第30話 結果



 水戸田の一言で恐ろしいほど場の雰囲気が悪くなったのを感じる。こいつ、俺をつけてたのか......いや、まだだ。


「何言ってるんすか!俺がそんな卑劣なことするわけないでしょ!?あれは放送部の女子が操作ミスって、それで俺が代わりになおしてやろうと......」


「ああ、そうなのか。あれ電源切れてただけみたいだけどな。赤名が代わりになおさないとって状況でも無かったと思うが......もしかしてあの女子は電源入れる事すらもできなかったのか?」


 電源を入れる事すらも出来ない、か。


 いや、それでいいか。それもらおう。あの女は無能。だから俺に頼った。それでこの話は終了。俺、セーフ。


「そーなんすよね。放送部のクセになんにも分かってなくて......こまっちゃいましたよ」


「......」「「......」」「えぇ」


 あ、あれ?なんで?どーした?


「前々から思っていたけど、赤名くん空気読めない所あるよね」


 リードギターの瀧雅先輩が放った一言。それは俺にとってかなりの衝撃的な物だった。彼はバンドのリーダー。温厚で優しく人柄も良い先輩だ。


 そんな先輩が言ったこの批判的な一言はかなりの衝撃を俺に与えた。水戸田先輩ならわかる。あいつは口悪いクソヤローだからな。


「あは、は......え、え?」


「君、勘違いしてるよ。確かに、勝とうと頑張る努力する必要はあるよ?けど君のやってることは間違った頑張りだ。相手を下げて自分が優位に立とうだなんて......最低で卑劣極まりない行為だよ」


 最低?卑劣?何いってんだこいつは!?俺の話をちゃんと聞いてたのか!?批判されるべきは俺じゃねえ、あの放送部の女なんだよ!もしかして理解力たりてねえのか?


「は、はあ?なんで、俺は......だ、だからそんなこと」


「ああ、もう良い。僕が悪かった。このバンドから君を追い出せず、優しくしてしまった僕のせいだ......皆、ごめん。最後の学祭を楽しく過ごして終わらせたかったけど、僕が弱かった。はやくコイツを排除しとけば良かった。ごめん」


 排除、排除だと?俺がいなきゃボーカルはどーするんだよ?いやまて、排除......い、嫌だ。ここは俺の居場所だ。イケメンでカッコいい俺......俺の価値を最大限に引き上げる場所!!


 絶対に手放すわけにはいかない!!


 ――ワアッと盛り上がる客席。うるせえ、空気を読め!!俺の、お前らのスター赤名のピンチだぞ!!黙っとけバカどもがよ!!


「あ、あの、すみません......なんかよくわからないケド、すみませんでした。真面目に練習するんで......ほんとすみません」


 死ぬほど嫌だがここは謝るのが最善だ。とにかくこいつらの謎の怒りを鎮める......なんとしてもこのバンドに居座ることが先決だ。


「真面目に練習するってお前、バカヤローか?今が本番だろが。って、バカヤローだったわすまんな」


 ......水戸田。コイツは闇討ちする。決定、はい決定。金属バットでケツフルスイングしてやるよ。


 そんなことを考えていると、鳴子がこちらへ歩いてきた。


「あのさ、これで最後だと思うから言うけど......人のことジロジロみるの止めたほうが良いよ。気持ち悪かったし」


 は?は?え、おいおい......俺は――


「え、気持ち悪かった?って、いや......鳴子、彼女だろお前......」


 初めて見る凄まじい嫌悪の表情。最早それは憎悪に近い物を感じるほどだった。


「名前、呼び捨てすんなし。キモチワルイ。ウチとあんたがいつ付き合ったんだ?」


「へ、え、だって......靴箱に手紙が入ってたしラブレター」


「ぶふっ、おまラブレターて」「あ、あー」「お前そーいうことかよウケるね」


 バンドメンバーが笑いだし、鳴子の瞳が冷たくなっていく。


「だれがお前に手紙なんか書くかよ。......女とみると見境なく口説くような軽い男、うち大嫌いだからさ。やめてくんない?」


 混乱する俺に水戸田が言う。


「おまえ、誰かにハメられたんじゃねーの?」


「は、はめられ、え?」


「だって八種はお前に手紙なんか出してねえって言ってるだろ。だったら別の誰かが八種を騙ってお前に偽のラブレターを送ったに決まってんだろ」


「いやあ、これで納得いったね。なんで赤名くんが八種にたいしてあれほど馴れ馴れしかったのか」


「......ホント、サイテー。その手紙だしたやつも許せないわ」


 ――ドッ、と歓声がまた上がる。次の曲へ移行しベースがスラップを始めたようだ。


 なにもかにもが癇に障る、苛立ちがかつて無いほど俺のなかで暴れ回っている。血管が破裂しそうだ。


 なんなんだこいつら!!俺は、俺だぞ!?WouTubeで人気の.......そーだ、Pwitterや他のSNSでだって!!だから、こんな......底辺共にコケにされてたまるかよ!!


 ふと鳴子の視線が舞台上のサトーへ向かっている事に気がついた。そして小さく、だが確実にハッキリとその呟いた言葉が俺には聞こえた。


「......佐藤くん凄いなぁ」


 その眼差しは羨望、憧れ。


(......上等だよ。実力、だな?実力でわからせれば良いってわけだ。次の演奏で俺が本気を出す......それで認めさせる。こいつらバンドメンバーを)


 って、あれ?


 見ればバンドメンバーが楽器をしまいだした。


「あ、あ、えっと?あと一回出番が.......」


「ははっ、出ないよ赤名くん。この状況わかってる?出ても恥かくだけだよ。もうあの子らで終わり......」


「赤名、出たきゃお前一人でやれよ」




 ......え、終わり?


 もう終わり?


 嘘、だろ......。




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