やめろ、やめてくれ闇よ。

エリー.ファー

やめろ、やめてくれ闇よ。

 このままずっと、この場所で死を待つような気分になる。たまらない悲しさ、しかし、それもまたいい。どうか、この闇の中に自分を捨て去って新しい居場所を探しに行きたい。

 あぁ、さらば闇よ。

 そして、さようなら闇夜。

 美しい日々であったことは、誰にも語ることはできず、大抵は神話に漸近していくものだ。

 恥ずかしさもほどほどに、清々しさを体の中に備えて、自分の見えている世界と視点の数を知る。

 煩わしさは、私たちの顔を撫でるだろう。

 煩いと感じる限りは、成長は約束されていると言っていいだろう。

 情報が波のように押し寄せて私を流してしまうだろう。流れるのは肉体ではなく、魂だ。美しくはない。薄汚れている。しかし、それが私だ。

 私なのだ。

「殺したのか」

「あぁ、殺したよ。もう、生き返らない」

「どうするんだ。いつまでやるんだ」

「何が」

「いや、こんな仕事さ。人を殺して、人を殺して、人を殺して、たまに殺されかけて」

「死ぬまでさ」

「もう、死んだも同然だろう。俺たちは四十歳だ」

「まだ、いける」

「無理だ。さすがにあり得ない」

「いや、いける」

「何故、そう思うんだ」

「何もかも、満ち足りた気分だからだ。見ろ、ここにある死体を、俺たちは死体じゃない、生きている」

「当たり前だ」

「しかし、それが全てだ。俺たちが死体を見ていて、死体は見られている。そして、死体は俺たちを見ることができない。どうだ、これ以上に満ち足りた気分になれることなんてない。この仕事が一番上等で、俺の人生を彩ってくれる空気なんだ」

「スパイスじゃないのか」

「空気さ。スパイスはないと味気ないが、空気はなければ生きられない」

「なるほど。まぁ、それもそうか」


 闇のために終わり、闇のために始まりを知る。

 いずれ、私の手元には朝が転がってくるだろう。

 それまでの物語を始めて欲しいのだ。

 

 闇の中に落ちた僕と、闇の中にいると思われている誰か。

 黒い世界に私を住まわせてくれ。

 本番を求めているはずが、準備を主としてしまう。

 混然一体とした世界がある。


 闇はずれている。

 あなたの影響を受けている。


 結構、毛だらけ、猫灰だらけ、すべての欲を飼いならせ。


 森の中に闇を見て、空を遠くに感じていた。


 風を送ってくれ。

 夢を見せてくれ。

 神になってくれ。


「やめろ、やめてくれ闇よ。近づかないでくれ。俺は、誰になってしまうんだろう。闇が来る。闇に襲われる。闇が、闇が、今、俺の目の前に」

「たぶん、気のせいだよ」

「え、気のせいかな」

「だって、目を瞑ってるじゃん」

「あ、本当だ」

「たぶん、今までも、そうだったんじゃないの」


 闇が晴れることはない。

 しかし。

 晴れなくとも歩ける目を持つべきだ。


「血相を変えて死ぬ」

「闇の中。いや、光の中でも構わない」

「哲学は、炎の中にある」

「手を使うな。頭を使え。森に住むな、木になれ」

「さようなら、闇よ。また会う日まで。さようなら、月よ、また会う日まで」

「もう二度と来ないだろう」

「二度とは言いすぎではありませんか」


「千年の闇がある」

「百年の光がある」

「何もなくなって、私だけがいる。この坂には何が住む。この先の頂上には誰が立っている」

「さあ」

「誰だ。誰がいる。誰がいるというのだ」

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