第40話 妹、思い
バンドを結成し、約二月が経過した。
僕らのWouTubeチャンネル登録者数は500万を突破し、アップした曲の最高視聴回数は
【零】
8,714,166回視聴
《good》
68万
となっていた。他の動画も軒並み100万再生はゆうに超え、これはもうかなりの人気チャンネルなのではないかと思われますねえ。今まで怖くて目を逸らしていたけど。
それと未だ名前が無い。コメント欄では「phantom call」とか「怪物ロック」「名無し」「モンスターズ」だとか、そういう色々な呼び方で呼ばれているけど。
結局今のところ夏希の名前無し案が通っている形となっている。
(もうずっとこのままかもしれないな、これは)
ちらりと部屋のカレンダーを見る。明後日、僕らの二度目のライブが行われる。それは町で行われる夏祭り。比較的小さなイベントだが、実戦経験を積むという意味合いでは大きなライブになるはずだ。
いうてまだ学祭のライブ一度しかしたことがないからな。ライブハウスでも出たいと申請をしたことがあったけど、出演枠は割と熾烈な争いみたいで断られ続けている。
ちなみにこんどの夏祭りではそのライブハウスの店長が視察?というのか?僕らの演奏を観てくれる予定で、それによってはライブハウスイベントに出してもらえるかもしれないらしい。大チャンスだからモノにしたい。
(学祭の動画はあるけど、やっぱり生で聴いてもらったほうがいいからね。って、深宙が言ってた......それには僕も同意だ。やっぱり動画と生演奏じゃ全然違うから)
「おにーちゃん」
そう言ってベッドのしたからにゅるりと妹、刹那が這い出てきた。
「ん、どうした?」
もう驚きもしない。え、妹がベッドの下に居ること知ってたのかって?いいや知らないさ。毛ほども。でも僕はこいつのことをもう忍者的な何かであり自身で公言していたようにストーカー的な何かだと理解している。
だからもういつ部屋に忍び込まれようが驚くに価しない。
(さーて、そろそろ部屋の鍵でもつくるか......)
そんな事を僕が考えている事も知らず、刹那は笑顔で問うてくる。
「今度の夏祭り、おにーちゃんライブするんだよね?」
「え、あれ?僕、刹那に言ったっけ?」
「深宙ちゃんに聞いたんよ。ほら、この間ウチに来たときLlne交換しててね、言ってたの」
Llenはメッセージのやりとりや通話することのできる携帯アプリだ。いつの間にそんなものを交換してたんだ......全く気が付かなかった。
これは僕に対するストーカー行為に拍車がかかるわけだ。なんか行動を監視下におかれているような感覚に陥った事があったけど、そういう事か。おそるべし、忍びの者。
「だからね、おにーちゃん達のライブ観に行こうと思ってましてね」
「え、観に来るの!?」
「そりゃ行くっしょ!友達とお父さんお母さん引き連れてっちゃるぜ!」
「はずかしい......やめて」
家族と妹の友達とか、顔から火がでそう。
「大丈夫だよ!みんな優しいから」
優しいからってなに?下手でも安心してくれってこと?失礼しちゃわなーい、この子。......いや、不安にさせないための言葉なんだよな。基本刹那は優しい子だから、気を遣ってるに違いない。......ストーキングされてるのに優しいってなに?
「というか、さ。おにーちゃんの歌、友達にも聴かせたいんよ。この間の、すっごい上手だったし......だめ?」
くっ、最も可愛く庇護欲を掻き立てる角度で首を傾げやがる。......ってか、まてよ。もしかすると、上手く行けば冬花と家の家族を会わせることが出来るな。
(あれから野菜嫌いな冬花の飯を定期的に作るローテーションを組んでみてはいるが、どうしても行けない日があったりする......これがもし今回の件で僕の家族に冬花が慣れてくれたら、家に招いて飯食わす事も可能に)
あ、こないだエナドリの缶片付け忘れた......。
「いいよ。ライブ、観ても」
「ほんとー!?やったあ!」
いや知ってるけどね。どうせどのみち来ることは。けど、形上でもここでこいつに貸しを作っておけば後に良い方向へ流れを作れるはず。冬花関係で。
「ちなみに友達って何人くるんだ?」
「えっと、女の子二人だよ。昔お兄ちゃん会ったことあると思う」
「そっか」
まあ、覚えてないと思うけども。昔妹の友達と会ったって、小学生の時が最後だったきがするし。つーか、良かったよ。男だったら僕がそいつとマンツーで夏祭りする所だったから。
いつもストーキングされてばかりだと思うなよ。恨むなら妹を恨め。
いや男じゃないんだけど......まあ、もし男だったらね。覚悟してねっていう話。今までやられた分はお前の男友達で償ってもらう。可愛い刹那に変な虫がよらねえようにな。べ、べつにシスコンとかじゃないんだからっ!
「おにーちゃん、ちなみに何歌うん?オカロ曲は歌う?」
「んー、今ん所は歌わない予定だな。一応、町の夏祭りだし、皆がわかるような曲をやろうって話になってるんだよ」
「えー、オカロ曲聞きたかったぁ」
「......ギトギトアブラヨゴレ?」
こくこく、と頷く。
「あれ、サイッコーだよね!めっちゃ好き」
ニカっと笑う妹。
「まあ、また今度な」
僕はそう答えた。
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