あのまばたきの意味

猫又大統領

読み切り

 今、僕の人生史上で最大の危機を迎えている。

 明るく光る月に照らされる神社の境内。

 僕は仰向けに地面に倒された。

 お化けが馬乗りになって僕を見つめる。

 輝く月にも劣らないその瞳。

 月光が撫でる黒く長い艶のある髪。

 僕の首にかかるその冷たい白い手。

 恐怖よりもすべてが美しく見えた。


 

 僕は帰宅途中に神社で少し休憩をする。

「毎晩こんなお化けがでそうなところにやってきて、よく平気ね」

「お化けに言われても」

「言い返すなんて百年早い!」

「お化けって意外と明るいんですか?」

「色んなのがいる」

 ある日、降り出してきた雨を避けるために偶々寄った神社でお化けの女性に出会った。

 年齢は二十代中頃のようにみえた。それからほぼ毎晩のように来ている。

「政府がお化け退治をしているって噂本当なんですかね?」

「そうみたいね。気を付けなよ」

「僕は人間ですよ! そっちこそ気を付けないと!」

「はいはい。そうですね」

 そういうと、女性はボロボロになっている雑誌をめくる。

「ウインクで男をメロメロ」女性はそう呟いた。

 その言葉に反応して顔を見ると、両目を閉じたり開いたりしてきた。

「それは、ウインクじゃないですよ」

「い、今のはアイコンタクト」そいう言いながら顔を伏せた。

 その時、鳥居のほうから二人組の男がこちらに歩いてきた。

「幽霊発見。少年もいます」

 一人の男がそういった。

「大丈夫。俺たちは悪霊退治屋だ」

「あ、悪霊じゃないですよ」

 そういって、僕は女性の顔を見た。彼女がウインクしたように見えた。その次の瞬間。

 彼女は、僕に向かって飛び掛かった。

「少年から離れろ! ここでお終いだ!」

「やめろ」もう一人の男がいった。

「そうだ!やめろおおこの悪霊がああ」

「お前だ。やめだ。よく見ろ、少年の首に手はかかってるが力がまったく入っていない」

 その通りだった。力のない手が首に触れているだけ。

「少年に面倒なことが起きないように、芝居をしてるだけだ」

「つまり、この少年は霊と交流を? それは大きな問題ですよ」

「三文芝居の見物代として今日は去ろう」

「いいんですか?」

「ああ。俺たちお邪魔むしになってるぞ。さあ、帰るぞ。酒でも飲んで帰ろう」

「はい。喜んで」

 男たちはそういうと帰って行った。

 見逃されたのか、呆れられたのか。

 彼女と静寂の境内で月を見上げた。

 いつも二人で居た時とは違って、何気なく出てくる言葉が今は出てこない。

 それは、あのまばたきのせいだと思う。

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