ADAMON

高丘真介

第1話【記事】金の『ADAMON』

 10歳になったお子さんへの誕生日プレゼントといえば、もちろん『ADAMON』ですよね。世界最小の充電用変換器、というのが表向きの宣伝文句ですが、なによりも『ADAMON』で充電された機器から必ず漂ってくるお菓子のような甘い匂いが、唯一無二の魅力です。

 しかも、その香りは子供にしか感じられない、という秘密基地のようなドキドキ感も魅力になって、十年来、その人気に陰りが見られません。


 そんな『ADAMON』ですが、現在においても工場の門は固く閉ざされて、製造工程を見た者はいません。すべての作業を『DAIHYO』ただひとりの手で進めている、という説が一般的です。

 しかし、全世界に毎年、何万という数の『ADAMON』が出荷されているのです。どう考えても無理筋というものです。誰もそのことに触れないのは、きっと皆さん無意識に「神の領域だ」というどこか禁忌的なものを感じているのでしょう。


 さて、お待たせしました。『ADAMON』に関する直近のニュースです。

 この4月から流通する新ロットに『金のADAMON』を5個紛れ込ませた、というHP上での正式なリリースがありました。

『金のADAMON』を手にした子供限定で、製造工場に招待する、というのです。加えて、なんと「甘い匂いの秘密、すべて教えます」という発表もありました。

 世の大富豪達が我先にと大量の予約注文を入れたことによる、その後の流通網の混乱ぶりは、周知のことと思います。


 ここからはどの媒体でも未発表のはずですが、『金のADAMON』の第一号を『第十三砂漠』のキャラバンの少年が手にした、という情報をキャッチしました。

 2023年8月の『神の鉄槌』と呼ばれる大災厄後、国境は意味を成さなくなり、持つ者と持たざる者の分断が起こったことは、皆さん承知のことと思います。

『金のADAMON』もまた、富裕層の子供達だけが手にするのだろう、と暗澹たる気持ちを抱えていた方も多いことでしょう。そんな中で今回の話は、持たざる者に一片の救いをもたらすホットニュースではないでしょうか。


 それではまた、『金のADAMON』の続報にて、お会いしましょう。

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