2023/6/22 疲労デイ

 人の家を解体した。

 解体するというか、中身を一掃した。ゆえあって我々一家は一日かけて、赤の他人の生活の基盤を破壊して白紙に戻す羽目になった。

 あまりの重労働の余波で、私は作業終了・夕飯を終えてからずっと今の今まで(22:54)爆睡してしまい、ようやっと起きてウォーミングアップ代わりの日記を書いている。夢の中でさえ、人の生活を踏み壊していた。最悪である。


 くわしい経緯は省略するとしても、その賃貸に住むことのできなくなった赤の他人の家を片付けるには精神的な労苦が伴った。配偶者および家族は激しい生活臭や激しいほこりに呻いていたけれど、私は彼(あるいは彼女)が築いてきた数十年の営みをたった一日で更地に戻すことの暴力性についてひたすらに考えていた。

 どれだけ汚くとも手あかがつこうともそれは人の生活であって営みであって、思いの蓄積なのであるから、本当はがさ入れみたいに押し入ってやるものではなくて、本人同伴の元にゆっくりやるべきなのだが――当の本人は不在であったので、代理に誰かがやるほかなかったのだ。それが我々家族だったという、それだけだ。


 業者に頼めば五十万はするという。それはそうだ。まっとうな賃金だ、これは私にはきつすぎる。ある程度の耐性があったとはいえ(前述のとおりである)、精神的には私がいちばんいかれていたと思う。そうは見えなかったろうけど。運び出した家具がどうなるかまでを考えているのは私だけだったかもしれない。

 要らぬセンチメンタリズムだ。


 それはそうとして見たところ一番のダメージを受けていたのは匂いと埃とあまりの汚さに嗚咽していた配偶者であろう。こいつを支えられるのは私くらいのものである。多分。


 23:03、作業を開始する。

 ひどく喉が渇いている。


 

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