げる牛の捻りだした乳が腹部に沿った配管を通って、升へ一気に注がれた。

「ほら、おごりだ」

「サンキューっす、先輩」

 ヘンリーに牛乳を渡して、新鮮な牛乳を一気に飲み干す。腐りやすい牛乳を新鮮に飲めるようになったのもメテノス社開発の搾乳機のおかげだ。空になった升を返却して歯抜けの爺さんと別れを告げた。

「検査要員は俺とお前が確定で」

 工場の休憩室へ歩きながら決定事項を告げると、「ええ!俺っすか!」とヘンリーが大袈裟な反応を返した。

「頼むよ、牛乳をおごっただろ」

「まぁ、別に金が貰えるなら何でも良いっすけど」

 少し不服そうなヘンリーを買収したところで、工場の扉をくぐった。

 わずかなプレス成型機だけが小さな蒸気音を上げている。昼休憩で人が出払った静かな工場に、透き通るような女の声が響いた。

「ああ、ウィル!探したのよ!」

 休憩室の方から髪を後ろで結った女が走って来て、俺に声をかけて来る。検品課の問題児の一人に遭遇し、気づけば「ゲッ」と心の声を漏らしていた。

「会った瞬間に嫌な顔されることってある?ひどくない?」

「すまない、ラーニャ」

 可愛らしい顔を膨らませながら、ラーニャが左の義手で俺の額を小突いた。

「今日、早上がりさせてくんない?」

「また夜の仕事か?」

「ママがうるさくてさぁ……ね!たまには良いでしょ!」

 手を合わせてねだるラーニャの前で俺はため息をついた。

 彼女は親に左腕を切られたストリートチルドレンだった。より多くの金を恵んでもらうため、より憐れんでもらうために親が考え出した生存戦略だ。成人して親元から逃げ出した今、勤め先の娼婦館のママに肩代わりしてもらった義手代の返済に追われている。

 ヘンリーに連れてもらった初めての娼婦館で彼女と出会った俺は昼勤の仕事を探していると相談され、彼女に今の職場を紹介した。

 だが、昼夜働き詰めの彼女の勤務態度は良くない。勤務中に寝てしまうほどには検品業務に支障をきたしている。だが、整った顔立ちと魅惑的な身体つきのせいで、彼女を叱れる男はいなかった。代わりに彼女への不満が全て俺に飛んで来ていた。

『ラーニャ君の面倒は君が責任持ってみるんだぞ』

 鼻の下を伸ばしながら彼女を採用したセルヴィア品管課長が匙を投げる始末だ。

「ねぇ、ウィル?」

 相変わらず丸投げしかしない課長だなと自嘲にふけていた俺を、ラーニャの猫撫で声が現実に引き戻した。

「好きにしろ」

「助かる~!ウィル、だ~いすき!」

 いきなり抱きつくラーニャを払いのけた。

 どうせ彼女の要望を拒否しても無断で仕事を抜け出すに決まっている。ならば、先に認めてしまえば課長の小言だけで済む。現場作業員から不満の声を受けるよりも遥かに軽傷で済む。

「良かったっすね、ラーニャ」

「ごめんね、ヘンリー」

「良いっすよ。アンタレス金属工業のマドンナの頼みっすから」

 ヘンリーとの呑気な会話を苦笑いで聞き流しながら、二人目のメンバーをラーニャに定める。彼女から目を離さないよう課長から命令されている以上、俺の目の届く範囲から手放すわけにはいかない。酷評されているとは露知らず、ラーニャは機嫌よく手を振りながら工場の建屋から出て行った。

 品質管理課のメンバーはセルヴィア課長以外に十人しかいない。既存品の検品もある中、試作生産にあまり人数を割くことはできない。

「残り一人はアイツかな」

 もう一人の問題児の姿を思い浮かべながら、ヘンリーと休憩室へ向かった。





「お昼休憩が終わりました!お昼も休まずきびきびと働きましょう!」

 工場地区の空に浮かぶバルーンからの昼休憩の終わりを告げるアナウンスと共に、休憩室にたむろしていた作業員が現場へ戻る中、俺はある男の肩を叩いた。

「ちょっと良いか、リブ」

「何だ?ウィル氏」

 ドレッドヘアーを揺らしながらリブがこちらを振り向いた。やせこけた頬とくぼんだ目、近寄りがたい雰囲気の男――だが、話してみると意外と気さくなギャンブル狂だ。賭博で得た金で俺もご馳走になったことがある。金に無頓着なリブを休憩室に連れ込み、今朝の課長命令を話した。

