陰キャでイジメられていた僕が「そろそろバンドでも組もう」と可愛い幼なじみに頼まれ、バンドのボーカルになった件。

カミトイチ@SSSランク〜書籍&漫画

第1話 最下



――ぽこん、と後頭部に何かが当たる感触がした。それが僕の机に落ち、床に転がる。消しゴムだった。



(......また始まった)



 僕の名前は佐藤さとう はる。高校一年生。


 いつも昼休み昼食を終えた後、僕はワイヤレスイヤホンをして曲を聴きながら外を眺めたり机に突っ伏す。外界との遮断。好きな音楽に満たされている時だけが、この学校生活で唯一の幸せだ。


 傷だらけの机も、たまに置かれる花瓶も、こうして始まる的あてゲームも......割とキツい時もあるが、こうして心地よい曲と詞に満たされていれば、全てが些細なことに思える。


 僕はゆっくりと流れる曲に潜り込もうとする。しかし、今日の彼は機嫌が悪かったらしく、そうはさせてくれなかった。

 イヤホンを取り上げれたのだ。


「...あっ、か、返して...」


「お前さあ、無視すんなよ。泣いちゃうよ、俺〜」


 彼の名前は赤名あかな 修義しゅうぎ


 クラスのムードメーカーで、一年ながら上級生にも告白された事もあるイケメン。動画サイトのWouTuberもやっていて登録者は3万人。Pwitterのフォロワーは2万人。

 学校の軽音楽部に所属し、彼以外2、3年生のバンドでボーカルギターを努めている。


 いわゆる陽キャって奴だ。


「お、このイヤホン良いやつじゃん。5万くらいだっけ?」


「...そう、だけど」


「おいおい、こんなもん買うくらいならもっと買うもんあるだろ〜」



 そう言い僕の鞄を指差す。所々ほつれたり落ちなくなった汚れがある。



「俺ならソッコーでこっち買い替えるわ!なんでコレで学校これんだよ〜?なあ、サトーちゃん?恥ずかしくねえの?俺が買ってやっか?」



「あはは」「やっさしー」「可哀想すぎんだろ!」


「うける修義ー」「「あはは」」



 ウケて場が盛り上がっているのに気分が良くなってきたのか、彼は携帯を取り出し更にこういった。


「でもまあ、ただで買ってやるわけにはいかねえよな?ちゃんと対価がないとさ?つーわけで」


 パシャッ


「え、ちょ...なんで僕の鞄」


 携帯で鞄が撮られた。そして修義は口を歪ませ、携帯を操作する。


「えーと...タイトルはそうだなあ、『ロックな鞄』だな」


 ドッとクラスが湧く。


「いやいやいや、地味で陰気なサトーがロックとか!!」「センスあるねえ!」「あははは!」「やっぱりバンドボーカルやってるだけある?」「カンケーねー」「マジでウケる!」


「おいおい、こっから!こっからだから!」


 皆を制する赤名。すると今度は僕に携帯の画面を見せてきた。そこに写っていたものは、SNS、Pwitterの制作画面。


 先程言っていた『ロックな鞄』というタイトルと共に、鞄とモザイクの入った僕の顔の写真が載せられていた。


「ほーら、サトー。いくぞー」


「や、まっ」


 投稿ボタンが押された。


「......」


 教室はさらなる盛り上がりを見せ、笑いに包まれた。無言な僕を差し置いて......いや、見世物として置かれていた。


「だーいじょぶ!安心して?ほら、顔モザイクかかってっからさ!」


「やっさしー」「さっすが気配り名人!」「ぷっ、おまえらマジで言ってる?あんなモザイクじゃバレバレだろ!あはは」「いやつーか、片目出てるし」


 と、その時。鐘の音が鳴り、扉が開かれた。


「......はい、授業、始めますよ......」


 入ってきたのは女教師。僕らの担任で当初は明るい人柄の先生だったが、一度このクラスでイジメられてからこうして暗くなってしまった。

 その髪を揶揄し僕以外のクラスの人間からはサダコさんと呼ばれてる。


「......佐藤くん......座って」


 他にも席についていない人はいたが、決まって注意されるのは僕だけだ。特に赤名たちのグループには例え授業中に談笑していたとしても何も言わない。彼女もいじめを恐れている。


「......はい。あの、赤名くん」


「あ?ああ、そーだな。ホラよ」


 取り上げられたイヤフォンを放り投げる赤名。しかし投げた先は僕の元ではなく、教室の後ろにあるゴミ箱だった。

 見事にホールインワンをキメた赤名に再びクラス中から笑いと称賛の声が湧き上がる。


「あっ、まじ!?ごめん、さっきポテチョ(お菓子)食べたから手が滑っちまった、わりぃ〜!」


「あはは、いや食べてねーし!つか、んなすべんねーし!」


「ホント面白いね、修義」「さすが人気WouTuber」「カッコいいし」「陰キャすら輝かす陽キャの神!」


 楽しげな彼らを背に僕はゴミ箱からイヤホンを探し取り出した。ガム......ついてる。あの投げ捨てる一瞬でつけたのか......逆に凄いな。


「......佐藤くん......早く、席に......」


 先生のか細い声がする。


「......はい」


 僕は粘着くガムを剥がし、大切なイヤホンを握りしめた。










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