第111話 孤軍奮闘
念のため10階層に飛んだ俺は、海斗からの念話で自分の勘が当たっていたことを知った。
それにしても、まさか渋谷センターがテロリストに占拠されるとは。いくら北海道解放作戦で上位ランカーがいないとはいえ、『新人類』とやらにそれほどの戦力があったのか。
さて、実は俺一度10階層に転移したが、その後すぐ透明化のスキルを使い、1階層へと戻ってきている。
だから、女子大生二人の裏切り行為も目の前で見ていたわけだが、すぐに飛び出したくなる気持ちをぐっと堪えて、まずは人質となっている
後で覚えてろよ、裏切り姉妹め。
一塊になって倒れている
「えーと、名前何だったかな……とりあえずこれを飲んでください」
俺は、明日香が
「っ!? ありがとう。戻ってきてくれたのね。ちなみに私の名前は一色朱莉ですからね」
俺のお手製ポーションだから効き目は抜群。すぐに意識を取り戻し、お礼を言われたんだけど、名前を忘れていたことがバレていて、ちょっと睨まれちゃいました。
それから、二人で倒れてるふりをしながら、お互いの情報を擦り合わせる。
侵入者達の中で気をつけるべきは、チャイナ服を着た女と火魔法を使う男。チャイナ服の女は、元2級の支部長を倒した毒の使い手だとか。
火魔法を使う男は、他の侵入者と同じように黒ずくめだから、見失ってしまったらしい。けど、俺には鑑定があるからね。チャイナ服の女のすぐ後ろにいるのがバレバレだ。
俺は一色さんに
そして、復活した
さて、ここからどうしようかな。いったん戻ってキー坊スタイルで戻ってくるか。いや、それだとタイミング良すぎて一色さんにバレちゃうな。それに、あの女から『新人類』とやらの情報を聞き出せないかな。ぎりぎり負けそうな演出したら、ペラペラしゃべってくれるかも? とりあえず、試してみるか。
俺は再び透明化してゲートの内側へと転移する。そこからさも何もしらなかったかのように登場するために。
「あー、間違えて10階層に飛んじゃった。おや? みんな何寝っ転がってるんだ?」
まさかこのタイミングで出てくるとは思ってなかったのか、海斗達を拘束して運ぼうとしていた侵入者達がギョッとしたようにこちらを見る。
「火の玉よ、敵を打ち砕け。ファイアーボール!」
誰かの詠唱が聞こえてきて、バカの一つ覚えみたいにファイアーボールが飛んでくる。こんなもの余裕で躱せるけど、ここは6級っぽい動きをしないとね。俺は慌てて下がったせいで尻餅をつくという華麗な演技を見せた。ほら、偶然躱したみたいになったでしょ?
「ちっ、運のいいやつめ。だが、今ので倒されてた方が幸せだったかもしれないぞ? 姉さん、ここは俺に任せてください。……爆ぜろイケメン!」
何やらファイアーボールを放ってきた男が、俺の尻餅を見て急に勢いづいて前に出てきた。なるほど、こいつが一色さんがいってた要注意人物の一人だな。注意しなきゃいけない雰囲気は全く感じないけど……
「く、来るな! お前達は一体何者だ? 海斗達に何をした!」
尻餅をついたまま後退る俺。ふふふ、どこからどうみても弱者にしか見えないだろう! 怯えた表情でずりずりと下がる俺の手に何か硬いものが触れた。
(ん? これは推し活のドローンか? そうだ、これのカメラのスイッチだけを入れてヤツらの企みを配信してやれ!)
俺はドローンを背後に隠し、画角を調整してからカメラのスイッチを入れた。
「どうせお前はここで死ぬんだ。せめて自分を殺す相手くらい教えてやろう。俺達は泣く子も黙る『新人類』の一員だ。俺は元4級シーカーで炎使いの大悟だ。名前くらいは聞いたことがあるだろう?」
やばい。こいつ、想像以上のバカだ。それに全く聞いたことがない名前だ。
「大変申し訳ないが一ミリも聞いたことがない。そっちのおばさんなら見たことがあるような気がしないでもないが」
あえて丁寧な言葉を使って煽ってみる。あわよくば女の名前も教えてくれないかなと思って。
「ああん? ふざけるなよてめえ! 俺の名前どころか、元2級シーカーの
バカだ。やっぱりこいつはバカだった。いや、こいつだけじゃない。あの女も今のやり取りに満足げに頷いてるし……新人類ってバカしかいないのか?
「そうか。そいつは失礼した。だがな、こんなことしたら協会だって黙っていないだろう。すぐに助けが来て、お前らなんて捕まってしまうんじゃないか?」
せっかくだから、こいつらの自信がどこから来るのか探ってみるか。さすがに素直に答えてくれるとは思わないが、ダメ元で聞いてみた。
「はっ! 余計な心配はしなくていいんだよ。何せ東京の上位ランカーはいないからな。それに、近隣のシーカー達も助けにはこれないさ。誰だって自分達の街の方が大事だろう」
何と!? ばっちり教えてくれちゃいました!? そうか。こいつら北海道解放作戦で上位ランクの
こいつはバカだが、新人類の幹部達はバカじゃないみたいだ。
そうだ。ついでにこいつらの目的でも聞いてみよう。さすがにダメ元のダメ元だがな。
「くっ、まさかそこまで考えているとは。援軍も期待できないんじゃ俺達はもう終わりだ。最後に聞かせてくれ。お前達の目的は何なんだ?」
さすがに答えてくれるとは思わなかったが、こいつは俺の想像の遙かに上を行くバカだった。
「いいだろう。冥土の土産に教えてやる。俺達の目的は新人類が日本を支配することだ。そのためには一度日本には滅んで貰う必要がある。壊滅状態になった日本を新人類が立て直す。そうすることで、国民は俺達をあがめ奉るだろう。その為には魔物とだって手を組むのさ」
まさかここまで詳しく話してくれるとは……こんなやつが味方にいるなんて、敵ながら同情するぞ。今の会話は全て配信されてるからな。視聴者達によってあっという間に拡散されるだろうよ。
「さあ、おしゃべりの時間は終わりだ。お前を生け贄第一号にしてやる。覚悟するんだな!」
ここまでしゃべってくれたなら、弱い振りをする必要もないのだが配信が続いてるし、一色さんも侵入者がこっちに気を取られている間に、支部長を助けたみたいだから、サポートに徹して支部長達に何とかして貰うとするか。
「俺も少しは抵抗させて貰うよ。ファイアーボール!」
俺は米粒大のファイアーボールを天井目がけて放った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます