第5話 産まれる御子の名は
レオンダイトが身体を水で洗い、清潔なタオルで身体の水滴を綺麗に拭き取り、新しい服に着替えてリリアが頑張っている出産室に向かう途中こちらに向かってくる男に話しかけられる。
「兄貴、話しておきたいことがある。昨日夢でお告げがあった」
兄貴と呼ぶこの男はレオンダイトの実の弟で現魔王軍吸血鬼兵団の党首を務めているアーロン・ヴラッドだ。
「アーロンよ。どんな夢のお告げだ。執務室まで着いてこい。そこでなら聞いてやる」
レオンダイトとアーロンは表向きは敵対してる風に装っているので、この場では誰の目があるかわからないためこれ以上相手にしたくないという感じで返事をした。
「兄貴、、、わかった」
言うや否やレオンダイトの後ろについて行き執務室に移動する。
執務室に入り扉が閉まるのを確認したレオンダイトはアーロンに再会の
「アーロン、よく来てくれた。でももうすぐ息子が産まれるんだ長くは話せないよ。そんな中往来の目のある廊下で話しかけてきたってことは、まさか息子に関わることなのか」
レオンダイトは不安そうにアーロンの言葉を待つ。
「兄貴の推察通りだ。俺の夢の中で
その言葉を静かに聞きレオンダイトはアーロンに告げた。
「それは僥倖だ。それにどんな子供だろうと僕とリリアの愛しい子供に変わりは無い。捨てることなど考えたことすらないよ。強いて言うならアーロンにまた迷惑をかけることになることだけだな」
アーロンはその言葉を聞くと安堵して
「兄貴が捨てるなんて言ったらぶん殴って俺が育てようと思ってた。俺に迷惑をかけることなんて気にすんな。俺は兄貴とリリア姐さんの大事な弟だろ」
とニヤッとした笑みを浮かべ、執務室を後にする。
その後ろ姿を見送りながらレオンダイトは大きく息を吐き、レアンドロが言ってた
アーロンが今語ったリリアから産まれる御子が魔族の運命を左右する忌み子。
「解決しなければならない問題が山積みだな」
まずは当代の魔王様に忌み子を育てることをどう納得させるかだな。
今の魔王領の法律ではエルフとオークの間にごく稀に産まれるダークエルフ、両親の能力を半分づつ受け継ぎどちらも使いこなすような魔族。
このような者を忌み子としてステテコ山脈の谷に突き落とす事になってる。
推察するにこれは悪魔族の世襲で成り立つ魔王職やドラゴン族の世襲で成り立つ丞相職、この2つの種族世襲職制度を守るためだろう。
彼らにとって特異体質である忌み子の存在自体が脅威であることの表れだろう。
忌み子であっても魔王軍の先遣隊として前線で使えることを示すのが一番説得しやすいか。
魔王様のレオンダイトへの信頼はもはや皆無だろう。
しかしアーロンの方は違う。
ならば魔族の成人年齢である10歳になったらアーロン若しくは魔王一派に預けることにして今は引き延ばす。
産まれてくる御子には辛い道を歩ませることになるが、それはリリアと良く話をして心身共に鍛えるしかない。
獣人族の村を焼き討ちしたぐらい領土切り取りに貪欲な当代の魔王様とドラゴン族の馬鹿丞相ならひょっとしたら使えると思わせるだけで今は充分かもしれない。
そのように考えを纏め、執務室を出て、リリアの待つ出産室へと向かった。
出産室の中に入ろうとしたところをキーン婆さんに止められた。
「レオン坊っちゃま、これ以上は御遠慮願いますよ」
レオンダイトは入口の辺りをウロウロしたり置いている椅子に座って足を揺らしたり、顔を手で覆ったり、両手を絡ませて無事に産まれてきますようにと願ったりと落ち着かない。
「ハァ、ハァ、ハァ、ヒッ、ヒッ、フゥーーーー」
時折聞こえるリリアの息遣いが難産であることを物語っていた。
「兄上、ちょっと落ち着いてください」
「兄貴、落ち着け」
レアンドロとアーロンに先ほどから何度もそう言われるがこれが落ち着いていられるだろうか。
そんな感じで、出産室の前を落ち着かずにウロウロして何時間経っただろう。
「オンギャーオンギャー」
「レオン坊っちゃま、産まれましたよ。男の子です。リリア様も御子様も心身共に無事です。少し身体の特徴が兎に角御姿を見てあげてください」
キーン婆さんはそう言って出産室を後にし、レオンダイトは出産室の中に入り、まずは頑張ったリリアの頭を撫でながら
「ありがとう。良くやった」
と耳元で囁いた。
そして息子の顔を良くみる。
なるほど
これが両親の力を均等に受け継ぎどちらの力も使いこなせるって事なのだろう。
たしかに我が息子ながら計り知れないオーラを感じた。
考えを纏め終え、名前を呼ぼうとしたところリリアに止められた。
「この子の名前、レオンも私も考えてたでしょ。一緒に呼んであげない。きっと同じ名前だと思うから」
「そうだね」
2人で声を合わせて
「君の名前はクレオ・ヴラッドだよ」
「貴方の名前はクレオ・ヴラッドよ」
それを聞いたレアンドロとアーロンが笑いながら2人して出産室の中に入り、扉を閉めて
「兄貴、姐さん、おめでとう。御子の名前まで被るぐらい熱々なんだな。ヒューヒュー」
「兄上、奥方様、おめでとうございます。ですがまさか御子の名前が被るとは」
とアーロンは茶化し、レアンドロは驚愕していた。
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