第13話 バズ
その夜、WouTubeに楽曲をあげたと深宙からURLがメッセージで送られてきた。クリックすると、直接WouTubeに飛ばされるのかと思っていたが、なんといつの間にかつくられていた僕らのバンドのHPがそこには現れた。
まだ作りかけのようで、メンバーの名前、WouTubeへのリンクしか無かったが、壁紙等の細部まで凝った造りになっていて僕は「すげぇ」と独り言を呟いた。
(誰が作ったんだろう......深宙かな)
そんなことを考えつつWouTubeのリンクをクリック。すると再生リストが現れる。
ふんふん。やっぱ、多く再生されるのはメジャーどころだよな。
カバー三曲の投稿時間が一時間前とある。全て再生数が約3000前後か。しかし数値をみたところでピンとこない。これが多いのか少ないのか。
(オリジナルは218......か)
次に気になったのはチャンネル登録数。開設されたのが三日前、登録者は103人。無名バンドでこれは中々のものじゃないかな。わからんけど。
まあ何はともあれ、これで僕らのバンド活動が本格的にスタートした。
(がんばらなきゃな)
そういえば、僕らのバンドって......名前なんていうんだ?
◇◆◇◆◇◆◇
WouTube
コメント 139
『なんかすげーバンドみつけた』
『上手すぎ』
『ギター上手いなあ』
『なんだこのクオリティは!?化け物すぎるわw』
『高校生バンドてマジ?』
『嘘』
『これは流石にありえん』
『ボーカル凄いな。女?』
『生でききたいわ』
『すごくね!!』
『ここ最近のバンドでトップクラスの腕前だと思う。これから必ず伸びる』
『ベースやばすぎるな。センスの塊だわ』
『つんざくハイトーンボイス☆』
『わくわくする。。。』
『こーれは、ファンになるわ!』
『あれこれ、バンド名なんてーの?』
『高音もそうだけど、低音もしっかりしてる。このボーカル隙がない』
『カバーのアレンジ好きすぎる!』
『ボーカルの声、たっけえええけ!!安定感もやべえええ!!』
『パーカーのボーカル何もんだよww』
『鳥肌やべえ』
『ギターの女の子可愛い』
『歌唱力がずば抜けてる。みんな上手いけどボーカルが別格』
『お願いします!Discordやって欲しいです!』
『声いいなおい』
『すごく良い声!惚れました!!』
『な ん て バ ン ド だ よ』
『ドラムカッコいい』
『楽器隊が上手いから歌映えるなあ』
『オリジナル曲も最高だぞ』
『ドラマーかっけー!!w』
『春雷やってください!』
『これボーカル女?男?ふつーに女性キー安定して出てるんだが』
『一体感が良いね』
『お兄様カッコいい』
『いやwwなんだよこのボーカルwww』
『からだ小さいのにこのベースの迫力。ギャップやば』
『ギターが先導してる』
『めちゃくちゃ好きになりました!応援してます!』
『名前は!?バンド名は!?』
『カバーもいいけどオリジナル曲も熱いぞ!』
『なんやこの一体感。プロクラスのテクニックといい絶対高校生じゃないだろw(褒め言葉)』
『巧すぎて飲み物ふいたわ』
【アウトサイダー】
23,863回視聴・2時間前
《good》
8675
◇◆◇◆◇◆
朝起きると深宙からのメッセージが入っていた。ここ最近のバンド活動が思いの外体力を削っているのか、21時頃ベッドに腰掛け、なんか眠いかも......と思ったそれ以降の記憶がない。
『おはよう春くん!!急だけどバンド名候補考えといて!!忘れてた_(:3」∠)_』
忘れてたの!?衝撃の事実!!どうりでHPのどこ探しても見当たらないわけだ。名前ないままWouTubeデビューしちゃったのか。
「ん?」
もう一つメッセージが着ている。差出人は有栖さん。文面が無く、かわりに画像が添付されていた。開いてみるとそれはWouTubeの画面。
「は......え、え?チャンネル登録者数、21.7万人!?」
寝ぼけた頭にハンマーを落とされたかと思うような衝撃。しかし、驚くべきはそれだけじゃなかった。
【アウトサイダー】
568,869回視聴・12時間前
《good》
8.2万
「......」
もはや言葉を失うレベル。昨日上げたばかりの動画。最後に見た時の再生数は3000前後、登録者は確か100人くらいだった......それが一夜にして20万人超え。夢でも見てるかのようだ。
携帯でWouTubeを開き、僕らのバンドのページへ飛ぶ。
(......夢じゃない、っぽい。なんだこの伸び方......)
