第47話 どこか


 八種先輩の提案。演奏ではなく僕らのバンドのサポート。


「どう、ですか?何かしたいんです......あなた達のバンドで」


 夏希が首を傾げた。


「......どうしてそこまで?あんたなら他のバンドでも楽しくやれるはずだろ。なぜウチにこだわる?」


 その疑問に八種先輩は答えた。


「憧れた、から......好きになったんです。このバンドが」


 僕らのファンって事か。だからこの音楽活動に携わりたい。なるほど、気持ちはわかる......けど。そして深宙が言った。


「うん。わかりました。......けれど、本当にそれで良いですか?後悔、しません?」


 僕が、おそらくは冬花、夏希もが思っているであろう問を深宙が投げかけた。


「それは......どういう、意味ですか?」


「あんたは『プレイヤー』か、それとも『オーディエンス』なのか。どっちなのかって秋乃は聞いてるんだよ......要するにな」


 夏希が言うと冬花もそれに続く。


「......あなたは、楽器を弾くことが......演奏することが好きなんじゃないんですか?」


 僕も深宙も冬花、夏希。このバンドにいるメンバーは全員、『プレイヤー』だ。歌い奏で、演奏することが何よりも好きだし、だからこそ相応の技術を身に着けられた。


 練習時間の少なさ。まだ可能性はある。けれど、それが誰にでも可能な事では無いことも知っている。そうだ、僕ら四人は同じだったから......八種先輩が普通なんだ。普通の学生で、普通の感覚。


 おそらく僕らは、ネットで言われているように怪物モンスターなんだろう。


(......他者からみれば異様な執着心。僕にはこれしかない取り柄、居場所......けれど、だからこそ得られた力) 


「あたしから見れば、なんですけど......まだ早いかなって思います。諦めるの。......だって、一緒に演奏したいって、せっかくここまで頑張ったのに」


 深宙が言った。


「......explosionは、かなり難しい曲。あれをそれだけの時間で、そのレベルで弾けたなら......可能性はあるんじゃないですか......」


 冬花が言った。


「まあ、確かに言われてみればそーかもな。学祭のライブからっつーことを考えればかなりのセンスじゃねえか?もう少し頑張ってみたら?」


 ニッと笑う夏希。そして......


「八種先輩」


「......はい」


「頑張ってみませんか。ダメだったらダメで、その時はサポートになれば良いし。それに......その『もしかしたら、やれたかも知れない』って可能性が残ると、多分......後悔が芽吹きますよ」


「!」


 それが芽を出せば多分一生苦しむことになる。心に深く根付き、痛みを伴い病む。あの時こうしていれば、と。


 そして八種先輩は考え込み、少しして頷くと笑みを見せた。


「......うん。わかった。やれるところまで、頑張ってみます」


 この日、彼女がバンドに加入することはなかった。けれど、僕らはその可能性という希望を得る。この先で彼女と共に演奏し、同じバンドとして活動する事ができるかはわからないけど......道は途絶えなかった。


「あの、少し練習を見ていっても良いですか?」


「勿論!ゆっくりしていってね」


 深宙が笑顔で返す。夏希がくるくると飴の包み紙を剥がし、冬花がコクトウくんを拭き始めた時、僕は言うならこのタイミングか、と赤名の事を思い出す。


「あの、皆」


「ん?」と、夏希が言い冬花は眠たそうな目でこちらを見た。深宙と八種先輩もこちらへ注目する。


「えっと、ちょっと......相談があるんだけど」


「相談って、なに?春くん」


「実は今日、学校で赤名に話しかけられて......なんかライブするみたいでさ」


「へえ。あいつまたバンド組んだんだ」


 と、夏希が言うと、その問いに答えたのは八種先輩だった。


「なんだか、PwitterとかのSNSで集めた人達みたいですよ」


「へえ。赤名とは連絡取り合ってんだな?」


「あ、いえ。なんかべつに聞いてもいないのにメッセージくるんですよ。ブロックしたらそれはそれで怖そうなので、既読スルーしてますね」


 既読スルーのがヤバくないか?いや、ブロックも危なそうだな。これどっちが良いんだろう。迂闊にどちらが良いとは言えない感じだな。


「ちなみに赤名くん以外は結構名のある人達みたいで、WouTuberみたいですよ。確か、登録者は8万人とか」


 8万か、8万ね.....なんか感覚狂うな。僕らが下手に成功して500万を突破しているから、8万が少なく感じてしまう。


「って、話遮ってごめんね、佐藤くん」


「え、あ、いえ。えっと、それでそのライブに僕らも出ないかって誘われてるんだよ」


「「「「!!」」」」


 まあ、そうだろうな。そりゃ驚く。


「学祭のお詫びらしいけど。どうする?」


「えっと、また口を挟むようであれですけど......それ、赤名くんのことだから何か裏があると思いますよ」


 八種先輩が言うと冬花がうなずいた。


「......まあ、だとしても。ライブの回数は増やしたいところ......」


「だね。とにかく実戦経験が欲しい......」


「まあ、何かしらの罠だろーが俺らなら大丈夫だろ。うけよーぜそれ」


 深宙、冬花、夏希の考えが一致する。確かにそれでライブ経験が得られればサイコーだ。けど、赤名が改心したとは考えにくい。


「佐藤くん、大丈夫?」


 八種先輩が心配して僕の顔を覗き込んだ。バンドメンバーとは違い彼女だけが赤名をよく知っている。だからこそ、この不安げな表情なのだろう。


 けど、それを掻い潜り得られるリターンは大きい。おそらくここもアウェーとなるだろう......なら、良い練習だ。


「うん、大丈夫。それじゃあ受けるって言っておくから。ちなみに今週の土曜日夜、19時からだって」


「土曜日か......今日が火曜だから、すぐだな。練習しねーと」


「うん。がんばろう。あたし達ならやれる」


「......ですです」



 僕は皆の顔を見て頷く。



 こうして僕らは赤名の誘いを受けることにした。そのライブハウスで悲劇が起こることも知らずに。





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