第65話 好きなモノ


 夏希と二人で歩くこと十数分。お目当てのゲームセンターが見えてきた。そこはレベトルという五階建てのビル。そのワンフロアがゲームセンターとなっている。


 近づくとセンサーが反応。自動ドアが開き風の音がする。


「ゲーセン、二階だっけ?」


「そう」


 ちなみにここ一階はアニムイトというアニメ関係のグッズを扱う店舗が入っている。前に妹に連れられて来たことがあるけど、しばらく見ないうちに内装が大きく変わっているのに驚く。


 まあ、でも良くあることだ。久しぶりに来た店が内装が変わり全くの別店舗のように感じるなんてこと。と、きょろきょろしていると、そんな僕をみて夏希が話しかけてくる。


「......春、アニメ好きなのか?」


「え、あー、まあ。夏希は?」


「......好き」


 短い一言だったが、僕のハートをブレイクするには十分だった。やめろその恥じらった感じの「好き」は。心臓に悪いんだけど。無駄に心拍数あがるでしょーに。


 そんな思いを胸にふらふらと勝手にアニムイトの中へと足が進む。


「そうなんだ。ちなみに何が好きなの」


「んー、そうだな......最近でいうなら、あれが好きだな『ほっぷんぽっぷん』ってやつ」


「ああ、ゆるい感じの。可愛いよね、ほぷ子」


「な!可愛すぎる!あれは反則だよな〜!」


『ほっぷんぽっぷん』とはゆるキャラのような泡のキャラクター、主人公の「ほぷ子」がだらだらとした日常をだらだらと描いたアニメである。ただひたすらだらだらしている彼女らの姿はなんのストーリー性も無いのだが、疲れた現代人には癒やしになっているようで割とヒットしている。らしい。って刹那がいってたんだよね。


「でもあれって中身どんなんなってるんだろうね」


「え?」


 主人公のほぷ子は全身泡まみれのキャラクターだ。本体ってなんなんだろうと思い、夏希へ話を振る。ネズミ?ネコ?もしかして人間?


「夏希は知ってる?」


「いや中身なんてないぞ。あれはああいう生き物なんだよ」


「え、そうなの?まじで?」


「マジだよ。Pwitterで原作のマカロニ先生が言ってたし、これはガチ」


「へえ」


 じゃあそうなのか。中身は存在しないと。なるほど......てかPwitterフォローしてるのか。


「ちなみに言うとあれはただの泡じゃねえ」


「そうなの?え、じゃあなにあれ」


「ホイップクリーム、だ」


 どやあ、と素敵な決め顔でその正体を言い放つ夏希さん。マジかよ、ホイップクリームなのかよ。どーりで白すぎると思ってたわ。


「更に言うとだな、あれは原作とアニメで違うんだよ」


「まじか」


「ああ。原作の方は洗剤の泡なんだが、アニメ版だとホイップクリームなんだ......春、なぜかわかるか?」


「いや......なんで?」


「アニメだと作画が面倒だったらしい!泡の!」


「いいの!?その理由!?」


「ちなみにこれも原作者、マカロニ先生がPwitterで発言していたから間違いない......すげえよな」


 いやどっちの意味で?マカロニ先生がPwitterで暴露したこと?それともホイップクリームに変更された理由のこと?どっち?


 と、困惑していると夏希があるばしょで足を止めた。手を引かれながら歩いていた僕もそれにつられ止まる。そこにあったのはクレーンゲーム。そして中に入っていたのは今の今まで話題に出ていた『ほっぷんぽっぷん』の主人公、ほぷ子の巨大なぬいぐるみだった。


「おお、でか」


 驚きつつ隣の夏希を横目で見ると、すごく欲しそうだった。表情にこそ出てはなかったが、僕にはわかる。だってぬいぐるみに囲まれて寝てるんだよ?この子。


 それに大好きなほぷ子。これは欲しくないわけないでしょ。


「やる?」


 と、クレーンゲームを指差す僕。一瞬夏希の体がぴくっ、と反応したが彼女は首を振る。


「いやいや、こんな大きなの......持ち歩けないし。べつにぬいぐるみとかそんなだしな、うん」


 ん?あれ、前に部屋の中覗かれたこと無かったことにしてます?覚えてるよ、僕。ベッドに置かれた可愛らしいぬいぐるみの数々を。


「そっか」


「ああ」


 言えないけどね?また蹴られたくないし。素直に記憶消しときます。怖いから。


 てか、の割にはぬいぐるみを凝視して動かないんですがこの子。


「まあ、夏希はあれだけどさ」


「どれだよ」


「あ、いやいや、違うから。落ち着け」


 拳を振り上げるんじゃあない!


「これ、プレゼントしたら喜ぶかな。妹とかに」


「そりゃ喜ぶだろ!ほぷ子のビッグサイズのぬいぐるみだぞ!?こんなの貰ったら多分喜びはしゃぐぞ!ガチで!!」


 お、おお。めっちゃ食いつくやん。


「やっぱりそうか、そんな嬉しいか〜」


「ああ。俺なら飛び跳ねるまであるな!まあ俺はあれだけどな!」


 いや結局あれなんじゃん。


「てか春、妹いたのか」


「あれ、言ってなかったっけ?」


「ああ、知らんかった。今度会わせろよ」


「いいよ。今度家くるか?」


「いくいく!土産持ってくぜ。妹、寿司ネタ何好き?」


「海老、蟹かなあ」


「オッケー」


 何となくだが夏希は刹那と相性が良さそうだ。じゃれ合う様をはたから見てたら楽しそう。




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