「品管を二つのグループに分けるのか?たった十人しかいないのに本気マジか?」

「生産試作が始まるらしい。俺とヘンリーとラーニャ、後はパーキンスの四人で試作品を見ようと思う」

「まぁ、妥当だがなぁ……」

 俺の人事案に、リブは頭を掻きむしった。飛ばしたフケで不満を表明してくる。

「人手が減るのはやっぱり困るぜ、ウィル氏」

「技術に詳しい奴がパーキンスしかいない、頼むよ」

「じゃあ、ヘンリー君をよこしてくれねぇか?」

「勘弁してくれよ」

 今まで十人で回していた仕事を六人で回さなければならないとなれば、現場から不満の声が出るのは間違いない。信頼のない上司セルヴィア課長の言葉を素直に聞かない以上、現場を牛耳る人間を先に掌握しておくのが賢明だ。幸い、羽振りの良いリブにおごられたことのない品質管理課の人間はいない。貸しがあるリブの言葉なら誰もが素直に聞いてくれるはずと言う皮算用だ。

「四人でも妥協している方だ。三人は流石に厳しい」

 本音は五人だが、現場が受け入れないと譲歩した人事案だ。それに眠り姫ラーニャ変人パーキンスだけで仕事していたら、俺のメンタルが壊れてしまう。

「うむ、まぁ……それは確かにそうだな」

 俺の人事案の意図を汲み取ってくれたのか、リブはあごを何度もさすりながらゆっくりと頷いた。

「ウィル氏、今度飯をおごってくれ。それで貸し借りなしってことで」

 リブがサムズアップで交渉を認めた後、俺はすぐに最後のメンバーのパーキンスを探しに向かった。

 生産ラインのあちこちで蒸気が立ち昇り、腹の底に響く轟音を上げながらゆっくりと動くベルトコンベアに様々な金型が流れていた。生産ラインに沿うように歩き続け、品管課の作業場へたどり着いた俺は流れる金型を容赦なくゴミ箱へ捨てる若者に声をかけた。

「おい、パーキンス」

「何ですか、ウィルさん」

 顔にまだあどけなさの残る天然パーマの男が遅れて返事した。

 品管課で唯一、錬金術――もとい、科学の知識に長けた最年少の青年だ。貴族が独占している技術知識に詳しく、人より機械と向き合っている時間が最高だと酒で酔った本人は豪語する。そのせいで誰よりも不良品を見抜く力を持っている。

 つまり、品管課が目標生産数に届かないのは

 それでも、パーキンスがクビにならないのはその知識のおかげだ。万が一、不良品のせいで事故が起きた時に、責任者のセルヴィア課長の代わりに責任を取れる男、いわば、セルヴィア課長にとって責任を擦り付けられる大事な盾だ。

 ―――当人はトカゲ尻尾の役目だとは夢にも思っていないことだろう。

「実は新しい仕事を頼みたくてな」

「クビですか?」と眉をひそめて詰め寄るパーキンスに、「違う」と否定する。

「蒸気気球船って知ってるか?」

「スチームクリスタルを燃やして発生する蒸気で空を浮かぶ乗客船ですよね?」

 たった一言から専門用語を繋げるパーキンスの博識ぶりに驚嘆の息を漏らす。

「その部品に採用が決まったらしい」

「配管のジョイント部分ですね」

「あ、ああ……まだ生産試作の段階らしいが」

 部品をすぐに的中させるパーキンスに舌を巻く。

 試作生産段階でまだ機密事項のはずだが、技術屋には容易く見抜かれるのかと自分の失態を反省した。

 根っからの技術莫迦なパーキンスの話に合わせる知識が俺たち貧民にはない。抱いた女の数や喧嘩自慢、果ては、ギャンブル自慢しか語れない貧民の間でパーキンスはどうしても場を白けさせてしまう。当人にそのことを気にする様子はなく、俺も静観を決め込んでいる。

「検査項目はどういうのが良いと思う?」

 技術に詳しいパーキンスにしか聞けない質問だ。本当は開発が決めることだが、現場知らずの貴族様は最後まで責任を持つつもりはない。

「サンプリングして透過性試験をするのが一番ですけど……うん、無理ですよね」

 嬉々として語るパーキンスに「あ、ああ……」と頷くしかない。

 サンプリング、透過性試験……一体、何の話をしているんだとは口が裂けても言えなかった。

「外観不良で良いんじゃないでしょうか?目視で傷や割れ目がなければ合格とか」

「そ、そうだよな。ありがとう!参考にさせてもらうよ!」

 参考にするんじゃない、丸パクリするつもりだ――口が裂けても言えない。

 パーキンスに別れを告げ、そのまま検品のライン作業に立った。

 後日、課長に生産試作の検査項目をそのまま伝えた所、課長から「やればできるじゃないか!」と心のこもっていない承認を得た。人に頼んでおいて実にいい加減な上司である。

 だが、この生返事を後悔することになるのは生産試作が始まった翌日のことだ。

「不良品が多すぎないか?」

 流れる不良品を捨てるゴミ箱は検品して一時間で山盛り――異常事態だ。

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