ん、あれ......オリジナル曲、これ。
【explosion】
1,200,397回視聴・12時間前
《good》
19万
「いや、怖っ!怖い怖い」
流石に怖い。なんだこれ、なんだこれ!意味不明なくらい伸びてるんだけど!?手が震えてきた......。
震える携帯。またもやメッセージが一件。また深宙かとおもったが、今日はモデルの仕事で忙しいと言っていた。さっきのメッセージも無い時間を縫って送ったことがうかがえる文面だった。
そして此度の差出人は――
『おはようございます、お兄様。急ですが、お聞きしたい事があるので時間のある時に連絡を下さい。できれば通話が望ましいです』
珍しいな。深宙と夏希からはことあるごとにくるメッセージだが、有栖さんからくることは滅多にない。とはいえ、まだ一週間に満たない付き合いではあるが、彼女からはこれが二つ目の手紙だ。
(学校に向かうのにはまだ時間はある......今かけとくか。緊急を要する事だったらあれだし)
携帯のコールマークをタップ。妙な緊張を飲み込み、彼女が出るのを待つ。
『お、おお、お兄様っ!おはよ、ございますっ』
4コール目で出た有栖さんは何故かテンパっていた。タイミング間違えたかな。こんな早くに連絡してくるとは思わなかった感じか。
「朝早くにごめん。なにか急用かと思って......タイミング悪いなら後でまたかけ直すけど」
『あ、いえ、大丈夫......です!取り乱してすみません、お兄様』
ふと思う。
「前から思っていたんだけど、そのお兄様って......」
『......い、いやでしたか?』
「嫌では無いけれど、別に呼び捨てでもいいんだよ?ほら、皆も僕のこと春って呼んでるし。あ、深宙はくん付けか」
『......』
ん、あれ?黙っちゃった......もしかして、気を悪くしたか?
『で、でしたら』
「うん」
『私も有栖さん、は嫌です』
「!」
......そうか。彼女もそうだったんだ。僕が皆に下の名前で呼ばれている。けれど、有栖さんにだけは呼ばれない。
彼女だってそう。僕は深宙と夏希を下の名前で呼びすてにしているのに......疎外感。僕にそんな意図も思惑もあったわけでは無いけど、彼女からすれば寂しさに成り得たものかもしれない。
『......え、と......』
「冬花さん」
『......っ、は.....!』
「あ、いや、冬花。寂しくさせてごんめん......」
『......ふ、あ......ぃ――プッ、ツーツー』
「......え?」
切れた?と、その直後メッセージが飛んできた。
『すみません、ちょっと充電が切れてしまいまして。この話はまた今度で』
あ、びっくりした。切られたのかと思った......焦った。
って、あれ?そういえば、急用って何だったんだ?
◇◆◇◆◇◆
「......と、冬花って、呼んでくれた......!」
両手で触る頬が高揚していることを熱が伝える。
ばくばくと跳ねる心臓。ベースの重低音にもにた心地よさ。
「......うぅうっ......嬉しぃい......!」
左耳から全身へと幸せが巡る。
今までに感じたことのない感情が、私の中で春風の巻き上がるかのように騒ぎ立てていた。
「......あ、用件伝えるの忘れてたっ!!」
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