異世界美人事務員二刀流無双剣
mikio@暗黒青春ミステリー書く人
邂逅編
「うーん、不振だなあ。今季もちょっと厳しいかもしれない」
家に帰る途中で若い女性を庇ってトラックに跳ね飛ばされ異世界に転移し数年間の下積みを経てこぢんまりとした冒険者ギルドの経営をはじめたこと以外に取り立てて特徴のないギルドマスター・
「確かにてんちょは見た目が不審人物ぽいですし婚期を逃すと厳しそうですよね」
そう言いながら事務室に入ってきたのは、ギルド『七転び八起き』とは縁もゆかりもない美人さんだった。
「ギルドの経営について思い悩んでいただけでそこまで言われることってある? っていうか、えっと、どちら様ですか?」
だいたいいつも腰の低いカナヤマ店長は、自分に辛辣な言葉を浴びせかけた美人さんにもへりくだってそう尋ねた。でも、美人さんは何が気に食わないのかムスっと口を尖らせて、持っていた紙をぴらぴらさせる。
「冒険者酒場に求人案内が出てたんで訪ねてきたんですけど」
「あちゃー。それ、二か月前に取り下げた求人ですねぇ。困ったな。親父さんにポスター剥がすよう頼んどいたんだけどなぁ」
「もう打ち切っちゃったんですか?」
「人手は欲しいんだけどね。今のうちに新人を雇う余裕はないし、ある程度技術がある冒険者ならもっと条件が良いところを探した方が良いだろうから」
「そうですか」
美人さんは短く応じて紙片を差し出した。さっきの求人広告ではない。履歴書だった。
「どういうこと?」
「新人ではないしある程度技術もありあすし、てんちょも求人をやめたわけではないようなので」
「……君も変わり者だね。じゃあ、とりあえず座って。面接しよう」
美人さんが椅子に座ると、カナヤマ店長は早速尋ねた。
「まずはお名前をどうぞ」
「
「ウティカさん、ルビでフォローすればどんな暴言も許されるって思ってない?」
「
「それだとぼくには『クソ野郎』って聞こえるだけなんだなぁ。ええと、ウティカさんは『
「|役不足でしょうか?《※役不足とは役目が実力不相応に軽いことをいいます。つまり美人で優秀なウティカさんは『七転び八起き』は自分の実力にふさわしくないしょんぼりギルドだと主張しているわけです》」
「
「
「……この経歴でその暴言癖さえなければ引く手あまただと思うんだけどなぁ。さておき、持ってるスキルなんかも聞いていいかな?」
「メジャーなやつだと『二刀流』とか」
「へー。結構な強スキルを持ってるね」
「あと、一時期
「え、ちょっと待って。さらっと言ってるけどそれってマスター
「事務員です」
「え?」
「ギルド『七転び八起き』の事務員希望です」
「二刀流使いで?」
「はい」
「マスター級の弓スキルも持ってるのに?」
「田舎の両親をそろそろ安心させてやりたいので」
「いやいやいや。もったいないって。事務じゃウティカさんのスキルに見合ったお給料出せないし」
「でもわたし、事務能力もかなりのものなんですよ」
「履歴書に事務経験なんて一行も書いてないんですがそれは」
「良いから四の五の言わずに机の下から二番目の引き出しを開けて、未処理の書類を取り出してください」
「なんで君がそんなこと知ってるの」
「下見に来たときに確認しておきました。ちなみに奥の金庫の番号は左8、右9、左1、右4です」
「諜報員志望かな?」
「斥候職もマスター級持ってます。事務員志望です。良いから五秒以内に書類全部持ってこいや」
「アッ、ハイ」
だいたいいつも腰の低いカナヤマ店長は、ウティカさんの傍若無人な物言いにもへりくだってそう答えた。
「どうぞ」
手渡された事務所類をむんずと掴んだウティカさん、それをぱっと空中に投げるや否や、懐から二本の羽ペンを取り出した。一本は右手に、もう一本は左手に。
ザシュ、ザシュウ! 心地の良い斬撃音とともに、未処理の事務文書に必要事項が記載されていく!
弓打ちのスキルである『精緻なる乱撃』は本来であれば立て続けに四度、精密射撃を行うものである。しかし、弓打ちを極めたウティカさんであれば、これと同等のアクションを他の装備品でも実行できるのである。
他の装備品――すなわち羽ペン。しかも二刀流スキルを持つウティカさんは左右の手に一本ずつ羽ペンを装備しているのである。
ザシュ、ザシュウ!
ウティカさんが動きを止めたとき、床に散らばっていたのは全て処理済みの事務文書だった。その数、精緻なる乱撃と二刀流の効果が掛け合わさり――8枚。
「す、すごい」
「……精緻な乱撃には命中補正もあるので、作成した資料に誤りはありません。というかてんちょが書いた内容に誤りがあったのでそれも直しておきました」
「ほ、ほんとだ……」
「というわけで、雇ってもらえませんか?」
「君が望むなら、うちとしては願ったりかなったりだけど」
本当にうちで良いの? とはカナヤマ店長は言えなくなってしまった。何しろ、たいへん美人なウティカさんが、満面の笑みをうかべてガッツポーズをしていたので。
「よろしくお願いします、てんちょ」
「さっきからその呼び方だけど、一応うちも冒険者ギルドのはしくれなんだから、ギルドマスターって呼んでくれるとありがたいなぁ」
「嫌ですジャイアントワーム踊り食いの方がましです拒否します」
「そんなになの?」
「ま、呼び方くらい良いじゃないですか。ね、てんちょ?」
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