第23話 蜂蜜酒


 ぎゅっと目を瞑ったその瞬間、瞼の裏に光が差した。


 薄く目を開けると、大きく開いた冥界の番犬ガルムの口の中に一本の鎗が突き刺さり、その体が魔物らしからぬ柔らかな光の筋を天に放ちながら霧散するところだった。


 刺さる対象を失った鎗は、黒く固い土の上に落ちて転がる。やじりに無数のとげがついた不思議な鎗だった。体を起こし、鎗を拾い上げた時、後ろから声がした。


『やあ、危なかったね。大丈夫だった?』


 太陽の神様みたいな人だった。

 笑顔が輝いていたからかもしれない。


 その人の名前はクー・フリンといった。クー・フリンは優れた戦士だった。わたしを自分の城に連れて帰り、森を抜けたいと言うわたしに剣術や弓術を教えてくれた。わたしは教わったことはすぐに吸収し実践を通して技を磨いた。


 それから間もなく国の果てで戦争が起きた。クー・フリンは戦争に出兵することが決まった。彼が行ってしまう前夜、互いの健闘を祈って乾杯した。その時、彼が革ベルトに掛けていた銀のスキットルに蜂蜜酒ミードを入れて、「これは御守り」と言い、わたしの手に握らせた。


 翌朝、彼は戦争へ、わたしは森へ。

 それぞれの道に分かれた。

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